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【03】異世界転移しよう

「俺、異世界転移しようと思う。」


 またまた大学の学食で、友人にそう言い放った青年の名は赤池。

 だが今回の相手は親友の植田ではなく、同学年の女性だった。


「…ごめん、ちょっとよくわかんない。詳しく教えて?」


 植田と同じく、変人赤池を突き放すことなく受け入れる構えを見せたその女性の名は荒畑アラハタ。ショートボブで気の強そうな目つきの彼女だが、姉御肌の性格も相まって周りからも慕われていた。


「ほら、俺達ももう三年じゃん?来年卒業じゃん?就職しなきゃじゃん?でも今のご時世、就職って色々と大変じゃん?だったらもう異世界しかないかなって。で、それならやっぱ転移かなって。」

「アッキー、アンタ……マジ?」

「ああ、マジだ。行くよ異世界。」

「いや、“頭大丈夫?”って意味で言ったんだけど。」


 どうやら荒畑も植田同様、まともな感性を持っているようだ。



「…とまぁそんなわけで、異世界に行けないか植田と色々考えてたわけよ。」


 訳がわからない荒畑に、これまで植田と語らった内容を一通り説明した赤池。

 説明は所々あやふやではあったが、荒畑は持ち前の理解力でカバーした。


「…なるほどね、大体わかったよ。大体の事情と、そしてウエピーの苦労が。」

「ん?おいおい、そりゃどういう意味だよアッラー?」

「いや、だからその呼び方やめてって言ってんじゃん。アンタのせいでイスラム圏出身の子らからメッチャ拝まれるんだからね?」

「まぁ挨拶はこのくらいにして、だ。前に植田と『召喚』ってことで進めたんだけどさ、結局呼ぶ側任せってのがやっぱ心配でさぁ。呼んでくんなかったら終わりじゃん?」

「えっと…二十歳過ぎて異世界に呼ばれようとしてる時点である意味終わってるけど、それは言わない約束?」

「うん、その方向で頼む。」

「オッケ~。んー、でも運任せって言うなら『転移』も似たようなもんなんじゃない?“気付いたら異世界”ってのが多いんでしょ?だったらそっちの方がルール不明の運任せって思えるけど。」

