第3話「その力、まさに神スキル」
明けて翌日、モンスターたちが去った村の被害は甚大だった。
それでも、ここは村人たちにとってはただ一つの故郷。早速あちこちで復興の片付けが始まる。
そんな中、サイジはルルと共に村の広場に来ていた。
聖剣エクスマキナーに秘められしスキルを確認するためである。
『では、改めて説明しますわ。エクスマキナーには七つのスキルが秘められてますの』
「えっと、それは僕の勇者としてのスキルに追加される感じですかね」
『勿論ですの。エクスマキナーを装備するサイジだけのスキルですわ』
ルルが隣で、小首を傾げている。
当然だ、アナネムの声はサイジにしか届いていない。同じ勇者でも、アナネムから見ればルルはNPC――|Non Player Character――ということになる。
しかし、これでは話が不便なのでサイジはエクスマキナーを抜く。
「アナネムさん、筆談でお願いします。ルル、切っ先を見て……ほら、女神様のお告げだ」
「わあ! これならわたしにもみえるよ!」
「うんうん。それで、七つのスキルってのは」
アナネムは随分と達筆で、整然とエクスマキナーが文字を連ねてゆく。
よくみればそれは、ゲーマーのサイジにとってはお馴染みのものばかりだった。
・スキル1【赤き血盟星印】
聖剣所持者の全記録を保存する。
・スキル2【橙の万象魔眼】
任意のターゲットのステータスを可視化する
・スキル3【黄なる奇縁断章】
全てのイベントフラグを閲覧、確認可能。
・スキル4【緑たる因果調律】
ランダム要素の結果を判定前にリセットする。
・スキル5【青しは久遠詩篇】
聖剣所有者の全記録を、保存した状態に再生する。
・スキル6【藍なす夢幻連成】
戦闘時、連続して攻撃するごとで様々なボーナスを得る。
・スキル7【紫だちたる創生昇華】
一定数のボーナスを得るごとに生命が一つ増える。
ふむ、と唸って腕組みサイジは思案する。
赤はセーブ、そして対になる青はロードだ。RPGでお馴染みのテクニックで、本来はゲームを中断するためだけに存在する。しかし、上手く使えば不運をやり直しで回避できる。
そして恐らく、緑がその乱数調整だ。
セーブしてから行動し、好ましくない結果ならロードする。
運の要素が作用している局面でも、ロード後に乱数調整することで結果が変わるのだ。
黄はイベント一覧表になってて、なにをやればどうなるかが網羅されていた。
「なるほどね。藍は戦闘スキル、紫は1UPか。いや、死んでも残機が減るだけなのは強いな。で、あとは定番のこれか。どれ」
地面に突き立てていたエクスマキナーを再度手に取り、そっとサイジはスキルを念じた。思い浮かべるのは、オレンジ色。
たちまち、空中に光の帯が現れ字を浮かべる。
その文字列が、今の自分のステータスだった。
「攻撃力256、防御力8、HP130、筋力11、体力7、俊敏性17、知性17、幸運6……固有スキルは【先読み】か。まあ、ずっとゲームしてたからこんなものかな」
早速、隣のルルのステータスも確認してみる。
ルルは召喚されてからずっと、魔王軍と戦ってきた歴戦の勇者だ。見た目はデカくてムチムチの幼女だが、戦士として数多の戦場を駆け抜けてきたのである。
早速表示してやると、ルルは子供みたいに瞳を輝かせて読み上げた。
「えっと、こ、こう、げき? ちから……サイジくん、むずかしくてよめないよー」
「どれどれ、攻撃力81、防御力55、ふむふむ。え、その鎧って意外と防御力高いんだなあ」
「そだよっ! なんかね、イッチョーラなんだって!」
「一張羅ね、勝負服ってことか。まあ、もうちょっと露出が少ないと助かるんだけど」
サイジは男としては小柄な方なので、自然と目線の高さにルルの胸が揺れてるのだ。
まじまじと見たりはしないが、件のビキニアーマーはハイレグな上に体の中心線がほぼ完全に露出している。肩当て等はかろうじて鎧の体裁を繕ってあるが、どう見ても下着か水着だった。
だが、ルルはどうやら気に入ってるらしい。
「すはだで、さっき? とか、さつい? そういうのをかんじやすいの!」
「へえ、意外と機能美を追求した形なのかな?」
「ねね、サイジくんっ! もっとよんで、わたしのつよさ!」
「ん、HP315、筋力78、体力89、俊敏性42、知性7、幸運207、かな?」
「えっと、それってつよい? すごいのかなあ」
「十分凄いよ。僕なんか、ずっと遊んでたからほとんど初期ステだし」
恐らく、女神アナネムが自ら最強武器だというあたり、エクスマキナーを装備したサイジの攻撃力256というのは、これが最大値ということだろう。
そこから逆算すると、ルルは十分に鍛えられた勇者だとわかる。
同時に、自分が武器以外はなにもかも貧弱な存在だとも知れた。
「ルルのスキルは【猪突猛進】だって」
「チョトツモーシン……どゆいみ?」
