気を取り直して次の聖剣へ
「本日も、安定して聖剣が砂になってしまいましたね」
リガの街、喫茶店。
とりあえず僕たちは山を下りて、そのままリガの街の喫茶店へと入った。寂れている街ではあるけれど、一応喫茶店が営業していたのは、昨日のうちに確認している。
現在、僕とマリカ、チェリルの三人はテーブルを囲み、遅めの昼食としていた。
「……まるで予想していたように言うのだな」
「まぁ、これで三本目ですからね。ローレンスの聖剣、ウェイデンの聖剣、そして今回のミスリフの聖剣……二度あることは三度あるといいますし」
「私としては、三度目の正直かと考えたのだが」
「実質的には、三度目の正直を終えてからの四度目ですよ。抜けたのは駄剣ですけど」
一応、ウェイデン遺跡から今回に至るまでの間に、ベルグラードを抜いている。
むぅぅ、とそんな結果に対して頬を膨らませているのはチェリルだった。
「どうして、わたしが抜く剣はどれも砂になってしまうのですかっ!」
「声が大きいですよ」
「でもでもっ! わたしが抜いているのは聖剣のはずなのにっ!」
「まぁ、持ち主の異なる聖剣は、砂になっちゃうんでしょうね。いずれ、チェリルさんに合う聖剣を抜く日が来ますよ」
「ふぇぇ……」
怒ったり悲しんだり、表情の動きが激しいものだ。
だけれど、とりあえず僕としてはチェリルに、聖剣が砂になることに慣れてもらわねばならない。何度も何度も抜いて、「また違いましたねー」くらいの反応になってもらうと助かる。
そうして最終的に、全部の聖剣を抜いて終いだ。
「それで、貴様。次の目的地はどこになるんだ?」
「ブリスペル共和国内は、これで全部ですね。いえ、クロア島については調べておりませんが、それよりは次の国に向かった方が良さそうな気がします」
「ということは、ロシュフォールか?」
ブリスペル共和国の隣国――ロシュフォール王国。
そんな僕の言葉に対して、マリカは少し嫌そうに眉を寄せた。
「ふむ……あまり、お嬢様を連れて行きたくはないが」
「そうなのですか? わたし、行ったことないので行ってみたいです!」
「承知いたしました。今すぐ向かいましょう」
「早いですよ」
チェリルが何か言うと、即座に意見を正反対に変える性質はどうにかならないものだろうか。
しかし、マリカの懸念も分からないではない。現在、ロシュフォール王国は長い内戦が続いており、国が疲弊している状態なのだ。そのため治安も悪く、街も荒れていると聞く。
だけれど、そんなロシュフォール王国内にも、僕の知る限り三本の聖剣があるのだ。二つは街に近い位置に、そしてもう一つはやや離れた僻地に。
「つーか、他の剣は情けねぇなぁ。俺様と違って、どいつもこいつも砂になりやがってよぉ」
「ベルグラードこそ砂になって欲しかったのに!」
「おい嬢ちゃん!? そりゃどういう意味だよ!」
「今日の聖剣も、見た目は格好良かったのに……残念です……」
「おいおい、見た目で差別してんじゃねぇぞ!? 俺様超かっけーだろ!?」
「不気味です!」
「がーん!」
チェリルの言葉に、唐突に落ち込むベルグラード。
まぁ実際、見た目は完全に魔剣なのだ。おどろおどろしい、禍々しい、そんな枕詞がつくようなベルグラードである。
少なくとも、聖剣に憧れを持っているチェリルでは、持ちたくないのも当然だ。
「まぁ、そのうち駄剣にかわる、ちゃんとした聖剣を抜ける日が来ますよ」
「はい! わたしはその日を待っています!」
「それで、どうやってロシュフォールに向かうつもりだ? 今は、国境も封鎖されている状態だが」
「ええ」
マリカの言葉に、僕は頷く。
勿論、僕だってそれを調べていないわけではない。むしろ、リガの街までやってきたのは、このままの流れでロシュフォール王国まで向かうためである。
元々は、ロシュフォールとの国交の中心地であったリガの街。
そこからロシュフォールまで向かうためには、関所を通らなければならない。そして現在、その関所は閉鎖されている状態だ。
「一応、リガの街からロシュフォール王国までは、街道が通っているんですね」
「ああ」
「その街道沿いに、国境の砦があるんです。その砦の近くに、関所があります。かつては、身分証明のために作られた施設らしいですが、現在は兵士が何人も常駐して封鎖しており、各国の行き来を禁じています」
「それだと、行けないですよ?」
「ですけど、冒険者は割とロシュフォールまで向かうことも多いんですよ」
僕は、そんなチェリルの言葉に肩をすくめる。
冒険者は、その日暮らしの魔物狩りだ。そのため、その手は国外にも伸ばしていることが多い。特に採取以来だと、どうしても国内の魔物だけでは足りない場合も多いのだ。
そんな縁があり、僕が知っているのは、ロシュフォール国内に入るための抜け道だ。
「関所の隣にある山を越えると、抜け道があるんです。そこは、警備の兵がいません」
「ほう。ならば、安全に向かえるのか?」
「まぁ、道中で少しは魔物が出るかもしれませんけど、基本的には安全ですよ。行商人なんかも、たまに通るらしいですし」
「ふむ。そんな抜け道などあれば、兵士が把握していそうなものだが」
国民を危険に晒さないように、封鎖している国境。
だというのに、抜け道が近くに存在する――それは確かに、矛盾とも言えるだろう。
抜け道があることを放っておいたら、兵士の責任問題にもなりかねないのだから。
「公言はしていませんけど、ほとんど見逃してくれているようなものですよ」
「そうなのか?」
「国境を完全に封鎖してしまうと、無理してでも国境を抜けようって輩がいるんですよ。もしくは、危険を分かっていて深い森を抜けたりとか。そういう人たちは大抵、魔物に襲われて帰らぬ人になります」
「む……」
表向きは、禁じている国同士の行き来。
しかし、完全に禁じてしまうと、行商人などが危険な道を行くかもしれない――その折衷案として、兵士が抜け道を見逃しているのだ。
勿論、そこからロシュフォールの賊などが侵入してくることがあれば、考え直すかもしれないが。
「まぁ、そういうわけで今日は一晩休んで、明日の朝に出発します。マリカさん、明日は日が昇ってからでいいので、北門で。チェリルさんもちゃんと起きてくださいね」
「良かろう」
「もうっ! 子供じゃないんですから、ちゃんと起きますよっ!」
順調に、聖剣の三本目を抜いた僕たちは。
次の国――内乱の絶えないロシュフォール王国へと向かう。




