表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/103

第15話 勇者の影

今回もお読みいただきありがとうございます!

第15話、エルザに勇者パーティーが到着します。久しぶりの再会……いや、向こうはアキトの存在をどう見るのか。

どうぞお楽しみください!

 翌朝、ギルドに向かうと、入り口付近がざわついていた。


「来た来た、本物だ!」

「す、すげぇオーラ……」


 人垣の向こう、大通りから数人の集団が歩いてくるのが見えた。

 全員、上質な装備に身を包み、堂々とした足取りをしている。

 先頭に立つ、鮮やかな金髪の青年——勇者、レイ・アルドレス(れい・あるどれす)

 その右隣に、長い銀髪の女——付与術師、ルナ・フォルス(るな・ふぉるす)

 さらに後ろに、大柄な男と俊足の弓使い。


 そして——


 俺は視線を伏せた。


   ◇


「アキト、知り合い?」


 隣に来たミレイが、俺の様子を見てそっと聞く。


「……以前、少し縁があった人たちです」

「少し、ね」


 ミレイは深くは聞かなかった。


 勇者パーティーはギルドに入り、受付に向かっていく。

 俺は人垣の端で、できるだけ目立たぬよう壁際に移動した。


「すまないが、ギルドマスターに取り次いでほしい。王命による調査だ」


 レイの落ち着いた声が響く。

 受付のエリカさんが、少し緊張した様子で奥に引っ込んでいく。


 その間、ルナが周囲をゆっくりと見回した。

 澄んだ銀色の瞳が、ゆっくりと、俺のいる方向へ——


 俺は息を止めた。


 視線が交わる、一瞬前。

 ブルスが「おい、依頼票見てくるか?」と俺の腕を引いた。


「……そうしましょう」


 俺たちは自然な動きで掲示板の方へ移動した。


   ◇


 依頼票を眺めながら、ブルスが低い声で言う。


「あの連中が勇者パーティーか。確かに、気配が違う」

「強いですよ。本当に」

「……お前、あいつらと何かあったのか?」


 俺は少し考えてから、静かに答えた。


「以前、一緒にいたことがあります。でも、今は別の道を歩いている」

「……そうか」


 ブルスはそれ以上聞かなかった。

 ただ、依頼票を一枚手に取りながら言う。


「俺たちは俺たちの仕事をすりゃいい。それだけだ」

「……ありがとう、ブルス」


 ブルスは照れたように鼻を鳴らした。


   ◇


 昼過ぎ、俺は一人でギルドの裏手にある訓練場に来ていた。

 軽く魔法の調子を確認したかっただけだ。


 だが——


「……久しぶりね、アキト」


 振り返ると、そこにルナが立っていた。

 白いローブに銀髪、静かな表情。かつて何十回も見た顔。


「……ルナ」

「生きてたのね」


 感情のない、淡々とした声だった。


「ええ」

「追放されて、まだここにいるの。意外だった」

「行くあてがなかったので」


 俺は努めて平静を保つ。


「……ランク、Cまで上がったって聞いたわ。ギルドの受付が話してた」

「運が良かっただけです」

「そう」


 ルナはしばらく無言で俺を見つめ、やがて言った。


「レイは、あなたのことを知らない方がいいと思ってる。私もそう思う」

「……分かってます」

「関わらないでくれる?」

「もとより、そのつもりです」


 ルナは小さく頷き、くるりと背を向けた。


「……一つだけ言っておく」


 立ち去り際、ルナは足を止めずに言った。


「あなたが無能じゃないことは、私には分かってる。鑑定眼に引っかからないだけで」


 俺は何も言わなかった。

 ルナの背中が、訓練場の外へ消えていく。


 風が静かに吹いて、俺の髪を揺らした。


   ◇


 夕刻、宿に戻った俺は、窓の外を眺めながら静かに息を吐いた。


 ルナの言葉が、頭の中で繰り返される。


 ——あなたが無能じゃないことは、私には分かってる。


 それは、罪悪感からくる言葉だろうか。

 それとも、ただの事実確認か。


 どちらでもいい。


 俺はもう、誰かの評価に左右されるつもりはない。

 ただ、自分の道を歩くだけだ。


 エルザの夕暮れが、空を赤く染めていた。

 どこか遠くで、鐘の音が鳴り響いた。


   ◇


 翌朝早く、俺は一人で街の外れにある小高い丘に上がった。

 エルザの街並みが一望できる場所で、たまに息抜きに来る。


 昨日のことを、もう一度整理したかった。


 ルナは、俺の力に気づいている。

 だが、関わろうとしない——むしろ、切り離そうとしている。


 レイは。俺の存在を知っているのか?


