第1話 追放された日
読んでくださりありがとうございます!
主人公が理不尽に追放されるところから始まります。
スカッと系・チート系が好きな方に楽しんでいただける作品を目指しています。
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「アキト、お前はクビだ」
勇者・レイドの言葉は、夕暮れの野営地に静かに落ちた。
霧島アキトは焚き火の傍で夕食の準備をしていた手を止め、ゆっくりと顔を上げた。
「……え?」
「聞こえなかったか? パーティーを出ていけと言っている」
レイドは腕を組み、アキトを見下ろしていた。その両脇には、魔法使いのエリナ、斥候のカイ、治癒師のミア――共に旅をしてきた仲間たちが並んでいる。
誰一人、アキトの目を見ようとしなかった。
「どうして……俺、何かしたか?」
「何かした、じゃないだろ。何もしなかったんだよ、ずっと」
エリナが鼻を鳴らした。
「スキルなしのくせに居座って、ご飯だけ食べてさ。荷物持ちなんて冒険者でも何でもない。お荷物って言うんだよ、それ」
「でも俺は……みんなのサポートを――」
「もういい」
レイドが手を振った。
「明日、王都に戻る。お前は今夜ここを出ていけ。餞別はやらん。パーティーの金は俺たちで稼いだものだからな」
アキトは荷物袋を投げつけられた。中身は自分の着替えと、銅貨が数枚。旅の間に受け取った報酬の、ほんの端切れだった。
笑い声が聞こえた。カイだった。
「スキル鑑定で『無能』って出た時から分かってたよ。なんで勇者様が拾ってやったのか、俺には理解できなかったけどな」
ミアは何も言わなかった。ただ、視線を地面に落としていた。
アキトは立ち上がり、荷物袋を肩に掛けた。
何かを言おうとして、やめた。
言葉は何も変えない。そのことを、この一年の旅で十分に学んでいた。
「……分かった。世話になった」
それだけ言って、アキトは闇の中へ歩き出した。
◇
辺境の森の中で、アキトは丸太に腰を下ろしていた。
月明かりだけが頼りの暗がりで、膝を抱えて空を見上げる。
――無能。
その言葉は、十六歳のスキル鑑定の日から、ずっとアキトに貼りついていた。
勇者レイドに拾われた時は、これで変われると思った。一年間、誰よりも早く起きて食事を作り、荷物を運び、野営地を整えた。戦闘には出られなくても、後方で役に立てると信じていた。
だが結果は、これだ。
「……ははっ」
乾いた笑いが漏れた。
アキトは懐から古びた魔道具を取り出した。簡易ステータスプレートと呼ばれる、自分のステータスを確認できる安物だ。旅の間、ずっと持ち歩いていたが、ろくに見ることもなかった。
――どうせ何も変わらない。そう思っていたから。
「でも、もう関係ないか」
ぽつりと呟いて、アキトはプレートに魔力を流した。
淡い光が浮かび上がり、文字が並んでいく。
【名前】霧島アキト
【年齢】十七歳
【職業】無職
【レベル】1
【スキル】――
「やっぱり何もない、か……」
視線を落とそうとして――アキトは止まった。
スキルの欄。そこに刻まれているのは、鑑定士が「読めない」と言った、あの記号。
[#大きな文字]∞[#大きな文字終わり]
「……なんで今まで気にしなかったんだ、俺」
アキトは目を細めた。
あの日、王都の鑑定士はこう言った。
『エラーですね。魔道具の不具合でしょう。スキルはゼロ、つまり《《無能》》です』
それを疑わなかった。周りも疑わなかった。だからアキトも、そういうものだと思い込んでいた。
だが今、こうして一人でプレートを見つめると、その記号は確かに存在している。
[#大きな文字]∞[#大きな文字終わり]
無限大を意味する、その記号が。
「これって……もしかして」
アキトは試しに念じてみた。何かスキルを使おうと、意識を内側に向けた。
その瞬間。
頭の中に、濁流のような情報が流れ込んできた。
膨大な、膨大な――スキルの一覧が。
剣術・魔法・治癒・錬金術・鑑定・隠密・言語理解・空間把握・炎魔法・氷魔法・雷魔法・風魔法・土魔法・光魔法・闇魔法・召喚・結界・時間操作――
「なに、これ……」
リストは止まらなかった。百を超え、千を超え、それでも続いていた。
アキトはプレートを握りしめたまま、暗い森の中で呆然と座っていた。
やがて、ゆっくりと立ち上がる。
「追放されて、正解だったかもな」
誰もいない夜に、アキトは静かに笑った。
これが始まりだった。
世界最強の冒険者が、辺境の森から歩き出す瞬間が。
第1話、読んでいただきありがとうございました!
追放シーンはなるべくスッキリ描きたかったので、
あえてアキトには多くを語らせないようにしました。
次話からは彼の「無限スキル」が本格的に動き始めます。
かつての仲間たちがどんな顔をするか……お楽しみに!
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