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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第三章 ゲームと現実の混同編
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沈み行く夕日に照らされる学園

「なーに当たり前のことを言っているのかしら」


望月の小さな背中に、声を震わせながらも努めて軽口を飛ばす美雪。

望月は肩をびくっと反応させて、振り向いた。


「おモチちゃんとごうくんの信頼関係を打ち崩して恋仲になるなんて、

並大抵なことじゃあできないの」


声色を整えて、拗ねたように厚ぼったい唇を突き出す。


「どうして」


望月は食い気味に聞いた。

赤い髪飾りが動揺を映したように揺れる。


「さっきまであたいは、あなたを殺そうとしていたのに」

「確かにちょっと驚いちゃったけど。

おモチちゃんは、やっぱりおモチちゃんだからね」

「あなたの知っているあたいは、違う人っしょよ?」

「そうかなあ? ごうくんと仲良くしているとすーぐ嫉妬しちゃうし。

あっ、だったら美雪にもまだチャンスがあったりする? そんなに隙だらけで」


調子に乗り始めた美雪に、ふふっと望月は笑った。


「顔をそんなにスソだらけの真っ黒にして、チャンスも何もないっしょよ」

「え、ええ?」


美雪はポケットから小さな手鏡を取り出して見る。

そこには、鼻や頬っぺたが黒くなっている自分の顔があった。

うわあ、と絶句する。


「よ、よくもこんな顔に。

せっかく、おモチちゃんが可愛くない紅を付けていてチャンスだったのに」

「か、可愛くない紅?」


美雪は手鏡を望月の方に向けた。

望月は恐る恐る、その手鏡を覗いた。

そこには、黄色い粉が唇に目立つように付いている自分の顔があった。


「こ、これはおはぎを食べていた時の……。もしかして、今の今まで?」

「それ付けて真剣な顔のまま、美雪はゲームのキャラクターだの言われて、

何の面白い冗談かと思っていたわ」


慌てて手の甲で唇を拭っている望月を、ぷくくっと笑う。

ついには、あはは、と口から手を離して笑い始めた。


「あのおモチちゃんのマジ顔。くくっ、思い出しただけで可笑しいわ」

「むぷぷ。そう言って顔を真っ黒のまま笑う美雪も可笑しいっしょよ」


立ち入り禁止のはずの家庭科室で、ひとしりき笑い声の渦が巻いた。

その渦中の美雪は、笑いながらも目尻に涙を浮かべる。


笑ってしまえるということは、おモチちゃんのお話は真実だった。


その事実が、雨となって降り注いでいるのに気づくまいと、

美雪は一際大きな笑いの渦を作り、望月もそれに便乗していた。


 ゲーム世界の夕日もオレンジなのは、考えてみれば不思議なことだ。

空き教室から机を運び出す途中、豪健はふと足を止めて窓の外を見た。


校庭の先には、まだ足を踏み入れていない街並みが広がっている。

さらに向こう側には、今から沈もうとする夕日があった。


そこから夕焼け空が広がり、

豪健の居る学校に差し掛かる頃には、

薄く千切れた雲がオレンジの光に馴染んで空を優しく彩っていた。


「きゃあああ!」


突如豪健が悲鳴を上げた。

お尻に違和感を覚える。何かを突っ込まれた!


「女の子みたいな悲鳴」


振り向くと、椅子を抱えたたんぽぽが居た。

椅子の脚をこちらに、お尻に向けて。


「こらっ、何するんだ!」

「足を止めて怠けている。人間のゴミ」

「お前にだけは言われたくないよ!」


豪健がツバを飛ばして怒鳴るが、

たんぽぽはどこ吹く風、澄ました表情のまま豪健を追い抜いていく。


「あっ、やり逃げかよ」


豪健は机を持ち直して後を追う。

たんぽぽにやられっぱなしにされると、妙に落ち着かない。

無茶苦茶に構ってやりたくなる。


机を高く持ち上げて、机の脚を前方のお尻に合わせてみる。

夕日に照れ、薄いピンク色のワンピースに包まれたお尻は、

どこからどこまでがお尻かわからなかった。


揺れ、動きで感じるんだ。


「何?」


たんぽぽのお尻に夢中になっていたら、

いつの間にか足を止めてこちらに振り返っていた。

机の脚が刺さりそうになって、思わず狼狽する。


「うおっ、急に止まるなって!」

「ゴミの視線を感じた」

「お前はいつだってゴミを見るような視線だよな」

「ん?」


小首を傾げている。

それのどこがおかしいのかと言わんばかりに。


「たんぽぽって、こっちの世界に来ても、何にも変わっていないよな」


豪健はため息をつきながら机を持ち直した。

たんぽぽの隣に並ぶ。


「そんなことない」


聞こえるか聞こえないか、吐息交じりの言葉が隣から聞こえてくる。


「ん、何か言ったか?」

「うん」

「何て言ったんだ?」

「人間はゴミ」

「お前はそればっかりだな」


がっくり項垂れる豪健を他所に、

歩くスピードを緩めず、すたすたと先に行こうとするたんぽぽ。


「おいおい、そんなに急いでどうしたんだ?」

「私達には時間がない」

「そりゃあそうだけど、まだ三日あるのに疲れちゃったら大変じゃないか」

「これぐらいで疲れるなんて、たるんでいる。貴族はゴミ」

「くっ。どこかの革命組織が言いそうなことを」


こんな軽口を叩いていてもたんぽぽの歩く速度は変わらない。

たんぽぽはこう見えて、頑固者だ。自分の意志をしっかり持っている。

今はそれがひときわ、如実に現れている。


「なあ、今日の水無月の話だと

ここの生徒の文化祭の熱気が魔力を増幅させているみたいだしさ。

明日明後日の文化祭で盛り上がって、大量の魔力を運んでくれるよ」


だから無理は良くないって、とたんぽぽを咎めた。

しかし、薄いピンクのワンピースをご機嫌に振って、まだ歩き続ける。

こんにゃろう。


「つばきと一緒に居る時間も、短くなっちゃうだろうな。そうやって急いでさ」

「……そう、なのかもしれない」


一瞬言葉に詰まるたんぽぽ。その歩く足も止まっていた。

窓から差し込む夕日が、たんぽぽをかたどって影を落とす。

その影が寂しがっているようで。


「だったら、そう慌てずに」

「いつの間に、あなたは慌てていない」

「え?」


たんぽぽは顔だけ振り向かせる。

黄身色の前髪が目にかかる。

しかし、その隙間から心の中まで見抜く視線を感じた。


「人間はゴミ」


それだけ呟くと、いつもの眠たそうな眼差しに戻った。


「あっ」


言葉をかける暇もなく、

椅子を抱えて、先ほどよりもさらに足早に歩いていってしまった。


「……いつの間に、か」


たんぽぽが呟いた言葉を豪健は思い出す。


僕だって落ち着いているわけではない。

元の世界に一刻も早く帰りたい、はずだ。

それならば、たんぽぽと同じく急いで運び出さないといけないわけで。


「名残り惜しく、なっているのか?」


手のひらを見つめてみるが、そこに答えが書いてあるはずもなく。

ドンッ、と肩に何かがぶつかった。

よろめいて、置いておいた机に手をついた。


「サボるな、豪健」


水無月がふん、と鼻をならし、絵画を持って追い抜いていく。


こんにゃろう。

豪健は机を掴んで、前を歩く水無月の肩にぶつかって追い抜いていった。


夕日は沈み、急速に影が曖昧になっていく。

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