第17話 薬草採取と森の秘密
今回もお読みいただきありがとうございます!
第17話は森での薬草採取依頼。のどかな日常回のはずが……森の奥に、思わぬものが潜んでいました。
どうぞお楽しみください!
朝、三人でエルザの東門を出た。
目的地は街から二時間ほどの森林地帯——碧翠の森と呼ばれる、薬草の産地として知られる場所だ。
「依頼内容は緑輝草の採取、二十束ね」
ミレイが依頼票を見ながら歩く。
「薬師ギルドが高値で買い取ってくれるやつか」とブルス。「まあ、戦闘なしなら楽でいいな」
「採取系、嫌いじゃないわ。ちゃんと探せば大収穫になることもあるし」
ミレイが楽しそうに言う。
俺は二人の会話を聞きながら、森への道を歩いた。
◇
碧翠の森は、名前の通り青みがかった緑の木々が密生している。
差し込む光が葉の間でくだけ、地面に細かい光の模様を作っていた。
「きれいな森ね」
ミレイが素直に言う。
「緑輝草は湿った場所に生えます。沢の近くを中心に探しましょう」
「詳しいな、アキト」
「錬金術の勉強で、薬草の生態は少し調べました」
ブルスが感心したように頷く。
しばらく歩くと、細い沢が現れた。
岸辺に、薄い緑色の葉をした草が群生している。
「あった。緑輝草よ!」
ミレイが駆け寄り、慣れた手つきで根元から丁寧に採取していく。
ブルスが左右を警戒しながら立つ。俺も採取を手伝いながら、あたりを観察した。
——ん?
沢の上流方向、木々の隙間から何かが光った気がした。
「少し上流を見てきます」
「気になるものでも?」とミレイ。
「ちょっとだけ」
◇
沢を五十メートルほど遡ると、岩場の割れ目から淡い青白い光が漏れていた。
「……これは」
岩の隙間を覗くと、その奥に小さな洞があり、中に半透明の結晶体が生えていた。
拳ほどの大きさで、内側から光を放っている。
「魔力結晶……?」
魔力が自然濃縮されてできる希少鉱石だ。
錬金術の素材として最上級品に分類され、ギルドでも滅多に流通しない。
俺はそっと手を伸ばし、一つ触れてみた。
結晶が俺の手に反応するように、ほのかに輝きを増す。
「……おい、アキト!」
後ろからブルスが走ってきた。
「ミレイが採取終わったって——なんだ、それ?」
「魔力結晶です。かなりの純度のものが、ここにまとまって生えています」
ブルスが目を丸くする。
「魔力結晶って、高いやつか?」
「Aランクの素材です。一粒で金貨十枚前後はするかと」
ブルスが絶句した。
「……何粒ある?」
「十二、三粒は」
しばらくの沈黙。
「……採っていいのか?」
「洞が誰かの所有地でなければ、採取は問題ありません。自然産出のものは発見者の権利になります」
「そうなのか」
ブルスが神妙な顔で頷く。
ちょうどそこへミレイが追いついてきた。
「何してるの二人とも——って、何これ!?」
目を輝かせてしゃがみ込む。
「魔力結晶! 本物!?」
「ええ」
「こんな場所に群生してるなんて……この森、すごいわ」
ミレイが感動している。俺は採取用の布袋を取り出した。
「記録として、ギルドにも産地を報告した方がいいでしょう。管理依頼が出れば、三人で優先的に受けられます」
「さすがアキト、抜け目ないわね」
ミレイが笑いながら採取を手伝い始める。
◇
緑輝草を二十束、魔力結晶を十三粒。
午後の早い時間には採取を終え、三人でエルザへの帰路についた。
「今日、当たりの日だったな」
ブルスが機嫌よく言う。
「魔力結晶の買取、いくらになるかしら」
「ギルドの素材窓口で換算してもらいましょう。俺の見立てでは、十三粒で百五十万ルム前後かと」