 追放を命じたのは、レイ本人だった。

 「お前は足手まといだ。パーティーの荷物になるくらいなら、出て行け」

 あの日の言葉は、今でも耳の奥に残っている。


 怒りは、とっくに消えた。

 憎しみも、すでにない。


 あるのはただ、静かな決意だけだ。


 ——俺は、自分の力で歩く。


 丘の上、朝風が吹き抜けた。


   ◇


 ギルドに戻ると、勇者パーティーの姿はすでになかった。

 調査のため、北部へ向けて早朝に発ったらしい。


「嵐みたいな一日だったわね」


 ミレイが受付近くで腕を組みながら言う。


「あいつら、強そうだった。俺じゃ太刀打ちできないな」


 ブルスが苦笑する。


「でも、なんだろう……あのパーティー、なんか雰囲気暗かったな。強いのに、みんな疲れてる感じで」


 俺は黙って聞いていた。


 ミレイがふと俺を見る。


「アキトは、何か感じた?」

「……強い人たちだと思いましたよ」


 それだけ言って、掲示板に向かう。


 今日の依頼を選ぼう。

 俺には俺の、やるべきことがある。


「おい、これどうだ。北部の街道で盗賊が出るらしい。Cランク以上限定だ」


 ブルスが一枚の依頼票を持ってくる。

 ミレイが覗き込む。


「報酬もそこそこね。三人なら問題ないんじゃない?」


 俺は依頼票を受け取り、内容を確認した。

 北部——勇者パーティーが向かった方向と、ほぼ同じだ。


「……受けましょう」


 ブルスが「よし」と頷く。ミレイがくるりと受付に向かう。


 俺はもう一度、依頼票を見た。


 勇者の影は、遠ざかった。

 だが、いつかまた交わる日が来るかもしれない。


 その時——俺は、もう以前の俺じゃない。


 依頼票を折りたたみ、懐にしまう。

 三人で、次の一歩を踏み出した。


   ◇


 街道への出発は翌早朝に決まった。

 その夜、俺はまた『無限素質論』の続きを読んだ。


 第四章のタイトルは『無限素質保持者の記録』。


 古い文書から引用された、断片的な記述がいくつか並んでいた。


『かの者は戦場において、炎、氷、雷、土、風の五属性を同時に操り、千人の軍勢を単独で押しとどめたと伝えられる』


 俺はその一節を指でなぞった。


『無限素質者は、スキルの上限を持たない。習得できる術の数に制限がなく、また属性の垣根を越えて発動できる。ただし、その力に本人が気づくためには、何らかの「きっかけ」が必要とされる』


 ——きっかけ、か。


 俺の「きっかけ」は、追放だった。

 荒野に一人放り出された、あの夜。

 背水の陣で魔法を放った瞬間、何かが解放された感覚があった。


 あの時、俺の中の何かが、ようやく目覚めたのかもしれない。


 ページをめくると、最後の章の書き出しにこんな言葉があった。


『無限素質者が本当の力に気づく頃、世界はすでに動き始めている。気づいた時にはもう遅い——そう嘆く者もいる。しかし、真の無限素質者は遅くとも必ず追いつく。なぜなら、彼らの成長には、終わりがないのだから』


 俺は本を閉じた。


 ランプの炎が、静かに揺れる。


 ——遅くとも、必ず追いつく。


 胸の奥で、何かが静かに燃えた。

 小さいが、確かな火だった。


 明日、また歩き出す。

 それだけで十分だ。


 窓の外、エルザの夜空に星が瞬いていた。

第15話、お読みいただきありがとうございました!

旧仲間との再会、アキトはどう動く?次回第16話もお楽しみに!

ブックマーク・評価いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