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第11話 新しい仲間

今回もお読みいただきありがとうございます!

第11話では、ブルスが紹介する新しい仲間が登場します。

果たしてどんな人物か――お楽しみください!

 七日目の朝、アキトは約束の場所へ向かった。


 エルザの北外れにある、こぢんまりとした酒場。昼前の時間なので客はおらず、店主が静かにグラスを磨いていた。


 奥のテーブルにブルスが座っており、その向かいにもう一人、すらりとした人影があった。アキトが近づくと、その人影が振り返った。


 女性だった。


 年齢はアキトと同じくらい。灰色がかった銀髪を短く切り揃え、細身の体に革の軽装。背中に二本の短剣を交差させて背負っている。目の色は透き通るような薄い青――どこか冷たい印象の美人だった。


「待ってたぞ」


 ブルスが手を挙げた。女性はアキトを一瞥して、値踏みするように視線を上下させた。


ミレイ(みれい)だ。ブルスに呼ばれてきた」


 名前だけ、淡々と告げた。


 アキトは軽く会釈した。


霧島(きりしま)アキト。よろしく」


「ふうん」


 ミレイはもう一度アキトを見て、ブルスに視線を戻した。


「本当にこれが、お前が言ってた化け物か? ただの坊ちゃんにしか見えないんだが」


「見た目で判断するな。俺もそうだった」


「見た目以外に判断材料がないだろ」


 ミレイの声は乾いていた。馬鹿にしているというより、本当に判断がつかず困っている、という風だった。


 アキトはミレイの装備を鑑定スキルで見た。短剣は高品質。斥候スキル、気配察知、罠解除――スキル構成は典型的な斥候で、Eランク中位相当。ブルスと同程度の実力者だ。


「ミレイはな、元々Cランクパーティーの斥候だった。二年前にパーティーが解散して、今はソロでやってる」


「解散の理由は聞かないのか」


 ミレイがアキトを見た。


「聞かない。必要なら自分で話すだろう」


 ミレイは少し目を見開き、それから小さく笑った。


「気が利くな」


「俺も同じ目にあっているから」


「……ほう」


 ミレイはそれ以上は追及しなかった。ブルスが二人のやり取りを見ながら、満足げに頷いた。


「じゃあ、お試し依頼の話をしよう。ギルドで三人で受けられそうなのを探したんだが、いいのがあった」


 ブルスは一枚の依頼票を取り出した。


「エルザ郊外の廃坑跡、通称『鉄錆の洞窟(てつさびのどうくつ)』。Dランクダンジョン相当。内部で魔物が発生しているので調査と、可能なら魔核の採取。依頼ランクはD」


「Dランク? あたしたちEランク二人とFランク一人だろ?」


 ミレイが眉をひそめた。


「アキトはEランクだ、昨日上がった」


「……聞いてないけど。まあ、いい」


 ミレイが書類に目を通し、鼻を鳴らした。


「斥候向きの依頼ではあるな。内部構造が分かってない廃坑は、あたしの得意分野だ。まずは偵察、奥に進むかは状況次第でいい?」


「それでいこう」アキトが同意した。「無理はしない。撤退条件も先に決めておこう」


「……Fランクからいきなりそんな台詞が出るのか」


「Eランクだ」


「うるさい」


 ミレイは立ち上がり、肩にかけた荷物を整えた。


「出発はいつだ」


「明日の朝でどうだ」ブルスが提案した。「今日のうちに装備と食料を整えておこう」


「了解」


 ◇


 酒場を出たアキトは、ミレイと並んで歩いていた。ブルスは別の用事があると言って先に別れた。


霧島(きりしま)アキト、ね」


 ミレイがぽつりと言った。


「どうかしたか」


「いや、聞いたことがない名前だと思って。冒険者界隈は狭いから、少し実績のある奴は噂で耳に入るんだけど」


「登録して一週間だからな」


「一週間、ね……」


 ミレイは納得しない顔だった。


