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後篇:出版契約期間短縮交渉の仕方

 前篇に於いて、書籍化の打診を受けた時、そしてそれに応諾するとき、どのように契約を交わすのかを書きました。


 とはいえ。

 現時点で既に契約が成立しており、出版もされ、しかしその後打ち切り等に伴いトラブルが発生していたら。今更「このように契約書を纏めていればよかった」などと言われても、どうしようもありません。

 では、前篇の例「打ち合わせ時に『○巻までの出版を確約する』という条件で書籍化に応諾したにもかかわらず、第一巻の売り上げが伸びなかったから打ち切りを宣告された」という場合の、最善たる対処法についてを説明させていただきます。



Step1 「打切決定通知書」を発行してもらう


 はっきり言って、こんな書類を作ったことのある出版社は、いないでしょう。今ちょっとネットで検索してみても、こんな名称の書類は見つかりません。が、この先のことを考えると、これが必要になります。

 ここには、「*月*日付をもって、(書籍名)の刊行を打ち切りとし、続刊に関する著作権者との契約を締結しないことを決定する」ということを、出版社代表者名義で書いてもらうのです。可能であれば、「☆月☆日までに、在庫の一切を廃棄処分する」とまで書いてもらえれば尚善(なおよし)

 これを書いてもらうことで、続刊刊行の可能性は0(ゼロ)になります。だから、万一の可能性に縋りたいのであれば、当然こんな通知は出してもらってはいけません。

 ですが、前に進む為には、敢えてこの書類を作ってもらい、未練を断ち切る必要があるのかもしれません。


Step2 出版契約期間繰上満了を交渉する


 たとえ打ち切りになったとしても、出版契約期間中は他の出版社との再書籍化交渉は出来ません。そして、出版契約期間は3年とか5年と契約書に定められている筈です(定めがなければ3年:著作権法第83条第一項・同第二項)。

 けれど、契約書には「この契約の内容について追加・削除その他変更する必要が生じたときは、甲乙協議のうえ決定する」といった条項が、必ず織り込まれている筈です。そして、著作権法第84条第三項には、著作権者は出版権者に対し、その出版権を消滅させることが出来ると定めています。これが法的根拠となります。

 が、「消滅」ではなく「繰上満了」とすることで、つまり「法律の要請」ではなく「契約内容の変更」とすることで、出版社側との余計な軋轢を避けるのです。これは、契約書上で例えば「5年」となっている出版契約期間を、例えば「1年」に変更することを求めるということです。

 ただ、前述の「著作権法第84条第三項」には、廃棄に伴う費用を著作権者が負担出来ない場合は、出版権者はこれに応じる必要はないと定めています。つまりこの法条文を根拠条文としている以上、出版権が繰上満了となることに伴い、返本された出版物を裁断処理する為の費用は、作者が持て、と言われても反論出来ません。直接的に、返本分を全量買い取りしろ、と言われるかもしれません。


 けどここで、「打切決定通知書」が意味を持つのです。


 打ち切りとなった作品が返本された場合、出版社は通常業務として裁断処理します。つまり、「*月*日付をもって打ち切り」となったことが明らかとなり、そして繰上満了とするように希望する日付が、*月*日からある程度の期間(おおよそ六ヶ月以上)経過後であるのなら、当然「出版権廃絶に伴う費用」は発生しない筈だと言えるのです。

 『打切決定通知書』に「☆月☆日までに、在庫の一切を廃棄処分する」との文言を組み込んでもらえれば、繰上満了日付を☆月☆日以降にすることで、(当然在庫は全て裁断処理されている筈なので)「出版権廃絶に伴う費用」は発生しない、という事が出来るでしょう。


 勿論、前例のないことですから、上手くいかないかもしれません。「打切決定通知書」を発行してくれないかもしれませんし、発行してくれても廃絶費用を請求されるかもしれません。けれど、法と契約に則った手続きを採ろうと思ったら、このような形になるのです。

 そしてそもそも、契約とはGive and Takeが基本です。出版社側のみ損をする内容修正や、作者側のみ得する内容修正は、出版社側が受け入れない以前に契約の本義から外れます。

 出版社側が損をする(何らかの費用等の持ち出しがある)のなら、作者側も何らかの負担をすべきですし、作者側が得をする(次の書籍化交渉が出来るまでの期間が短縮される)のであれば、出版社側にも相応のメリットを提示する(作者側から出版社側に、契約繰上満了に伴う謝礼金を支払う)などが必要になるかもしれません。

