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第65話 解放された力

 第五の遺跡を出ると、春の谷はまだ穏やかな光の中にあった。


 山々が夕焼けに染まり始めている。俺たちは遺跡の入り口近くの岩場に腰を下ろした。長い一日だった。いや、長い旅だった。


「ライト、体は大丈夫か?」とレオが隣に座りながら聞いた。


「ああ、変な感じはしない。ただ……」


 俺は手のひらを見た。《深層感知》を使うまでもなく、自分の中の変化がわかる。《スキル無限》が、以前より深いところまで繋がった感覚だ。


「何が変わったの?」とシルヴィアが前に回り込んで俺の顔を覗き込んだ。


「試してみる」


 俺はゆっくりと魔力を解放した。いつもはなんとなく霧の中を手探りで探すような感覚だった《スキル無限》が、今は澄み切った湖のように全体が見渡せる。


「……《属性融合》」


 新しいスキル名が、自然に頭に浮かんだ。


 右手に炎を、左手に氷を同時に生み出した。そして二つを——混ぜた。


 爆発はしなかった。代わりに、金色に輝く球体が掌の上に生まれた。熱くも冷たくもない。ただ、満ちている。


「なんだこれ……」とレオが目を丸くした。


「魔力の圧が桁違いよ」とシルヴィアが目を細める。「属性の対立をねじ伏せて融合させるなんて、理論上は不可能なはずなのに」


「古代の魔導師が言っていた。スキルの本当の力を、まだ発揮していないって」


 俺は金色の球体を握りつぶした。光の粒が散り、すぐに消えた。


「これを使えば、かなりのことができる気がする」


「調子に乗るなよ」とガルダンが腕を組みながら言った。「強くなるのは結構だが、目的を忘れるな」


 そうだ。俺たちがここまで来たのは、ただ強くなるためじゃない。


「五つの遺跡を回った。何かが見えてくるはずだ」


 俺は《深層感知》を全力で展開した。谷全体の魔力の流れを読む。すると——五つの方角から流れてくる魔力の筋が、この谷の中央で交わっているのが見えた。


「シルヴィア、地図を出してくれ」


 彼女が旅の地図を広げると、俺は遺跡の場所を指した。砂漠、密林、海岸、雪原、そしてこの春の谷。五点を線で結ぶと——中央に一点が浮かぶ。


「ここだ」と俺は地図の一点を押さえた。「五つの遺跡の中心点。きっとここに、俺たちが向かうべき場所がある」


 全員が地図を覗き込んだ。


「旧王国の廃都……フォルスハイムよ」とシルヴィアが静かに言った。「百年前に滅んだ古代王国の首都。今は誰も近づかない禁断の地とされているわ」


「禁断の地、ね」とレオが口の端を上げた。「俺たちにぴったりじゃないか」


「行くしかないな」とガルダンが短く言った。


「もちろん」とリナが迷いなく頷いた。


 俺は地図から目を上げ、夕焼けの空を見た。


 王都を追放された日、俺は何も持っていなかった。名誉も、力も、信じてくれる人も。今は違う。最強のスキルと、最高の仲間がいる。


「行こう、フォルスハイムへ」


 五人は立ち上がった。旅の次の章が、今始まろうとしていた。

 その夜、俺たちは春の谷の中に野営した。雪原の外とは思えないほど暖かく、焚き火を囲んでいると旅の疲れがじわじわと抜けていくようだった。


「フォルスハイムか」とレオが火を見つめながら言った。「噂は聞いたことがある。百年前に突然滅んだ国だろ。原因は今も不明で、廃都には呪いがかかっているとか言われてる」


「呪い、というより結界だと思う」とシルヴィアが訂正した。「私が調べた資料によれば、フォルスハイムは古代魔法の中枢として機能していた都市よ。滅亡の原因は外敵でも疫病でもなく、魔法の暴走——それも、意図的なもの、という説がある」


「意図的に?」とリナが眉を寄せた。


「誰かが、わざと魔法を暴走させた。理由はわからない。でも、その暴走の痕跡が今も都市に残っていて、近づく者を拒んでいるの」


 火が揺れた。


「だとしたら、五つの遺跡はその暴走を抑えるために作られたものかもしれないな」と俺は言った。「それぞれの試練を越えた俺たちが鍵になって、封じられた何かを解放する——古代の魔導師はそのために俺たちを待っていた」