ミレイとブルスが同時に足を止めた。
「……ひゃく、ご、じゅうまん?」
「はい」
二人が顔を見合わせる。
「アキト、お前今さらっとすごいこと言ったな?」
「事実ですが」
「三人で割っても五十万ルムずつ……!」
ミレイが頭を抱える。
「今日、薬草採取に来ただけなのに……」
「運が良かっただけですよ」
俺はさらっと言ったが、正確には違う。
あの光に気づいたのは、無意識に魔力の流れを感知していたからだ。
この力が、少しずつ使いこなせるようになっている。
夕暮れの道、三人で並んで歩く。
ブルスが鼻歌を歌い始め、ミレイがそれをからかう。
俺は静かに微笑みながら、森を振り返った。
——まだまだ、この世界には知らないことが多い。
それが楽しみで仕方なかった。
◇
ギルドの素材窓口で鑑定してもらうと、魔力結晶は予想以上の評価が出た。
「十三粒で、合計百七十八万ルムです」
窓口の担当者が、淡々と言う。
「百七十八万……」
ミレイが呆然と繰り返す。
「この純度の魔力結晶がまとまって採取できたのは、記録では十数年ぶりかと思います。産地情報もいただけますか? ギルドとして管理地指定の手続きを取りたいのですが」
「もちろんです。地図に記します」
俺が持参した地図に採取地点を書き込むと、担当者が複写を取り、代わりに証明書を発行してくれた。
「今後この産地の管理依頼が発生した場合、発見者のパーティーに優先的にご連絡します」
ブルスがにやりと笑う。
「定期収入ルートが一個できたな」
「そうなりますね」
◇
その夜。三人で食堂に入り、今日の収穫を祝った。
「緑輝草の報酬が六千ルム、魔力結晶が百七十八万ルム……合計で、一人あたり約六十万ルム」
ミレイが紙に計算を書きながら言う。
「冒険者始めて一ヶ月足らずで、六十万ルム……」
「Cランク冒険者の年収が大体二百万前後と言われていますから、一日でその三割を稼いだ計算になりますね」
「お前、またさらっとすごいこと言うよな」
ブルスがジョッキを傾けながら苦笑する。
「ねえ、アキト」
ミレイがふいに真面目な顔をした。
「あの結晶が光ってたの、最初に気づいたのあなたでしょ。どうして分かったの? 私もブルスも、全然気づかなかったわよ」
俺は少し考えてから、正直に言った。
「魔力の流れが、あの方向から強く感じられました。意識はしていませんでしたが、自然と感知していたようです」
「……魔力感知を無意識で?」
「……お前、本当に何者なんだ」
ブルスとミレイが、同時に言った。
俺は苦笑した。
「ただの、Cランク冒険者ですよ」
「嘘つけ」と二人同時。
食堂に笑い声が広がった。
◇
宿に戻り、一人になった俺は、窓の外の夜空を見上げた。
星が多い夜だった。
六十万ルム。
十分すぎるほどの資金だ。
錬金術の工房を借りることも、新しい装備を整えることも、本を買い揃えることもできる。
だが、今夜感じたのはお金のことよりも別のことだった。
——俺の力は、まだ広がっている。
魔力感知、複数属性の同時発動、独自術式の開発。
これだけでも、既に常人の範囲を大きく超えている。
さらに先に、何がある?
『無限素質論』の言葉を思い出す。
『無限素質者の成長に、終わりはない』
終わりがない。
それは、少し恐ろしくもあり、そして——途方もなく、楽しみだった。
明日も、次の一歩を踏み出そう。
エルザの夜空に、星が静かに瞬いていた。
第17話、お読みいただきありがとうございました!
アキトの観察眼と魔法の応用力、どこまで広がるのか楽しみですね。
次回第18話もお楽しみに!ブックマーク・評価いただけると励みになります!




