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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第七章 最終決戦キャンプファイヤー編
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何故このRHL世界に居るのですか

バシャーン、とピエロの手から離れた水の塊は屋上に広がった。

望月は水しぶきに襲われそうになり、腕で顔を覆う。

そして自分の身体が動かせることに気付いた。


恐る恐る腕を下げていくと、

ピエロの腹部から青白い炎を纏った剣が突き抜けていた。


「勇者剣、豪突き」

「ば、馬鹿な! き、貴様の剣は現実世界のあちしに刺さったままのはず」

「うん。短剣もモッチーナに全部渡しちゃっていたからね」

「ぐっ、ならばこの剣は?」


ピエロは自らの腹部を貫いている剣を見た。

それはくの字に曲がっていた。


「モッチーナの左手の短剣だよ。屋上に転がってた」


豪健はピエロの背後から突き刺した短剣をぐるんと回した。


「ぐはっ。あ、あちしが二度もやられる、なんて」

「三度だろ?」


ピエロは濡れた屋上の地面に倒れた。

水が赤く染まっていく。


「モッチーナ、無事か?」

「よ、余裕っしょよ」


豪健に聞かれて、望月は慌てて身だしなみを整えながら返事をする。


「良かった」


豪健は短剣をピエロから引き抜いて、べっとり付着した血を床の水でさっと洗う。


「って、けんちゃん! どうやってここまで。

壁スライムをやっつけたっしょか?」

「いや、夏目が校舎に入る裏口を教えてくれたんだ。

おーい、もう来ても大丈夫だぞ」


豪健が屋上の入り口に声をかける。

扉が開いて、夏目と美雪が出てきた。


「おお、派手にやりましたなあ」

「豪く~ん、怪我はない? 平気? って、はわわ。

いやん、この床びしょ濡れじゃない!」


美雪が足元を見て苦い顔を作る。


「この通り、魔王はやっつけた。

後は無事にキャンプファイヤーが終わるのを待つだけさ」

「そうなんだ! じゃあ、美雪と踊りの続きをしようよ!」


目を輝かせて美雪が近寄ってくる。

望月は寂しそうに俯いた。


「ごめん、美雪。残り時間は、モッチーナと踊りたいんだ」


そう言いながら豪健は望月を見る。

顔を上げて目を潤ませて、笑顔になる望月。


「そっかそっか。だったら美雪はともちんのところに行こうかな。

あの子の歌全然聞こえてこないし。たんちゃんに負けるなーって」


白い歯を見せて笑顔を見せてから、美雪は駆け出した。

大きな音を立てて水が跳ねていく。


「そろそろ水の塊が投下されようと……。あれ、屋上から消えている?」


有泉の困惑した声が放送に乗って聞こえてきた。


「なっちゃん、マイクって持ってますか?」

「もちろん、ここにありますぞ」


望月は夏目から放送用のマイクを受け取る。


「影のヒーローによって、キャンプファイヤーの炎は守られました。

みんなは思う存分、踊ると良いっしょ!」

「なっ、そんなはずは!」

「それと有泉ちゃんは、校舎近くの校庭の隅に行った方が良いっしょ。

あいちゃんを介抱してあげて下さい」


望月はアナウンスを流してマイクの電源を切った。

そうして無邪気に豪健に笑いかける。


「これで全て解決したっしょね!」

「全てではない。まだ僕達の戻る方法が」


グゴゴゴゴゴゴゴ、と突然、

低い唸り声のようなおぞましい音が空から聞こえてきた。


「な、なんだ?」


ぴり、ぴりぴり、と紙の破ける音も混じっている。

見上げると黒い夜空の中に、星を繋げたような白い線が増えていた。


「ぴ、ピエロさん! これは一体、何事!」


屋上の森側から幼い女の子の呼びかける声が聞こえてきた。

ざわざわ、と白衣に葉っぱをつけて、博士が姿を現した。

背中にはガチャガチャを背負っている。


博士は目の前の光景に絶句した。

ピエロは短剣を背中から突かれて倒れ、辺りは水浸しになっている。


「も、もしかして、失敗したのですか!」

「そうだ。キャンプファイヤーはガチャを回すことなく、無事に続いている」


博士の問いに豪健が答えた。


「ああ。なんてことを、してくれたのですか!」


顔をしわくちゃにさせて、悲壮感に溢れる博士。

その間にも空は低い唸り声を上げて、白い線を夜空に作り続けている。


「何か不味いことが起こっているのですかな?」


夏目が博士に尋ねた。


「見れば分かるのです! この終末音、ひび割れた空。