「ブルスがべた褒めだった。あいつはああ見えて目は確かだから、褒めるときはちゃんと理由がある。あたしが疑ってるのは、実力じゃなくてお前の素性の方」


「何が気になる」


「そこまで強いのに、なぜEランクに留まるのか。なぜFから始めたのか。それがどうにも引っかかる」


 アキトは少し歩いて、静かに答えた。


「前のパーティーで、役立たずと言われて追放された」


「……は?」


「だから、今度は自分の足で上がっていこうと思った。それだけだ」


 ミレイはしばらく黙った。それから短く息を吐いた。


「……追放か。あたしも似たようなもんだ」


「聞いても?」


「Cランクのパーティーで、斥候をやっていた。リーダーが欲を出して、身の丈に合わないAランクダンジョンに挑んだ。結果、全滅寸前。生き残ったのはあたしだけ」


「それは」


「あたしだけ逃げたんだ。仲間を見捨てて」


 ミレイの声には抑揚がなかった。


「以来、ソロでやってる。誰かを背負うのが怖くなった」


 アキトは足を止めた。


「なぜそれを、今の俺に話す」


「……さあ。ブルスが勧める相手なら、少しくらい信頼してもいいかと思ったのかもな」


 ミレイは振り返らずに歩き続けた。アキトはその背中を追いながら、静かに思った。


 完璧な人間なんていない。誰しも、抱えているものがある。


 パーティーというのは、その傷を抱えながらも、背中を預けられる場所なのかもしれない。


 明日、初めての依頼が始まる。


 ◇


 ミレイと別れたあと、アキトはギルドへ寄ってからいったん宿に戻った。


 装備は最小限しか持っていない。といっても、スキルでほとんどカバーできるのだが、パーティーで行動する以上、見た目の信頼感も必要だ。他の冒険者から見て明らかに装備不足では、仲間に余計な心配をかけてしまう。


 武器屋で買ったのは、手頃な長剣が一振りと、革の胸当て。どちらも安物だが、錬金術で後から強化するつもりだった。


 宿に戻り、胸当てと剣を並べて、アキトは錬金術スキルを起動した。


 手のひらを装備の上にかざし、魔力を流し込む。鑑定で素材の構造を把握し、錬金で組成を組み替えていく。薄い鉄が凝縮され、密度を変えていく。魔法耐性が少しずつ上がっていく。


 三十分ほど作業して、できあがった装備の性能を鑑定で確認した。


(……こんなもんか)


 安物の胸当てが、店頭に並ぶ高級品を超える耐久性と魔法耐性を持つ装備に変わっていた。剣も、刀身の硬度と切れ味が別物になっている。


 派手さはない。見た目はただの安物のまま。それが良かった。


「目立たず、ちょうどいい性能」


 独りごちて、アキトは装備を片付けた。


 ◇


 窓の外は夕暮れに差しかかっていた。


 アキトはベッドに腰を下ろし、明日のことを考えた。


 Dランク相当のダンジョン、鉄錆の洞窟。廃坑がモンスターの巣に変わったというよくあるパターンだ。構造は分からないが、スキルがあればどうとでもなる。


 問題はむしろ、仲間との連携だった。


 ブルスとは呼吸が合いやすい。護衛依頼で一度組んでいるし、性格的にも分かりやすい男だ。


 ミレイは未知数だった。斥候として優秀なのは間違いないが、自分を「仲間を見捨てた」と言う彼女が、今度の依頼で何を感じるのか。


 アキトはしばらく目を閉じ、静かに息を吐いた。


 無理に信頼させる必要はない。ただ、自分の側は誠実に動けばいい。信じてもらえるかどうかは、相手が決めることだ。


 窓の外で、エルザの街に夜の気配が降りてきていた。


 明日は、新しい一歩だ。

第11話、お読みいただきありがとうございました!


新メンバー・ミレイの登場でした!

ちょっと冷たく見えるけど過去を抱えた彼女と、追放されたアキトの相性や如何に。


次話ではいよいよ三人で初ダンジョンへ!

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