↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍵の異常者-盗屋ラックの哀喪  作者: 轟号剛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/32

オルゴール

王国の首都アルクタールから少し外れた場所に、小さな本屋がある。

店の名はルールオヴ。


その店を一人で切り盛りしているのが、ラック・アルバンスだった。


客は一人もいない。

ラックはレジ台に足を乗せ、のんびりと一冊の本を読んでいる。その姿は、とても客商売をしている人間のものとは思えなかった。


黒髪のウルフヘアに、鋭い目つき。

胸元には一本の紐が掛けられ、その先には小さな鍵がぶら下がっている。


ラックが無表情で読んでいる本の題名は――

『喪失の天使』。


いつもどおり、静まり返った店内で時間を潰していると、不意に扉が開いた。


入ってきたのは、一人の中年男性だった。


「いらっしゃい」


ラックは本に栞を挟んで閉じ、レジ台から足を下ろして立ち上がる。


「どんな本をお探しで?」


眠たそうに目を擦りながら、形式的に問いかける。


「盗みの依頼です」


その一言で、ラックの表情が一変した。


「……どこでそれを?」


ラックは男を店の奥のテーブル席へと案内しながら、鋭い視線を向ける。


「情報屋のサイフォンから買いました」


男はそう言って、一枚の紙を机の上に置いた。


――――――――

【ラックへ

あんた好みの依頼者みたいだから教えてあげたわよ。

仲介マージンは報酬の50%でよろしく♡

情報屋 サイフォン】

――――――――


それを見たラックは、短くため息を吐いた。


(相変わらずぼったくりやがって……)


心の中で毒づき、改めて男を見る。


「で、依頼内容は?」


男は一枚の写真を取り出した。


「これは?」


写真には、金色の丸い壺のような物体が写っている。


「オルゴールです。

私の父が、五歳の誕生日に両親から贈られたものだそうです」


そう言ってから、思い出したように男は名刺を差し出した。


「申し遅れました。

私、ゴンド・ラークスと申します」


ラックは名刺を受け取り、レジ台の上に置かれていた名刺入れへしまう。


「俺はラック・アルバンス。

悪いが、名刺は持っていない」


代わりに手を差し出すと、ゴンドは微笑んで握手に応じた。


「そのオルゴールが、今回の依頼に関係してるってわけか?」


ゴンドは頷き、さらに二枚の写真を取り出す。


「こちらが父、バルク・ラークスです。

見ての通り……もう長くはもたないと」


写真には、病院のベッドで点滴に繋がれた老人の姿が写っていた。

ラックは無言でそれを見つめる。


「父は、死ぬ前にどうしてもそのオルゴールの音色を聞きたいと……」


ゴンドの声が震える。


「盗まれたのか?」


感情を挟まず、ラックは端的に尋ねた。


「いえ……盗まれたわけではありません」


ゴンドは一度息を整え、語り始める。


「父が五歳の誕生日を迎えた翌日、家が火事に遭いました。

放火だったそうです。家は全焼し、両親も亡くなりました」


ラックの眉がわずかに動く。


「父だけは、腕に抱えていたオルゴールと共に救出されました。

ですが、その後引き取られた親戚によって、オルゴールは売られてしまったのです」


「……最低だな」


思わず吐き捨てると、ゴンドは首を横に振った。


「いえ、責めることはできません。

その家も貧しく、父が増えたことで生活は限界でした。

オルゴールは特注の高級品……売らずにいられない状況だったのです」


涙をハンカチで拭い、ゴンドは続ける。


「父はそれから今日まで生きてきました。

ですが、自身の死を悟ったとき……私にこう頼んだのです」


――一度でいい……あのオルゴールを……父母の思い出を聞きたい……。


「私は必死に調べ、現在そのオルゴールを所有している貴族を突き止めました。

一日だけでも貸してほしいと頼みましたが……」


「法外な金額を吹っかけられた、か」


ラックが言うと、ゴンドは苦く頷く。


「はい。

これが、そのために用意していた金です」


風呂敷から出された札束を見て、ラックは察した。

これを遥かに超える額を要求されたのだろう。


「時間がない中で、途方に暮れていたところ……サイフォンに、ここを教えられました」


ラックはゴンドを真っ直ぐ見つめる。


「……依頼は受ける。

ただし条件がある」


人差し指を立てた。


「オルゴールを貸すのは一日だけ。

その後は、俺が責任を持って元の貴族の元へ返す」


「もちろんです。

一度でも父に聞かせられるなら……」


ゴンドは深く頭を下げた。


「報酬は、その札束でいいな?」


「問題ありません」


「よし」


ラックは立ち上がり、口元をわずかに歪める。


「じゃあ――

いっちょ、盗りに行ってくるか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。