 今回例に挙げている、『○巻までの出版を確約する』という話にしても、それが出版社のリップサービスだったのかそれとも作者の勘違い(出版社側が「出来たらイイね」のつもりで受け答えていたことを、「確約してもらえた」と思い込んだだけ)かはわかりませんが、少なくとも契約書上の瑕疵(かし)はないでしょう。なら、「出版社側の約束違反」は交渉カードにはなりません。むしろ、「契約上の瑕疵はないにもかかわらず、契約違反をしたかのように公共の場で吹聴したことにより、出版社側が風評被害を受けた」(信用毀損行為)ことを理由に、違約金の請求をされるかもしれません。


 この契約変更が何の代償も無く受け入れられる、というのは、「既に打ち切りが決定しており、契約繰上満了による追加の負担は全くなく、それどころか出版権管理の雑務から解き放たれる」と出版社側が判断した時だけなのです。或いは、責任取れない口約束をして後ろめたいという時、もあるかもしれませんが。


Step3 出版契約期間繰上満了の合意がなされたら


 基本的に、満了日までは口外無用です。Twitterで呟くなど、論外。特殊契約条項なのですから、当然守秘義務が課せられます。これを口外する作者は、出版業界から村八分にされると考えた方が良いでしょう。個別契約の内容を気軽に放言するような相手と契約したいと思う業者は、どこの業界にもいませんから。

 満了日までは、ただ粛々と過ごしてください。

 けど、ただ漫然と過ごすのでは時間の無駄。その期間内に、「何故自分の作品は打ち切りになったのか?」を分析してください。「出版社が無能だから」は理由になりません。それは単なる責任転嫁。理由は常に、自分の中にあります。

 中篇で語った「PDCAサイクル」。これの打ち切りルートを利用します。

 つまり、「書籍用プロット(プラン)」⇒「書籍用加筆修正作業(ドゥ)」⇒(販売部数低迷)⇒「打切決定(チェック)」⇒「改善案検討(アクト)」⇒「再挑戦用プロット(プラン)」⇒……、と廻す訳です。

 打ち切りとなった理由を放置したままで次の出版社に持ち込んでも、結果は知れています。他の出版社も、その作品が書籍化した結果を知っている訳ですから、「どう改善するか」を提示出来なければ、持ち込まれても門前払いとするでしょう。


Step4 満了日を迎えたら


 この日。出版契約期間が繰上満了したことは、積極的に広報しましょう。でなければ、他の出版社は「まだ3年(5年)経っていないから、出版契約は継続したままの筈」と認識していると思われるからです。また、「小説家になろう」運営にも、取次再開を申し出てください。

 ただ。「積極的に広報を」と言いましたが、決して前出版社の悪口を言ってはいけません。それは作者自身の品格を落し、他の出版社が打診に消極的となる効果しかないでしょうから。




 繰り返しますが。「契約」は「相手を縛るもの」ではなく、「自分との約束」です。

 それを守ることは当然ですが、状況が変化したら、臨機応変に修正する必要があります。


 出版社もビジネスでその書籍化作業(プロジェクト)に携わっています。だから売り上げが振るわない、利益が出ないプロジェクトに固執するような愚かな真似はしないのです。一巻販売部数が伸びないのに、二巻以降も出版する契約になっているなどの場合には、出版社側から違約金を支払ってでも契約を破棄する、という事もあるでしょう。

 そして、作者側も。商業作品として書籍化される場合、これはビジネスとして認識する必要があるのです。「出版社が、自分の作品を書籍化してくれる(・・・・・)」のではありません。出版社側と作者側が協力して(・・・・)、「その作品を商業で成功させる」というプロジェクトを「ビジネスとして」行うのです。だからそれに失敗したとしても、その責任は出版社側にのみ(・・)ある訳ではないのです。

 その一方で、ビジネスパートナーである出版社が、その書籍化(プロジェクト)を失敗と看做し離脱(うちきりと)するにもかかわらず、作者側は契約期間に縛られて離脱・再挑戦出来ないのは、流石に不合理。ならちゃんと、「契約を終了する契約」を交わすことを、お勧めいたします。

(3,604文字:2017/09/11初稿)

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