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4話

 さっき見たのは拳2つ分ほど。朝と比べたら大きいが明日の朝人間サイズになるほどの成長スピードじゃない。


 湿気を帯びた部屋の空気が彰人の体に触れる。

 それはまるで女性の手のようで、彰人は湿気から逃れようと冷房をいれて布団にくるまった。部屋の空気がさっぱりしていく。


(大丈夫、だいじょうぶ)


 きっと大丈夫だと自分に言い聞かせて眠る。






 寒さと疲れで眠りに落ちて、どれくらい経っただろうか。


 ふと目が覚めて朝かと思った。


 誰かがそばにいる。

 柔らかくしっとりした艶やかな感触。


「淋しくて、出てきちゃった」


 女の声がそう言った。

 目が覚めたと思ったのにここは夢の中だろうか。夢の中で夢を見ているんだろうか。ぼやけた頭で目を開ける。


 色白の美しい女が彰人の胸にしなだれかかっていた。

 彼の胸に頬を寄せて彼の胸板を愛しそうに手で撫でている。しかし、女から体温が感じられなかった。


「だっ! 誰だお前!」


 飛び起きた彰人を追って彼女も身を起こす。仰向けのまま床を這った彰人が壁に背をぶつけて動きを止める。その女はぴたりと付いてきた。


 いや。


 付いてきたんじゃない。


 付いてる。


 彼女は彰人の腹から上半身だけを生やして彰人に頬ずりをしていた。


「うわぁ────っ!! 離れろッ!」


 接合部は一体化していてどこからが女の部分なのか分かれ目が全くわからない。まるで結合双生児のように、どんなにもがいても彼女から逃れられなかった。

 彼女を引き剥がそうとする彰人の背に彼女の腕が回っていく。

 大切な人に抱きついて離さない。彼女の全身がそう言っている。


「あぁ、愛しい人」


 体温のない彼女の腕が彰人の背を撫でる。しっとりとひたりと彼女の腕が背に密着していた。

 彼女は本当に自分の体から生えてるのか。逆に自分の体に入り込もうとしているんじゃないのか。そう思うと言葉にならない恐怖が彰人を襲った。


(と・・・・・・取り込まれる!)


「やめろ!」


 口を寄せる彼女の顔に手を掛けて彰人は必死に逃れようとした。


「消えろッ! どこかへ言ってくれぇ!!」

「ここに住むかって聞いてきたのはあなたよ」


 はっとした。


『お前、ここに住む?』


 何気ない一言が、あの一言が引き金になったのか?






「まだ口がなくて答えられなかったけれど、私の答えはイエスよ」


 違う。

 きのこは勝手に生えたのだ。自分は悪くない。否定する彰人の思考に不動産屋の声が被った。


『変なのが生えると困りますから』




  呼び込んだのは俺か?







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