「確かにそうだな。だから“気付いたら異世界”のパターンは諦めて、違うパターンでの転移を狙う。」

「違うパターン…?今更だけどアタシそっち系あんま詳しくないからわかんないんだよね。例えば?」

「『転移』には他にも、“不思議アイテムによる転移”、“不思議スポットによる転移”、そして“不思議イベントによる転移”…この三つがあると思うんだ。」

「あ~、なるほどね。なんかわかる気がする。でもさ、それでも結局運任せなんじゃない?」

「まぁ最初の二つは、な。でも最後の一つ…“転移イベント”については、心当たりがある。前に俺が見た文献に、こんな話があったんだ。」

「おっ、いいねぇ文献!なんかそれっぽいじゃん。」

「その昔、とある漁村での話だ。虐められていた亀を助けた主人公が、亀の特殊能力で異世界に…」

「いや、それ『浦島太郎』じゃん!えっ、そういうこと!?あの話って異世界ものの元祖だったわけ!?」

「俺はそう見てる。」

「そっか…じゃあ…行くんだね?」

「ああ、助けてくるよ…亀。」

「なんだろ、とんでもなくフザけた話してるのに、ちょっとカッコ良く見えてくるから不思議だよね。なぜか無駄にカリスマ性あるよねアッキーって。」

「フッ、照れるぜ。」

「でもさ、浦島太郎って…結局バッド・エンドだよね?それはアリなの?」

「言われてみればそうだな…。それにタイやヒラメの舞い踊りとか別に楽しそうでもないし。」

「出てくる料理もきっと魚介類だよね?」

「ぜってー仲間じゃん…。よくそんな複雑な状況で楽し気に舞い踊れるよなアイツら…人間じゃねぇわ。」

「まぁ実際に人間じゃないしね。」

「…でも、何事も決めつけは良くないよな。もっと深く考えてやらないと。」

「え、何その無駄にカッコいい雰囲気…?会話のテーマと合ってなくない…?」

「あっ、コラ!何してるんだお前達、亀がかわいそうじゃないか!」

「…ハァ?アタシらが見つけたんだから何しようと勝手じゃん。なんか文句あんのオッサン?ブチ殺すよ?」


 唐突に小芝居に移った赤池だったが、とても自然に適応した荒畑。

 努力型の植田に対し、荒畑は天性の赤池対応能力を持っていた。


「いや、まだオッサンとか…言われる歳じゃないし…それに殺すとか…」

「気弱か!って、まぁ確かに亀を助けようって優しい人なわけだし、変に好戦的なのは違うのか~。やるねアッキー!」

「フッ、まあな。とにかくこの亀は離してやるんだ!」

「だからオメェ誰なんだよ!?」

「俺か?俺の名は太郎…浦島、太郎!」

「どうでもいいけど、なんでこういう名乗る場面って一回言い直すんだろうね?確かにそれっぽい感じにはなるけど。」

「だって大事じゃん“それっぽい感じ”。だからじゃね?」

「なるほどね。ありがとうございますお兄さん。お礼に可愛い女の子がいて飲めや歌えやの大騒ぎができるキラキラ光るお城へお連れします。」

「いや、言い方!それ完全にイヤらしいお店じゃんか!素直にウンと言いづらいわ内心スッゲーわくわくするけども!いいねー相変わらずブッ込んでくるねー!」

「任せて。アタシ、手を抜くとか好きじゃないから。始球式とか全力で打ちにいくタイプだから。」


 荒畑はツッコミもボケもできる器用な子だった。


「ところでアッキー、この後はどうする?あくまでリアリティのある感じにする?それともファンタジー路線?」

「んー、じゃあリアリティの方で。やっぱあんまり夢見がちなのも…なぁ?」

「だったらそもそも…とか言う役はウエピーに任せた方がいいよね?」

「その方向で頼む。」

「では太郎さん、この耐圧防護服を。」

「やっぱファンタジーの方で頼む。多分いろんな意味で息苦しくなる気がする。」

「着きましたよ太郎さん。ここが竜宮城です。」

「おぉ、なんて素晴らしい城なんだ!きっと中も素敵に違いない!」

「ええ、もちろん。タイやヒラメの舞い踊りとか…踊り食いとか…」

「やっぱり!やっぱりそういう悲惨なことに…!」

「そしてこちらが乙姫様です。」

「う、美しい…!なんて可憐な人なんだ…!」

「こんにちは太郎様。この度は亀を助けていただき…でもなんで乙姫は人型設定なのかな?周りはみんな魚介類なのに。」

「わかんないけど、最近の異世界ものも似たようなとこあるわー。“エルフ”とか“獣人”とか出てくるんだけど、耳とか尻尾とか違うくらいで基本的には人型。」

「ふーん。ちなみにその獣人ってのは舞い踊ったりするの?あとグツグツ煮込まれるとかは?」

「いや、近頃はすぐ炎上するから。ったく厄介な世の中になったもんだよなー。」

「だねー。世知辛いねー。」


 場にツッコミが足りない。


「じゃあさ、言葉とかはどんな感じなの?その辺は気にしないルール?」

「まぁ言葉は最初から普通に通じるか、アイテムや翻訳魔法的なのでなんとかなることが多いかなー。たまに頑張って一から覚える系の話もあったりするけど、他がチートなのになんで言葉だけ…とか思っちゃってなんか微妙だわ。」

