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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第四章 インディゴカジノで魔王再誕編
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現実が溶けていく

ダメだ、やられる。


本気でそう感じた。

光が鼻先に触れるか、触れないかに迫った時、

足元に衝撃が走った。勢い良く引っ張られる。


全く想定していない方面からの力に、対応できるはずもなく。

僕はひっくり返った。


光線は前髪をかすって壁を焼いた。


「ぼさっとするな! 外に出ていけ!」


親父だった。

怒鳴って、足首を割らんばかりに握る。


親父の必死な形相に懐かしさを覚える。

モンスターと対峙した時のこの空気。

命のやり取りを感じさせる、ぴりっとした空気。


それに浸ろうとして、次の光線が飛んできた。

足首を離して親父は退いた。

その場所に光線がぶつかり、床が溶けて穴が空いた。


何かこう、腹立たしい。

結局、危険な目に遭わないと動かないんじゃないか!


携帯ゲームにはまって鍛錬を怠り、剣士のプライドを捨て、愛用の剣を売る。

あげく魔王に復活されて、その結果がこのざまだ。


庶民を、平和を、何だと思っているんだ!

斬り殺してやりたい。

逃げ惑う親父を、僕自ら斬り殺してやりたい!


そんな想いで懐から剣を抜いた。

だけど、刃を向けるのは親父ではない。


魔王だ。


もう誰も頼れない。

自分を信じて今日まで剣の鍛錬をしてきたんだ。

僕がやる。やってやる!


「てやあああああああ」


刃を向けたまま、僕は駆け出した。

親父に気をとられている今がチャンス!


