第5話「新たな挑戦のスタート」
都心のホテルラウンジ。大きな窓の外には、東京の夜景が広がっていた。香坂美月は、目の前に座る村上隼人の表情を見つめながら、これまでのカウンセリングを振り返っていた。
「さて、村上さん。今日でこのカウンセリングも一区切りですね。」
「そうですね。始めたときは、自分がどこに向かうべきか全く見えていませんでしたが、今は自分が進むべき道がはっきりとしています。」
村上はそう言うと、静かにコーヒーカップを置いた。
「この数週間で、講演の準備も進みましたし、メンタルトレーニングの資格取得についても明確なプランが立てられました。元プロアスリートとして、これからは次の世代に向けて経験を伝えていくことに、しっかりと意義を感じています。」
「それは素晴らしいですね。実際に動き始めて、何か新しい発見はありましたか?」
美月が尋ねると、村上は少し考え込みながら答えた。
「自分が思っていた以上に、多くのアスリートが引退後のキャリアに悩んでいるということです。いろいろな人と話していく中で、『村上さんの話をもっと聞きたい』と言われることが増えました。そう言ってもらえると、自分の経験も誰かの役に立つんだと実感できますね。」
「とても貴重な経験をされてきましたからね。これからの活動が、きっと多くの人の支えになると思います。」
村上は深く頷いた。
「ありがとうございます。」
美月は、そっとテーブルの上に封筒を置いた。
「では、最後にカウンセリングの領収書です。今回のセッションの総額をご確認ください。」
村上は封筒を開き、中の明細を確認した。
カウンセリング料金明細
・第1回(90分):15,000円
・第2回(90分):15,000円
・第3回(90分):15,000円
・第4回(90分):15,000円
・第5回(90分):15,000円
合計:75,000円
村上は領収書を眺めながら、少し笑った。
「正直、最初は『プロのカウンセリングなんて本当に効果があるのか?』と思っていましたが、今はこの金額以上の価値を感じていますよ。」
「そう言っていただけると嬉しいです。」
「実際、このカウンセリングを受けなかったら、今もまだ悩み続けていたかもしれませんしね。」
村上は封筒をしまいながら、満足そうに頷いた。
「さて、美月さん。これでカウンセリングは終了ですね。」
美月は、ここで少し間を置いてから、カバンの中から 白い色紙 を取り出した。
「実はですね……村上さん、ずっと言いたかったことがあるんです。」
村上は不思議そうに美月を見つめた。
「……なんでしょう?」
美月は、ほんの少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「実は、私、村上選手のファンだったんです。」
村上の目が一瞬大きく見開かれる。
「えっ?」
「もちろん、お仕事としてカウンセリングをさせていただきましたが……正直、最初にお申し込みが来たときは、ちょっとテンションが上がりました。」
そう言うと、美月は色紙をテーブルの上に差し出した。
「せっかくの機会なので、記念にサインをいただきたくて。ちゃんと色紙、持ってきました。」
村上は驚きながらも、すぐに吹き出して笑った。
「まさかの展開ですね……でも、光栄です。」
ペンを受け取ると、村上は色紙にサインを書き始めた。
「でも、美月さん、まさか メルカリ で売ったりしませんよね?」
「ちょっと、ひどいですね!そんなことしませんよ!」
美月は笑いながら軽く抗議する。
「まあ、冗談です。でも、これまでプロとしてやってきた証を、こうして求めてもらえるのは、やっぱり嬉しいものですね。」
村上はサインを書き終え、色紙を美月に渡した。
「ありがとうございます。大切にしますね。」
美月がそう言うと、村上は冗談めかして言った。
「いや、本当に売らないでくださいよ? ちゃんと飾ってくださいね。」
「もちろんです!」
二人は笑い合いながら、最後のカウンセリングを終えた。
「じゃあ、村上さん、今度サッカー観戦しながら美味しいお酒でも飲みましょう。」
「それ、いいですね。美月さん、ぜひご一緒しましょう。」
こうして、村上隼人の新たなキャリアは本格的に動き出した。そして、美月もまた、一人のクライアントの未来を支えられたことに、小さな達成感を感じていた。