何度聞いても、何度見ても、最悪な気持ちにさせるのですよ!」

「えっと、つまり?」

「このRHL世界は、崩壊に向かっているのです。あなた達のせいで!」


博士は目に涙を溜めて、豪健に人差し指を突き付けた。

顔を真っ赤にさせて憤怒に満ちている。

何がなにやら、豪健はさっぱりだった。


「ど、どうして、僕達のせいでこの世界が崩壊するのさ」

「あなた達は、何故このRHL世界に居るのですか」


博士は静かに、何かを堪えるように尋ねてくる。


「それは、現実世界で魔王が復活しちゃって、それから逃げるようにここに」

「その通りなのです。そして今、文化祭で勇者がガチャを回すことなく、

終わることが確定してしまったのです。

これが何を意味するのかわかるのですか?」


博士の切実な問いかけ。

しかし、これは豪健らが目指していたことなのだ。

剣を売ってガチャるな! と。


「何って、親父は伝説の剣を売らずに済んだから、

剣に封印されていた魔王は復活せず、世界の平和は守られて」

「ピエロさんが復活しなければ、あなた達はどうしてここに居るのですか?」


パリーン、とガラスの割れる音。

夜空に引かれた白い線の間の一部が割れて、

ただの真っ白が夜空の向こう側に顔を見せた。


「で、でも、あたい達は確かにここに居るっしょ!

ピエロさんが復活した時空から、復活しない時空に外側から変えて戻るとか」

「そんな矛盾した存在を許容できるほど、この世界は丈夫じゃないのです!」


博士は悲痛めいた声で、両手を差し出して訴えた。

かと思ったら、出していた両手をぶらんと下げる。


「わたしも、考えが甘かったのです。

現実世界とリアルタイムで連動するように時間の流れを調整していたら、

このRHL世界はもっと安全なのでした」


博士は諦めきったような顔で、空の割れた部分を見つめる。


「でも、夜しかプレイできないプレイヤーは日中の学園を味わえない。

プレイヤーのニーズに合わせたゲーム作りが、ここに来て裏目になったのです。

もう崩壊は止まりません。わたし達はここで、無に還るのです」

「そんなの、嫌っしょ!」

「喚いたところでどうにもならないのです」


こうなってしまった以上、

どうすることもできないことを博士は骨身に染みて理解していた。


かつては自分も、時間矛盾を発生させた当事者だったから。

その代償に自分の存在が分裂した。


わたしはその五番目。

革命組織青い鳥を作ったのも、自分の存在を強めるため。

このRHL世界だってそうだ。


一から設計した学園校舎、教室、体育館、校庭。

その学び舎で学園生活を謳歌する生徒達の賑やかな声。

触れるもの全てが自分の子どものように可愛かった。


それが今、崩れ去る。


ぽつん、と足元の水たまりに波紋ができる。

博士の涙が一滴零れた。


「ちょっとやそっとの理不尽で」

「諦めちゃうのは早いんじゃないかしら」


博士は聞き馴染みのある声を聞く。

顔を上げると、屋上の扉の前に大好きな二人が立っていた。


「我々は、雛鳥」

「大人になろうとしない、雛鳥」

「邪悪な正義で濁った空を」

「清廉潔白な青に塗り替える」

「水無月藍」

「有泉セーラ」


水無月と有泉は同時に博士を指差した。


「青い鳥の名にかけて!」

「あい! せーら!」


博士は駆け出して、二人に飛びついた。


「まったく、そんなに泣き腫らしちゃって、可愛い顔が台無しよ?」


有泉が博士の頭を撫でる。

それを優しく見守る水無月。


「師匠が文句の一つも言わずに開発したからこそ、このRHL世界も誕生できた。

ちょっとぐらいあがいても、許してくれるはずだ」

「あらあらあいちゃん。今日はとっても優しいのね?」


有泉が意地悪な上目遣いを向ける。


「煩い。俺はまだまだ青い鳥が躍進できると思っている。

ここで諦めるなんてまっぴらご免だ」

「そうね。私達は生きて、この世界から出ないといけない。

ミルク博士。もう一度、希望を持って考えて欲しいの。

私達は絶対に協力するわ。必要ならあそこの戦犯共も、無理矢理協力させる」


有泉があやすそうに言って、豪健らを見る。

博士は涙を白衣の袖で拭ってから顔を上げた。


「分かったのです。今一度、ガチャガチャの魔力を確認して、

それから全員で校庭に行くのですよ」


博士は無邪気ににっこりと笑う。


頭上の夜空では、ますます白い線が増えて伸び、

ガラスの割れる音の度に黒い空がめくれていってる。

この世の破滅を予感させる低い唸り声も強まっていった。

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