「その『封じられた何か』が良いものとは限らないぞ」とガルダンが静かに言った。


 誰も反論しなかった。


「それでも行くんだろ?」とレオが俺を見た。


「ああ」と俺は答えた。「行かなければわからない。それに——もし誰かを傷つけるものが封じられているなら、俺たちが止める」


「決まりね」とシルヴィアが星空を見上げた。「フォルスハイムまでは、ここから馬で十日ほど。途中の町で補給が必要ね」


「久しぶりに町か」とリナが目を輝かせた。「お風呂に入れますね!」


「それが一番大事か」とレオが苦笑した。


 笑い声が谷に広がった。


 張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。こういう瞬間が、俺は好きだった。命がけの旅の中でも、仲間と笑える時間がある。それだけで、前に進める気がした。


 翌朝、俺たちは谷を後にした。


 雪原を抜け、南へ向かう街道に出ると、遠くに小さな町の影が見えた。フォルスハイムへの道はまだ長い。しかし五人の足取りは軽かった。


 その時——《深層感知》が反応した。


 街道の先、茂みの陰に複数の気配。人間だが、魔力を帯びている。待ち伏せだ。


「止まれ」と俺は小声で言った。


 全員が即座に足を止めた。五人の旅で培った連携だった。


「何人だ?」とガルダンが低く聞く。


「八人。全員武装している。ただの盗賊じゃない——魔法使いが三人混じってる」


「面倒だな」とレオが剣の柄に手をかけた。


 俺は新たに得た《属性融合》の感触を確かめた。使い慣れたスキルではない。しかし、ここで試す機会がやってきた。


「俺が前に出る」と俺は言った。「みんなは後ろを固めてくれ」


「一人で行くの?」とリナが心配そうに言った。


「大丈夫だ」


 俺は一歩前に踏み出した。茂みが揺れ、黒ずくめの男たちが現れた。先頭の男が俺を見て、嘲るように笑った。


「一人か? ずいぶん度胸があるじゃないか」


「お前たちこそ」と俺は答えた。「引き返すなら今のうちだぞ」


 男たちが笑った。だがその笑いは、次の瞬間止まった。


 俺の両手に金色の光が宿ったからだ。

「なんだ……あの光は」


 男の一人が後ずさりした。魔法使いらしき者が構えを取るが、その手が微かに震えているのが見えた。《深層感知》で読み取れる——恐怖だ。


「言っただろ」と俺は静かに言った。「引き返すなら今のうちだ、と」


 先頭の男が怒鳴った。「怯むな! 数で押せ!」


 八人が一斉に動いた。しかし俺はもう動いていた。


《属性融合・閃光波》——


 自分でもスキル名を意識したのは初めてだった。金色の光が波のように広がり、街道を覆う。爆発も炎もなく、ただ穏やかに——しかし圧倒的な力で、八人全員が吹き飛んだ。


 誰も傷つけていない。意識を失わせ、武器を弾いただけだ。


 静寂が戻った。


「……やりすぎじゃないか?」とレオが呆れたように言った。


「加減したつもりだけど」と俺は手を見た。


「この調子で加減されたら、相手は目が覚めたあと泣くぞ」とガルダンが呟いた。


 倒れた男たちを縄で縛りながら、リナが感心したように言った。「八人を一瞬で……本当に、ライトさんは規格外ですね」


「褒め言葉として受け取っておく」


「当然でしょ」とシルヴィアが微笑んだ。「でも調査が必要ね。ただの盗賊にしては装備が良すぎる。誰かに雇われているかもしれない」


 俺はしゃがみ込み、先頭の男の服の内側を確認した。胸元に小さな刺繍——見覚えのある紋章だった。


「これは……」


 王都の紋章ではない。しかし、どこかで見た。記憶の引き出しをたどる。そして思い当たった。


 エルドライン侯爵家の家紋だ。


「侯爵家が俺たちを?」とレオが険しい顔をした。


「遺跡を回ったことが、どこかに伝わったのかもしれない」とシルヴィアが言った。「力をつけた追放者を、脅威と見なした者がいる」


 俺は立ち上がった。地図の上でフォルスハイムの位置を思い浮かべる。道のりはまだ長い。そして今、行く手を阻む者たちがいることがわかった。


「急ぐ必要が出てきたな」


 俺は仲間を見た。全員が頷いた。


 フォルスハイムへ——そして、追ってくる影との戦いが始まろうとしていた。

毎日更新中!ついに追手が登場。次話もお楽しみに!

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