2話
「え? どういうこと?」
朝、風呂に入ろうとして何気なく見たあの場所にきのこが生えている。彰人は思わず笑った。
「いやいやいや、嘘でしょ?」
昨夜見たのと同サイズのきのこがちんまりと居座っている。とりあえず体を流して朝食をとって家を出た。
(帰ったら抜いてやろう。カビ取り剤ってきのこにも効くのかなぁ?)
そんな事を考えながらの出勤だった。
帰宅してすぐに浴室をのぞく。
当たり前だがきのこはそこにいた。朝よりもほんの少し育っているようだった。
(これ・・・・・・食べられるきのこかな?)
ふと育ててみたい気持ちが湧いた。
丸みを帯びた笠が心なしか傾いていて「よろしく」と言っているようだった。なんだか愛らしく思える。
「お前、ここに住む?」
言って彰人は笑った。
きのこに話しかけるなんてヤバいやつになりかけてる。いや、もうじき30代突入だ。独り言の多いおじさんになりつつあるのかもしれない。
「食べ頃を教えろよ」
何の気なしにそんな事を言って買ってきた弁当を食べる。食後に風呂に入った。
風呂に入りながらきのこが気になって、なるべくシャワーが直接当たらないように気を付けながら体を洗った。
朝、目が覚めていつものように浴室へ向かう。
「・・・・・・ッ」
ぎょっとした。
きのこが大きくなっていた。いや、極端に大きくなっていた訳じゃないけれど、形にどきりとしたのだ。
きのこの笠が不均等に広がっていて、何となくおかっぱの女の子みたいな形になっている。女の子が小首を傾げながらこちらを見上げている。そんな形に見えた。
「エリンギみたいに軸が太いタイプのきのこ・・・・・・かな?」
きのこに背を向けて風呂に入った。なんだか見られている気がして恥ずかしさを感じる。
(きのこに見られて何が恥ずかしいんだか)
自分に突っ込みを入れて笑う。
跳ねた水できのこがぬるりと光っていた。
仕事を終えて帰宅した彰人は玄関のドアを開けた瞬間思わず声が出た。
「・・・・・・ッ! うっわ!」
部屋の湿気が酷い。
ドアを開けたとたん重みのある空気に包まれて驚く。
「なんだこれ!」
扇ぐようにドアをパタパタと動かしてみるがそうそう換気はできない。
彰人は部屋に走り込んで窓という窓を全開にした。そして浴室の窓も開ける。
ふと、気配を感じた。
誰かの視線を感じる。
そろりと浴室内に目を向けると、きのこが・・・・・・こちらを見ていた。
つるりと白い軸にはくびれができて、艶かしくしなを作っている。そして、丸みを帯びた顔らしい部分がのっぺらぼうのままこちらを見上げていた。