腕を引き、筋肉を伝導させて、バネのように剣先で貫く。


「勇者剣、豪突き」


その剣先は、魔王の眼前まで迫った。

いける! そう確信した瞬間、ギンっと金属の鈍い音がした。


「おっそいわねえ。あくびが出ちゃうわよ」


そう言って本当にあくびをする魔王。

青紫の紅を塗った口をいっぱいに開いて。

剣は先ほどガラスで作った花で受け止められていた。


「ぐっ、そんな!」

「馬鹿野郎! 剣士じゃねえお前がしゃしゃり出てくるな!」


背後から親父の罵声が飛ぶ。


そうだった。僕は今、剣士じゃなく商人だった。

どうりで剣の速度が出ていないと。


「あらまっ、あなた良く見たら可愛い顔して、良い男じゃないの。

どう? あちしと一緒に世界征服しない?」

「ふ、ふざけるな!」


剣を押し込もうとするが、ビクともしない。

ただ剣が震えているだけ。

くそ、突け。突き抜けてくれええええ。


「勇者剣、豪突き」


心の声に呼応したのか、突如として有り余るパワーが剣に宿った。

パリーン、とガラスの花は砕け、さらに剣先が魔王の胸に突き刺さる。


「ぐおおおおお」


人間のものではない、あの声で悲鳴が上がった。

耳からではない、脳みそに直接響いてくる。


魔王は胸に剣を刺したまま、後ろに思いっきり吹っ飛んだ。

そして、壁に磔にされる。


「こうやるんだよ」


僕のすぐ隣から、荒々しく、けれども自信を含んだどっしりとした声。

親父だった。

僕の上から剣を握って、剣技を使ったのだ。


「……最初からやってよ」

「剣を寄越してくれればやったよ」

「だったら剣を売るなよ、馬鹿親父」


ふっ、と肩の力を抜いて笑いかけた。


「危ない!」


親父が叫んで前に飛び出した。


びぃーん、シュー、と何かが焦げる音。


親父は目を見開いて、顔が空虚に変わっていった。


「ただの鉄の剣が、あちしに通用すると思って?」


魔王は確かに奥の壁に突かれた剣によって磔にされていた。

しかし、胸に剣が刺さったままで表情は何も変わっていない。

それどころか、にやっと口端を上げていた。


「親父!」

「馬鹿が、敵にとどめを刺すまでが、戦闘、だ」


それだけ言ったところで、親父の身体が熱を発した。


「おやっ」


親父の脚が、腕が、胸が、そして顔が、雪崩れるように溶けていく。

何もかもが幻のように。


言葉が喉に詰まる。

息が苦しい。何が、何が起こっているんだ。


「さーてと、お邪魔な勇者さんはいなくなって、次はあなたかしらん?」


魔王が磔のまま、人差し指をこちらに向けてくる。


びぃーん、と発射される光線。

避けないと。避けないと死ぬ。


だけど、僕の脚は動かなかった。

親父が溶けた。死んでしまった。本当に。

嘘、夢、現実じゃない。


世界が狂ってる。死んでしまった。


「けんちゃん!」


柔らかいものが勢い良く横から当たって、そのまま倒れた。

光線が頭上を通過する。


「……モッチーナ?」


バニーガールのモッチーナが僕の胸の中に居た。


「しっかりするっしょ! けんちゃんが死んだら、あたいも死ぬっしょよ!」

「あ。死ぬのは、良くない」

「だったら、目を覚ますっしょ!」


ぺちん、と頬っぺたを両手でサンドイッチされる。

ぐにゅぐにゅと潰して広げたりし始めた。


「ほひ、あほふな」

「頬っぺたをモチにして、目を覚ますっしょ」

「ほんなことをしている場合じゃ」

「取りましたぞおおおおおお!」


その時、魔王とは別の方向から夏目の勇ましい声が聞こえた。


「あ、こら! 返すのです!」


博士の声も聞こえた。

顔を上げると、夏目がこっちに手を振っている。


「豪健氏、受け取るのですぞ!」


ぽーん、と銀色に光る何かが投げられた。

山なりに飛んで、僕は上半身を伸ばしてそれをキャッチする。


手の中には大きめのノズルがあった。


「わたしのシルバーサーバを!」

「それをガチャガチャに刺すのですぞ!」


夏目が叫ぶ。

近くにはボロボロの伝説の剣と、そこから管で繋がったガチャガチャがある。


「また死んだお父さんに会える!」


たんぽぽがガチャガチャの影から顔を出した。


「見ないと思ったら、ぽぽちゃんはそこに居たっしょか」

「待て、たんぽぽ。お前、今、なんて?」

「人間はゴミ」

「違うだろ! 死んだお父さんにまた会えるって言ったんだ」


僕はたんぽぽの言葉で気づいてしまった。

RHLの世界は今の時間よりも遡った、親父が生きていた時間の世界。


それだけで十分だった。

僕の身体は勝手に動き、手に持っていたノズルをガチャガチャの頭に取り付けた。


しゅるるる、とノズルの口が風を吸い込み始める。


「なあに、これ、かたくって、抜けないじゃないのお」


さっきから魔王が攻撃してこないと思っていたら、

胸の剣を引き抜こうとして手こずっているみたいだった。


「勇者の力が込められた剣っしょ。そう簡単には抜けないです」

「そうか、親父の」


親父の力は、やはり本物。

そう思って親父の溶けた跡を見ようとして、目を背ける。


直視できない。そんなものは見たくない。


それより、非現実的でも良い。

見るべき先は、親父がまだ、生きている世界だ。


「もう一度行くぞ、RHLへ」

「わかったっしょ。けんちゃんと行くなら、たとえ火の中、水の中っしょ」

「私も行く」

「我輩もですぞ!」


僕はモッチーナと手を繋いで、ノズル口へと飛び込んだ。

その後ろからたんぽぽと夏目の声が聞こえた気がする。


もう二度と行くことはないと思っていたRHLの世界。

居心地の悪い浮遊感に見舞われながら、僕は決意する。


何でも良い。

どんなことをしても、馬鹿親父を救ってやると。


やがて、その浮遊感も終わりを迎える。


豪健の身体が地面についた時、

学園は文化祭の活気に包まれていた。



第四章 インディゴカジノで魔王再誕編 終わり

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