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偽勇者たちとの対話

「なんだ、ゼノさんも冒険者だったのかよ!」


「ええ、まだまだ駆け出しですけどね。治安が悪いと聞いていたので困っていたんですよ」


「俺らからすりゃ、あんたの両腕の刺青の方が怖ぇよ。どっかのやべぇ奴に話しかけられた、って思っちまったぜ」


 席を移し、僕は偽勇者一行と共に酒を飲んでいた。

 一応、ある程度僕の身柄を説明し、その上で会計を申し出た途端に、モンク――ランディから、随分とフレンドリーに話しかけられるようになった。誰だって、自分の飲み食いした分の会計を持ってもらえれば、こんな風に機嫌が良くなるものだ。

 そして、僕の両腕の刺青については、ちゃんとチェリルにも行った説明を繰り返している。あくまで、部族の風習で刻んでいるだけだと。


「僕としては、これのせいで随分と怖がられるから困りものですよ。おかげで、憧れの冒険者になったっていうのに、パーティが組めないんですから」


「まー、こう言っちゃ何だけど、怪しすぎるもんなぁ。しかも魔術師だろ?」


「ええ。火属性だけは中級が使えますけど、他は初級止まりです」


「その中途半端さだと、さすがに需要がねぇよなぁ……ケーナはどう思う?」


「うん……まぁ、一つくらいは上級が使えないと、さすがに冒険者としては厳しいかな、とは思うけど」


「あれ? ケーナ、きみは上級が使えたのか?」


「あたしのことじゃないから! あくまで一般論として言ってるだけだから!」


 シルヴィのとぼけたような言葉に対して、きーっ、と怒るケーナ。

 ランディほど友好的に接してくれているわけではないけれど、それなりに彼らの中でも信用を置いてもらえたらしい。


「でも、つまりゼノさん。あんた、一人で冒険者やってんの? それで稼ぎとか大丈夫なのか?」


「基本的には、訪れた街で氷作りのアルバイトをしていますよ。割と時間も魔力も食いますけど、実入りはいいもので。たまに専属にならないか、って話もいただきますけど、根っからの旅人気質なものですから、一ヶ所に長居しないんです」


「あー……じゃあ、ロシュフォールも来たばかりなのか?」


「ええ。ウヴァル帝国から船で、ブリスペルまで直接来たものですから。故郷では、ロシュフォールは平和な国だと聞いていたもので」


「国が荒れたのは、ここ最近だからね。田舎だと、知らないのも仕方ないかもしれない」


「んだな。おいオヤジ、麦酒おかわり!」


 ランディが厨房の方にそう叫ぶと共に、「あいよー」と店主からの声が聞こえる。

 既に片方――二人組の男たちは帰ったらしく、店内にいるのは僕と偽勇者一行だけである。暇そうに立っていた娘が店主から麦酒を受け取り、そのまま席へと持ってきた。僕はその入れ替わりに、彼女に銅貨を握らせる。


「あのねぇ、ランディ。さすがに飲み過ぎよ!」


「いいじゃねぇか。別に、ゼノさんも止めてねぇし」


「だからって、調子に乗って何杯もおかわりして! ご馳走になってるんだから、もうちょっと遠慮しなさいよ!」


「ケーナはうるせぇなぁ……」


「ええと、僕は大丈夫ですよ。そんなに高い値段じゃありませんし。今夜一人部屋に泊まると思えば、安いくらいですよ」


 一応、助け船を出しておく。

 既に今夜、同じ部屋で泊めさせてもらう形で、話はまとまっているのだ。そして、この酒場は良心的な値段をしており、麦酒をあと二十杯飲んでも一人部屋の料金まで届かないだろう。

 しかし、ケーナはどことなく納得していない様子だ。


「それでも足りないと思うなら、そうですね……勇者の冒険譚でも聞かせてもらえませんか?」


「……」


 シルヴィが、『天樹教』によって送り出された勇者であると知っている。

 あまり公言してこそいない様子だが、先程僕には聞こえる声で言っていたのだ。隠すつもりはそもそもないと思う。

 ただ、そんな僕の質問に対して、シルヴィが小さく溜息を吐いた。


「……それほど、騙るような冒険譚はないよ。まだ僕たちは故郷から冒険に出て、二ヶ月に過ぎないんだからね」


「ですが先程、魔王の島に行ったと伺いましたが」


「ミッデンウッドには、ブリスペルから直通の船便が出ていてね。観光地になっているという噂は聞いていたのだけれど、まるで島一つがテーマパークのようだった。魔王城の体験ツアーとかもやっているらしいし、出店も多かったよ」


「……そんなにも観光地なのですか」


 僕の故郷(仮)、随分な目に遭っているらしい。

 まぁ僕が一度も行ったことない以上、そこが魔王のいる島だと確定する情報はないわけだが。一体誰が魔王の城とか作ったんだろう。


「ああ。だから早々に帰国して、ブリスペル共和国内を旅して回っていたんだ。魔王の痕跡がどこかにないかと思っていたんだけれど……何もかも空振りでね」


「んで、仕方なくロシュフォールまで足を伸ばしたわけだが……正直、路銀が尽きかけなんだよ。今までは冒険者ギルドに素材の買取とかしてもらってたけど、ロシュフォールだと、ほとんど冒険者ギルドも稼働してねぇし」


「ふむ……しかし、シルヴィさんが勇者ならば、『勇者特約』があるのでは?」


 ここで、切り込んでみる。

『勇者特別約定』――宿泊施設の格安化、武器防具の格安化、様々なアイテムの無償提供、果ては他人の家に勝手に入って壺を壊したり樽を壊したり棚を漁っても無罪となる措置。  チェリルが求め、そのために認められようとした勇者。

 それこそ、この特権を最大限に活用すれば、民衆の箪笥貯金は全部勇者のものになってしまうだろう。


「それは……」


「……」


 シルヴィが苦々しく眉を寄せ、ランディが目を逸らす。

 まぁ、二人が言いたいことは分かる。勇者として『天樹教』に送り出されたにも関わらず、支度金の一つも貰っていない――これはつまり、『天樹教』自体が彼らを、真に勇者とは認めていないということだ。

 その痛いところを突いたのか、シルヴィが辛そうな笑みを浮かべて。


「僕は……苦しんでいる民から、これ以上搾取をするべきではないと思います。いくら無罪になるとはいえ、民の家に勝手に入り込んで、壺を壊して樽を壊して戸棚を漁るのは……さすがに、人として非道な行動ではないかと」


「はぁ……」


 高潔なことを言っているように思える。

 だけれどその実、『勇者特約』を認められていないことを、全力で隠すための大嘘だ。


「あー……それより、そろそろ酔っ払っちまったな。宿の方に行こうぜ」


「ああ、そうだね。ゼノさんも、それでいいですか?」


「ええ、いいですよ」


 僕は、笑顔で頷く。

 あとは、宿に戻ってからだ。


 僕がやるべきことは、ただ一つ。

 この先僕たちの旅路に、彼らが立ち塞がらないように――偽情報を掴ませるだけだ。

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