努力する天才
「ウィザン師さんなんでここに!?」
「お前が闘技場に行く姿が見えたからこっそり追ってきたんだ、だがそのお前は大羽くんを追っていたとはな」
二人はウィザン師によって直された闘技場の柱の裏で大羽のことを話し始めた
「ロン、お前が大羽くんのことを嫌っているのは"天才だから"なんだろ?」
「…はい」
「見てみろ、その"天才"はバレないように努力をしている、大羽くんは俺達がいることを知らないし、いないと思って本気で今努力をしている」
ロンはその大羽を柱の陰から見ながらウィザン師に言った
「ですが、天才は天才でしかないと思います、僕は努力すれば花が開くなんてことは無いと思っていますから」
「だが、大羽くんは本気で努力しているようだけどな」
「大羽さんはいいですよね、努力すれば確実に花が開くのですから」
「ロン、お前も努力すれば必ず実るから…」
「でも!!大羽さんみたいにはなれない!」
ロンの声は闘技場に響き渡った、その声に気づいた大羽は二人のいる柱に歩み始めた
「大羽さんは天才です、だから努力すればどんどん強くなります…でも、でも僕は!努力をしても実らないことが多いし、大羽さんより1ヶ月も早く修行しているのにもうおいつかれそうになっているし…なんかここ最近頑張ってる、努力している自分がバカらしくなってくるんですよ」
その言葉にウィザン師は言葉を失った
「なら諦めればいいじゃないですか」
大羽は二人のいる柱の逆側に立ってそう言った
「努力して実らなくて、駄々をこねて、そんなことするなら諦めて他のことに挑戦した方がいいと思いますよ」
「大羽くん、その言い方はよくないんじゃないかな」
ウィザン師はロンを庇うように柱の裏側から見えない大羽に言った
「すいません、少し言い過ぎました、なら一つ小話をしましょう」
「大羽さん、あなたはいいですよね、天才なんですから」
「ロンもやめろ」
「大羽さんは最初から天才なんですからいいですよね、異星人なら僕もよかったのに…そしたら僕だって…」
そんなロンの声も大羽は無視をして話を始めた
「僕がこんなに頑張っている理由は一緒に来た友人に劣らないため、負けないため、支えになるために頑張っているんです」
「なんですか、それ、目標があれば天才になれるとでもいいたいんですか?」
「元の世界では、僕が住んでいた星では運動が苦手で勉強しか教えられないありきたりの人でした」
「なんですか大羽さん、元のあなたの世界では、頭脳明晰でしたとか言いたいんですか?」
「でも、ここに来て頭を使って動けるという自分にあう事を見つけたんです、それが魔法使い」
「そうですか、そうですか、ただの自慢話ですか」
途中途中で突っかかってくるロンに嫌気がさしたウィザン師はロンに怒鳴り声をあげた
「ロン!最後まで聞け!それから、嫌みでも何でも言えばいい!」
ウィザン師の怒鳴りにロンは歯を食い縛った
「僕は友人のために強くならなければいけないんです、並んで立てるように」
「大羽くん、その友人のためにどうしてそこまで頑張るんだい?」
「それは僕を信頼してくれているから、この世界に連れてきてくれたからです」
そんな臭い台詞を吐いた大羽にロンは歯を食い縛って眉間にしわを寄せ、柱の表側にいる見えない大羽を睨んだ
「大羽さん、僕は天才が嫌いです、何をしても勝てないからです、ですが大羽さんだけには負けません」
そう言い残し自室にロンは戻っていった
「大羽くん、最後にもう一つ聞かせて欲しい、君がそこまで努力する真実の意味を教えて欲しい」
「昇梨に言われたんです、努力をすればいつか花は開くって、しかも昇梨は元の世界でも自分の好きなことに対してだけは努力馬鹿でしたしね」
大羽は自分の言った言葉にクスクスと笑った
その笑った大羽をウィザン師は見ることは無かったが微かな笑い声だけを聞いて、そうかと言い残し自室に戻った
翌朝、大羽は着替えを済まして闘技場へ向かうとロンが早くも修行をしているを目にする、そしてその修行を見ながら大羽に背を向ける師匠の姿もあった
「やぁ、大羽くん、君の言葉が効いたのかね、ロンが凄いやる気を出してるんだよ」
「そうですか」
「久し振りにいい薬になったんじゃないのかな、大羽くんに負けじとこれから異常なほど努力をすると思うよ、ロンはああ見えて極端だから」