「あー。どうせ結局短期間でペラッペラになるんでしょ?逆に違和感が残るから最初からやらない方がいいよね。」

「そして三年後。とっても楽しい毎日だけど…残してきた家族が心配だ。俺…帰るよ、乙姫様。チェックで。」

「いや、お会計とか無いんで。そうですか…とても残念です。ではこの玉手箱をお持ちください。でも…決して開けないでください。」

「ハイ出たよ“持っていけ、でも開けるな”とか意味わからなくね?」

「言えてる。開けてもホントにいいこと無いしね。時間経過の件で絶望した時のためだって言うなら、最初から言っとけって話だよね。」

「まったくだよ。それ知ってたら帰らないもん俺。」

「朝から晩まで海産物…お米もお肉も野菜も無い。娯楽も大してないよね?」

「俺、帰るわ。俺なら多分三日ともたない。」

「だよねー。って、じゃあ戻っても大して影響ないんじゃない?確か三年が三百年とかだった気がするから、三日なら一年くらいじゃん?」

「体感三日で一年過ぎてる…これって、他の奴らより一年若く見えるってことじゃね?」

「うわー、アンチエイジング界に革命起きるわー。じゃあ一ヶ月いれば十年差が出るってことじゃん。同窓会で注目の的だよねー。まぁ中身も無ければ収入も未来も無いけども。」

「でも年齢的にはオッサンで体はピッチピチ…考えようによってはワンチャンあるんじゃないか?」

「でもちょっと待って。もし時間のズレが滞在期間と比例してなかったら…もし行って戻ったら必ず三百年過ぎちゃう仕組みだったらどうしよう?」

「確かにわかんない…。ちくしょう…前例が少なすぎるか…!」


 赤池は心が折れかけた。

 そんな時、一筋の希望の光が差し込んできたのだ。


「お前ら…一体なにやってんだ…?」


 植田が現れた。

 近寄るべきか悩むような目でこちらを見ている。


「あ、やっほーウエピー。おひさだねー。」

「お疲れ荒畑。お勤めご苦労さん。」

「植田…なに遠巻きに見てんだよ?俺が何かしたってのか?」

「いや、俺だけじゃなくみんな見てるぞ。凄い人だかりじゃないか。」


 確かに知らぬ間にギャラリーに囲まれていた。


「まぁ…いつものことじゃね?」

「ああ、悲しいかないつものことだな。」

「あ~、なんか一部から『劇団赤池』とか言われてるらしいね。アタシも知らぬ間に団員に含まれててビビッたわ。」

「劇団…?つまり俺は…ライオンキングってこと?」

「お前のどこに“ライオン”と“キング”の要素があるんだよ。それにお前の場合は心配しかないさ。」

「ところで植田、お前はどう思う?浦島太郎の異世界転移には…本当にバッド・エンドしか無かったのか…?」

「まぁ途中から聞いてたが、そうだなぁ…全力で肯定的に考えると…なぁ赤池、お前は地上に戻ったら三百年経ってることをマイナスと認識してるようだが、それってホントに絶望すべき状況なのか?」

「へ…?それってどういう…」

「例えば今から三百年前って言ったら江戸時代なわけだが、その時代から見た現代って…もはや異世界だと思わないか?」

「なっ、なるほど…!“戻った”と考えるとつい絶望しちゃうけど、“異世界に転移した”と考えれば、異世界で身寄りがないなんてのは当たり前…。つまり、竜宮城から帰ること…それこそが真の異世界転生だということか…!」


「まぁチート能力は無いわけだが。」

「じゃあ却下です。しゅーーりょーーー!」


 植田は論破に成功した。



「ハァ~~…残念だ。今回もいい線いってると思ったんだけどなー。」

「そんな前しか見てない所がアッキーのいい所だよねー。前世は絶対馬とかじゃないよね、アイツら視界350度あるし。」

「俺はいい線うんぬんより“今回も”に驚愕してるけどな。」

「…ま、いいさ。希望はまだまだある。今日のところはとりあえず、気持ち切り替えて授業でも出ようぜ!なぁ植田?」


「いや、もう全コマ終わってるぞ?」

「あれ?知らぬ間に俺…竜宮城行ってた…?」

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