「猪みたいに真っ直ぐ突っ込む、それしか能がな……あ、いや、そういう突進が得意ってことかな」
「あ、そっかあ! わたし、いつもがんばってつっこむんだもんね!」
無駄に高い幸運の値も含めて、なかなかに頑張って成長している。スキルもきっと、前衛で戦う戦士系には相性が良さそうだった。
ルルが弱いとは思わない。
頭が弱いと思ってる人間はいるらしいが、サイジは気にしたことがなかった。
それどころか、少しは気を使ってやりたいし、彼女はいつでも全身全霊で一生懸命なだけなのだ。そういう彼女を、大きな妹ができたと思ってフォローしていけばいい。
なにより、いつも定期的に村に来て、サイジを冒険に誘ってくれた女の子なのである。
「さて、それじゃ行こうか。まずは王都に向かう……その前に。どれ、黄色」
虹色の聖剣が黄色く輝き、光の文字が空中に一覧表を表示する。
この村にはもう、取り逃したイベントフラグは一つしかないみたいだった。
そう思っていると、背後で聞き慣れた声がサイジを呼ぶ。
「これ、ボウズ」
「あ、お爺さん。ご無事だったんですね、よかった」
「お前さん、本当に勇者じゃったんじゃなあ。もう、行ってしまうのかい?」
すぐにサイジは、また脳裏に赤のイメージを走らせる。
また聖剣が赤く光って、この状態のサイジが保存された。
ちらりとまた、黄のスキルで表示されたイベント一覧を見る。
「ボウズ、これを持っておゆき。そっちのでっかいお嬢さんも」
「わあ、マントだねっ! おじーちゃん、ありがとっ! マントだ、マントー!」
餞別というわけだ。
ありがたいし、素直に老人の厚意が嬉しかった。
だが、よくみればイベントは完全に回収されていない。こういう時、薬草一つ、薬瓶一つでも取り逃がしたくないのがゲーマーである。
勿論、本来ならこうした『攻略本やゲームサイトを見ながらのプレイ』はあとで楽しみたいものだ。最初は事前の知識や思い込みはナシにして、あるがままを冒険したい。
ただ、今回は異世界の平和がかかってるため、手堅く行く。
すぐにサイジは青い閃きを脳裏に瞬かせた。
先程セーブした状態がロードされ、時間が蒔き戻る。
「ボウズ、これを持っておゆき――」
「お爺さん、ひょっとして……まだお困りのことはないですか?」
「ん、ああ……いいんじゃよ。それよりこのマントを持っていきなさい」
「いえ、僕はこの村に恩があります。それに、お爺さんたち村人の親切を忘れません」
「それはうれしいのう。なら、ワシの家が壊されてしまったんじゃが」
すぐにサイジは、片付けを手伝ってから出発する旨を伝えた。
二つ返事でルルが「わたしもがんばる!」と言ってくれる。
その時、イベント一覧表にフラグが立つ表示が点滅し始めていた。セーブトロード、そしてイベント一覧表……ゲーマーとしては思うところもないでもないが、まずは使えるスキルと割り切って試してみた。
もしかしたら、マントの他にもなにかもらえるかもしれない。
何度か通ったこともある老人の家に向かえば、見るも無惨な破壊のあとが広がっていた。
「お爺さん、これから村は」
「なに、自警団もおる。それに、魔王軍はそのピカピカの剣とボウズを追う方に力を入れるかもしれん」
「だったら嬉しいんですけどね」
瓦礫の山を押しのけ、まだ使えそうな品物を取り出す。
こういう時、見事に腹筋の割れたルルが大活躍した。筋力と体力に物を言わせて、次々と家財道具を掘り出してゆく。でも、やっぱりむっちりした太ももとかが目の毒だ。
そんなこんなで、サイジも調度品などを整理していたその時だった。
「おお、こんなところにしまっておったのか……やれやれ、懐かしいものが出てきたわい」
これだ、このイベントがまだ村に残っていたのだ。
アイテムは一つたりとも取り逃したくない、これがゲーマーの性である。
喜々として振り向いたサイジだったが、その表情が突然失われる。
そう、まるで山岳部の肉食モンスター、ティベットスナウルフみたいな顔になってしまった。
「ボウズ、これも持っていけ! ワシが若い頃に着ていた防具じゃ!」
「……ビキニアーマーですよね。ってか、ビキニそのもの? お爺さんは、男ですが」
「なぁに、若い頃は女装にハマっておってのう! かなりモテたんじゃよ。さあ!」
「あっ、いらないです」
半世紀前の思いでが蘇った。
サイジは600の精神的ダメージを受けた!
効果は抜群だ!
「まあ、そう言わずに。昨日女の子に変身してたじゃろ」
「い、いえ、本当にお気持ちだけ」
「まあ、そう言わずに」
「ですから、その」
「まあ、そう言わずに」
女神様、結構クソゲー要素盛り込んできてますね。
ふと、誰が作ったゲームなのか気になったが、詮索はしないことにした。
そっとサイジは、再びスキルを使ってロードし、マントだけもらって村を旅立つのだった。




