3話
「・・・・・・な、なんで?」
換気を怠ったのは一度だけ。
あれから欠かさず換気しているのに何故。
なぜきのこは生えたのか。今ごろになって不思議さが彰人の胸のうちで膨らんでいった。
妙なきのこが浴室で育っている。
またあの時の不動産屋の声が彰人に耳打ちした。『変なのが生えると困りますから』頭の中から押し出そうとするように彰人は頭をブルブルと振る。
きのこを避けて浴室から出る。なぜか目が離せなくてきのこに視線をロックオンにしたままドアを潜った。
「嘘だ・・・・・・どうかしてる」
きのこが振り返った!
そう見えた。
彰人と目を合わせたまま頭を回らせるように、きのこの頭が回った。目も鼻もないのっぺりした白い面がこっちを見てる。ぞっとした。
「まさか」
いま目にしたものが信じられない。
黒っぽい茶色の笠はもうおかっぱではなかった。セミロングの女性のような形で白い面がずっとこちらを見ていた。見間違えるわけがない、あれは振り返った。
(怖い・・・・・・)
その夜、彰人は風呂に入らなかった。入れなかった。あんなものの居る場所で体を洗ってなどいられない。
部屋はいまだに湿気が強い。まとわりつく空気がぬるりと彰人を包んでいる。
(あのきのこ、取らなくちゃ!)
一刻も早く取って捨てたい。
でも・・・・・・とためらう。
いったん閉めたドアはその向こうが見えない。すりガラスは上半分だけ。下の部分は隠れて見えなかった。
浴室のドアを開けるのが怖い。
見えないドアの向こう。
きのこは動かない。動かないはずだ。
動くはずがない、そう思っても恐ろしかった。本当に動かないんだろうか。あれはさっきこっちを向いた。確かにこちらを見ていた。
(きのこは動かない。・・・・・・動かない? 動かないのか?)
では、どこから来たのか。
きのこは動く。粘菌のように地を這って移動をして、ここぞという場所できのことして育つ。そんな映像をテレビで見たことがあった気がする。
(ドアの隙間から出てきたりしないよな)
凝視するドアの向こうから何かが動く気配はしない。気配はないが・・・・・・。
(明日、明日取ろう。夜が明けてから、明るくなってから取ろう)
しかし・・・・・・きのこはあの中で今も育っているに違いない。明日の朝にはどれくらいのサイズになっているだろうか。
(まさか、人サイズになんて・・・・・・)
いっきにそんなに成長するはずが・・・・・・。
彰人の心のなかでむくむくと成長するきのこの映像が結ばれる。寒くもないのに彰人は身震いしていた。




