【02】異世界召喚されよう
「俺、異世界召喚されようと思う。」
再び大学の学食で、友人の植田にそう言い放った青年の名は赤池。
前回論破されてからまだ三日しか経っていないわけだが、どうやらちっとも懲りていないようだ。
「…オーケーわかった、詳しく聞こうか。」
そんな相変わらずな赤池の発言を、やはり聞き返すことなく受け入れた様子の植田。今日も眼鏡がキラリと光る。
「ほら、前に異世界行きについて色々話したじゃん?結構イイ線いってたじゃん?あと一歩だったじゃん?一歩ってもう無いようなもんじゃん?だったらもう、ほぼ異世界なのかなって。」
「お、お前…マジか。」
「ああ、マジだ。呼ばれるよ異世界。」
「いや、今日も“頭大丈夫か”って意味で言ったんだが。」
もしかしたら何かの間違いかと思い聞いてみた植田だったが、やっぱり間違いなく間違っていることがわかったため、結局罵倒するしかなかった。
だが今回は、赤池なりに少しは考えた上で来ているようで、簡単には引き下がらなかった。
「あのさ、前に植田…異世界ものの主人公って結構みんな現世に未練無いとか言ったじゃん?でもよく考えたらさ、『召喚』の場合はそうでもなくね?“早く魔王を倒して元の世界に戻るんだ”的な感じ、普通にあるよな?」
「ああ、“現世に帰るのをモチベーションに頑張るパターン”な。この前は話が発散しないよう除外したんだが…確かに『転生』や『転移』と違って、『召喚』には呼ぶ側に明確な目的があるもんな。呼んだ人間の願いが叶ったら帰れるとなれば、家族を捨てるほどの覚悟は要らないと…お前はそう言いたいんだよな?」
「おー、なんだよ今日はやけに察しがいいじゃん。」
「なんか察しが悪いって言われるより逆にムカつくんだが…まぁいいや。でもさ赤池、それだと本末転倒じゃないか?頑張って就職したくないから異世界に飛ぶんだろ?下手すると想像を絶する試練が異世界で待ってるぞ?」
「でもどうせチート能力の助けがあるだろ?んで、世界を救うほどの偉業を成した俺なら、こっちの生活なんてきっと楽勝じゃん?」
「いや、でも戻ってきたら多分チート能力は消えちゃうぜ?仮に消えなかったとしても、異世界を救うほどの暴力的な力はこの世の中じゃ使いどころないだろ。」
「そ、それじゃ…あれだよ。世界を救うまでの努力とか経験とか、そういうのが活きるみたいな…」
「だったら今その努力をしろよ。異世界で命懸ける覚悟があるんなら、今から数年頑張るくらい訳ないだろ。」
「そこはお前、それこそモチベーション的なものが要るだろ?巨乳の王女なんかに抱き着かれて“助けてください勇者様”とか言われてこそ、じゃあ頑張ろうかなって気になるんだよ。なんとかしてあげたいなーって。なんとかしたいなーって。」
「いや、なんだよその手つき?それ絶対なんとかしたい対象は王女の巨乳だろ?」
「と、とにかく!俺は異世界に行きたいんだよ!今の人生は別に嫌いってわけじゃないけど、このままいったら普通じゃん?普通すぎるじゃん?俺は…俺は嫌なんだよ!そんなどこにでもいるような、“普通の人”で終わるのが!」
「いや、そんなことないって。お前は…」
「気休めはやめてくれ!」
「お前は現時点でもう普通じゃないぞ。お前みたいなのがそんなどこにでもいたら世界滅ぶぞ。」
「やっぱ気休めをくれ!そんな真顔で言われるとさすがの俺でも傷つくぞ!」
赤池は意外とナイーブだった。
「んー、まぁ面倒だが仕方ない。どうせガッツリやらないと納得しないだろうし…“異世界で目的を遂げたら帰ってくること”と“現世でプラスに働く何かしらを異世界で得ること”を目標に、一回ちゃんと考えてみるか。」
「おぉ、さすがは植田!“神が見捨てた者すら見捨てない男”の異名はダテじゃないな!」
「な、なんだよその異名?俺そんな風に呼ばれてんの…?」
「あ、知らない?この学校じゃ結構有名だぜ?」
「だったらその“神が見捨てた者”って絶対お前のことだからな?」
赤池もかなりの有名人だった。
「ときに赤池、お前の思う『異世界召喚』ってのはどんな感じだ?思いつく限り挙げてくれよ。」
なんとか気を取り直し、説得モードに入った植田は、今回もまた赤池を理詰めで納得させるべく情報の整理から入った。
「んー、やっぱ前にも言った通り王族とかに呼ばれる印象が強いなぁ。主人公が目を覚ますと、王族とか兵士に囲まれた魔法陣の中…みたいな。」
「そうだな。なんならもうそれしかないってくらいだわ。実際は他にもあるんだろうけど、まぁ今回はその王道を軸に考えるか。」
「考えるってのは、どうやったら行けるかってのの続きからか?それとも行った後から?」
