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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第四章 インディゴカジノで魔王再誕編
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ダンジョン崩壊の最中お姫様抱っこ

些細なことでも厳しいことでも、

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わくわくどきどき楽しんで貰えたら幸いです。

 ずっと宙ぶらりんになっていた気がする。

僕は空を飛んだことは無かったけれど、

地に足が着いていないというのは、こんなにも心を不安にさせるのか。


自分の意思とは関係なしに、一秒後には落下するかもしれない。

心臓までもが宙釣りにされている。


そんな気持ちもあったのか、無かったのか。

まるで長い夢を見ていたようだった。


意識が薄らと戻って来ると、背中に硬い地面を感じる。

手のひらで撫でてみると、ゴツゴツとした岩の感触。

これが無性に恋しかったのだ。


ズゴゴゴゴゴゴゴゴ。


感傷に浸っていると、突如その安泰な地面が揺れ始めた。

僕は勢い良く起き上がる。


「な、何事だ?」


隣では、ほぼ同時に起き上がった水無月が眉間にしわを寄せて辺りを見回した。

ミシミシと壁が嫌な音立てている。


「モッチーナは?」

「もち、もち、剣、第さんじゅうろっ巻、ふわ、ふわ、うさぎ」


寝ぼけた声が聞こえてきた。

振り返ると、むにゃ、と寝言を言って身体を丸めて寝ているモッチーナが居た。


「おい、起きろモッチーナ」

「んー、ウサギさん揺らすなっしょ」

「もうウサギさんはいないから。僕だ。豪健だ」

「けんちゃん?」


目を擦りながら、眠気まなこを向けてくる。


「あたい達、戻って来れたっしょか?」

「さあ。どうだかな。とりあえず、ここから脱出した方が良さそうだ」


地面の揺れは収まる気配を見せない。

他にたんぽぽと夏目の姿を探す。


「ややっ、この揺れ、覚えがありますぞ!」


壁際で寝っ転がったまま虫眼鏡を天に向けている夏目を発見した。


「楽しそうに興奮している場合っしょかねー」

「さっさと立って、たんぽぽを探すぞ」

「たんぽぽ氏ならあそこですぞ」


夏目はそのまま天を指差した。

つられて上を向くと、五メートルぐらいの高さの壁から出っ張った岩に

ワンピースを引っ掛けて宙ぶらりんになっているたんぽぽが居た。


「私、飛んでいる」


両腕を水平に広げて、足はばたつかせている。

ゆらゆら揺れて、今すぐにでも落ちそうだ。


「楽しそうに飛んでいる場合っしょかねー」

「ば、馬鹿野郎! 落ちるから! ゆっくりやらないと落ちるから!」

「ゆっくりやっても落ちますぞ」


冷静な夏目の突っ込みが入ったと同時に、

たんぽぽのばたつかせていた足が出っ張った岩を蹴り飛ばした。


「あっ」


身体が前に出た。引っかかっていたワンピースも岩から開放され、

手足で空気をかきだし、必死に宙を泳ぐ。


「飛べ、私」


言葉とは裏腹に、たんぽぽは落ちていく。


「あわわわ」


真下に寝っ転がっていた夏目はスタッと機敏に立って逃げる。


最初からその動きをして欲しいものだ、と思いながら

僕は両腕を差し出した。

そこに丁度たんぽぽの身体が落ちてくる。


どしんッ、と一気に腕に負荷がかかった。


「ちっ」


久々に腕の筋肉を激しく使い、腕が悲鳴を上げた。

思わずよろけるが、どうにか足に力を入れて踏ん張る。


「ふぅ、無事着地」


お姫様抱っこをされて、たんぽぽがため息をついた。

そして汗もかいていないのに額を拭う。


「無事着地、じゃないよ! ひやひやさせやがって」

「おかしい。たんぽぽはふわふわと、飛べるのに」


ふわふわ、と腕の中で腕を広げて閉じた。

勢い余ってその左手が僕の顎にぶつかる。


「暴れるな! 飛んで良いのは植物の方だから!」

「でも、軽いから大丈夫」

「人並みに重いから!」


いっそ放り出したい気持ちを堪えて、

僕はたんぽぽを降ろした。


軽く乱れたワンピースを、たんぽぽはくるりと回って整える。

喋らなければ、可憐で儚い雰囲気の女の子なのに。


「いだっ!」


唐突に足に激痛が走った。

下を見ると、目を細めて見上げているモッチーナと目が合った。


「ぽぽちゃんに見惚れすぎっしょ」


声を潜めながらも険しい表情を作って、睨んでくる。

迫力満点だ。


「馬鹿、そんなんじゃないよ」

「見せつけるようにイチャイチャして」

「あのなあ」

「おまけに、おま、おまけに! お姫様抱っこまで」


ずるいっしょ! とモッチーナがわめいた。

おまけどころか本題はそれだったのね。


「わかったよ。お前にもお姫様抱っこを」


ズゴゴゴゴゴゴ、ガキッ、ミシ。


その時、近くの壁に大きな亀裂が走り、

たんぽぽが引っかかっていた出っ張った岩が斜めに傾いた。


「危ない!」


僕はモッチーナを抱きかかえ、る前にモッチーナに抱きかかえられていた。

お姫様抱っこで。


「うおっ」


驚いて声をあげた時には既に落下地点から飛び退いていた。


ガッシャーン。しゃらららら。


今さっきまで居たところに岩が叩きつけられた。

土砂がモッチーナの足元まで転がってくる。


「間一髪だったっしょ」

「……」


僕はだらしなく、口をぱくぱくさせた。

羞恥心と安堵感がせめぎ合って言葉が出ない。


そんな僕の顔をモッチーナは覗きこんできた。

楽しそうに、目を煌かせて。


「ん~どうしたっしょか?」


モッチーナに抱きかかえられて、逃げ場が無い。

宙ぶらりんの身体。

しかし、モッチーナは視線を外すことなく見つめ続けてくる。


「そんな格好で恥ずかしいっしょね~」

「う、うるさい!」

「顔も赤くなってきました」


ふふっ、と小悪魔じみた笑みを零す。


「あ、あの~。お楽しみのところ悪いのですが、そろそろ」


夏目が申し訳無さそうに声をかけてくる。

たんぽぽは、ふんと肩をすくめた。


「人間はすぐ自分の世界に浸る。ゴミ」

「お前には言われたくないわ!」


ズゴゴゴゴゴぐわんぐわん。


いよいよダンジョンの揺れは、洒落にならないレベルに到達しようとしていた。

立っているのもままならない。

ガシャン、どすん、と岩も次々に崩れ落ちてきている。


「早いところ脱出しよう」

「そうっしょね。早いところ行くっしょ」


言いながらモッチーナは駆け出した。

僕をお姫様抱っこしたまま。


「おい、おろせって!」

「けんちゃんは女の子らしく、そのままでいるっしょ」

「誰が女の子だって?」

「剣を振らないけんちゃんは、女の子みたいなもんっしょ」

「酷い言い草だ」


こうやって言い合いながらも、モッチーナは僕を抱えて、

軽々と飛び跳ねていく。

さすがRHL世界でも鍛錬を続けていただけのことはあるな。


「やはり、ダンジョンが崩壊するのですな」


後ろからついて来る夏目が呟いた。


「一体、どうして」

「ダンジョンが崩壊する理由は様々。我輩にもわからぬ。

しかし、この揺れ、地鳴り。このダンジョンはもう終わりですぞ」


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