「まぁ後者でいいんじゃないか?前回の考察でお前には適性があるってことにはなったし、あとは召喚してくれる側に委ねるしかないだろ。前提として“現世では努力しない”ってのがあるわけだから、こっちがこれ以上できることは無いよ。」
「そうか…じゃあいよいよ巨乳王女の出番だな。」
「なぜそうなるのかわからんが…というか王女って結構ほっそりしてるイメージないか?バインバインなのは王妃とか男勝りの女戦士長とか…」
「ハァ…これだから素人は困る。ピッチピチってわけでもない服の上からあんなに乳の形が浮き出る時点で、もうみんな巨乳なんだよ!贅沢言ってんじゃねーよ!」
「いや、アニメ化とかコミカライズされたやつ基準で言われても困るんだが…。というか俺が素人ならお前は一体何のプロなんだ?」
「いいから!巨乳の話なんてしてる場合じゃないだろ?早く先に進んでくれよ!」
「な、なんだか凄まじく釈然としないが…チッ、諦めよう。んー、まぁまずはやっぱり、魔法陣から出現してからの対応じゃないか?お前ならどうするよ赤池?」
「フッ、俺に任せてくれ国王よ…この俺が、なんとかしてやる!!」
「早いなオイ!まずは話くらい聞けよ。せめて“かくかくしかじか”ぐらい言う時間はくれてやれよ。すんなりいきすぎても相手も戸惑うぞ?もっとこう、それっぽくできないのかよ?」
「う゛っ、うぅ…こ、ここは…?えっ、なんだよここ…夢…?」
「おぉいいぞ、それっぽい。じゃあ…よく来たな勇者よ。我が名は…えっと…ナントカ王国のエラーイ王だ。」
「プッ、ウケる。」
「ハイ斬首。お前は王を怒らせた。あと俺を。」
「すまん、ちょっと調子乗った。ちゃんと真面目にやるわ。」
「いや、真面目にって言うならこの話が丸ごと無くなるが。」
「ハハッ、なにこれドッキリか何か?それともやっぱり夢なのか?でも夢にしちゃ妙にリアルな…」
「続けるのか…。えー…理解できぬのも無理はない。お前は魔王を…魔王ユーザックを倒すため、我々が異世界から召喚したのだ勇者よ。」
「えぇっ、なんだって!?まったく関係のない異世界の人間である俺を勝手に呼んだだけじゃなく、国の存亡の危機とかいう非常事態に巻き込んだ上に第一線で命まで懸けろだって!?」
「はいカーーット!気持ちはわかる。正論だと思う。実際そんな流れになる作品も多い印象だが、基本はそれ言っちゃ駄目だろ?理不尽だと思いつつもなんとかするのが呼ばれた者の宿命だろ。」
「でもさ、俺…そして他の主人公達もだけど、どう見ても戦闘には向かない若造じゃん?しかも普段着じゃん?そんなのが出てきて、よく一瞬で見限ったりしないよなーって思わね?」
「それは…あれじゃないか?見た目とかじゃなくて、かつて異世界から勇者が現れて世界を救ったと伝承に残されてる…とか?」
「あー、伝承かー。それ持ち出されたら確かに信憑性上がっちゃうわー。異世界で伝承と長老的なジジババの言うことは侮れない。」
「あ、ちなみに現世への帰還については、“帰ろうと思えばすぐにでも帰れる”、“目的の敵を倒せば帰れる”、“帰る方法が無い、または知らない”の三パターンがあるかと思うが、今回は帰れるのが前提だから最後のは無しな。まぁわかりやすく二番目のにしようか。」
「なっ、魔王!?その魔王ってのを倒さないと、元の世界に帰れないってのか!?でも俺には、そんな奴に勝てる力なんて…」
「唐突に続けるなぁ…。だ、大丈夫です勇者様。異世界からの勇者様は、特別な力を持って現れると伝承に…」
「おっ、やっぱりきたな伝承!そしてその声色の感じ…王女か?つまり巨乳の王女か!?」
「そうです私が王女です。王女の身でありがなら、戦闘要員または回復要員として勇者と共に最前線へと乗り出します。」
「あー、そういえばそうだよなー。王女なのに結構危険なポジションに…」
「では勇者様。まずはこの古代の謎アイテムで貴殿のステータスを調べさせてくだされ。」
「え、その口調…誰?」
「魔法庁長官のマホーンでございます。」
「いそう!そしてありそう魔法庁!」
「なっ、そんな…魔法ランクがS…?宮廷魔法騎士団長でさえAだというのに…」
「そ、そうなのか…!俺には、そんな人並外れた能力が…!」
「して、勇者よ。世界の命運…頼めるか?」
「ああ、もちろんさ王よ!行って俺が…魔王を倒してやる!!」
赤池は立ち上がり、豪快にガッツポーズを決めた。
「…とまぁ大体こんな感じだと思うんだが、一つ俺達は大事なことを忘れてたなぁ赤池。」
「え…?大事なこと…?」
「ここ…学食だったな。」
「ああ、みんなメッチャ見てるな…」




