表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/51

ウェイデン遺跡へ

 ゼッツブールの街を出て、森の手前で一泊し、翌日の朝。

 どうにか、僕たちはウェイデン遺跡まで到着した。


 ここに至るまで、僕がどれだけ苦労したかを想像して欲しい。

 ポンコツ主人と駄メイドの二人と旅路を共にするのは、本当に無理だ。正直これなら、チェリルと二人で旅をする方がどれだけ楽か。チェリルだけなら、口先でいくらでも誤魔化すことができるし。


「さて、ようやく到着ですね……」


 現在は、まだ夜明けからさして時間が経っていない。そのため、日の当たらない森は随分と冷え込んでいた。

 そんな中で、僕は荷物を背負い、このウェイデン遺跡までやってきたわけだが。


「静かにしろ。お嬢様が起きてしまうだろう」


「……いや、起きてもらわないと困るんですけど」


 マリカが現在背負っているのは、すやすやと眠っているチェリルである。

 正直、朝チェリルを起こすのは難しいだろうと、そう思ってはいた。前回、街道で夜営をしたときにも、朝起こすのは随分と苦労したのだ。

 だけれど、まさか。

 起こさずに寝かせたまま、ここまで運んでくるとは思わなかった。一応獣道はあるといえ、足場の悪い森の中だというのに。


「すやすや……」


「……すやすやと言いながら眠る人、僕初めて見ましたよ」


「お嬢様は、以前からよくすやすやと言われながら休まれる。見ろ、この美しい寝顔を」


「よだれ垂らしている時点で美しさ皆無ですよ」


 口元から垂れているよだれで、マリカの背中が濡れてしまっている。

 しかし、それすらも愛おしいと思っているかのように、マリカは微笑んでいた。主人によだれをかけられるのが嬉しいって、もう変態の所業だと思う。


「ひとまず、見える位置にゴブリンはいませんね」


「お前の言い方では、この遺跡のどこかに隠し部屋があるとのことだったが」


「恐らくそうでしょうね。宝石が共鳴しているのが分かります。間違いなく、聖剣はこのウェイデン遺跡にありますよ」


「ふむ……私には全く分からないが、そういうものなのか」


 僕の杖の先端をまじまじ見ながら、マリカが頷く。

 当然、僕だって全く分からない。共鳴しているというより、僕は現在、左肩に違和感を覚えている状態だ。ここに刺さっている聖剣が、僕の左腕の呪いになっていることは間違いない。

 だが、マリカには僕の杖の先端が発信源ということにしているため、嘘を貫き通すだけだ。


「とりあえず、遺跡に入りましょう」


「ああ」


 チェリルを背負ったままで、僕の後ろについてくるマリカ。

 しかし、この状態で魔物が現れた場合、マリカはどう戦うつもりなのだろう。


「ゴブリンがいる可能性がありますので、気をつけてください」


「無論だ。お嬢様には、髪の毛一本すら触れさせん」


「……どうやって戦うつもりなんですか?」


「たかがゴブリン程度に、後れを取る私ではない」


 会話ができないって、こういうことを言うんだろうな。

 僕の問いに対して、全く答えようとしてくれない。そして、僕ももうそんなマリカに慣れてしまった。

 まぁ、本人が後れを取らないって言うなら、そうなんだろう。信じよう。

 どうせ僕は、ゴブリンに襲われないし。


 暗い遺跡の中を、細部に注意しながら僕は歩く。

 遺跡という名前ではあるが、ウェイデン遺跡はかつて地下墳墓カタコンベだった。そのため地上部分には入り口しかなく、その実質は掘られている地下空洞である。

 もっとも、現在はゴブリンに占拠されている状態だったため、非常に荒らされているけど。

 かつては棺が入っていたのだろう壁の穴は崩され、ここに葬送されたはずの人骨が至る所に転がっている。


「……さらに下から、聖剣の気配がありますね」


「下だと? ウェイデン遺跡は、地下一階部分のみのはずだが」


「ですから、今まで誰も分からなかったのでしょうね」


 僕も冒険者ギルドで簡単に調べたが、ウェイデン遺跡は現在、地下一階部分だけしか存在しないということになっているらしい。

 だけれど、僕の呪いの発信源は、現在地よりもさらに下にある。つまり、どこかに隠し階段があると考えていいだろう。

 どうにか、隠し階段の場所を探り当てることができればいいんだけど。

 だがウェイデン遺跡が発見されてから今まで、誰にも探り当てられていない隠し階段だ。そんなに、一朝一夕で見つかるものではないだろう。


「既に塞がれているのではないのか? そうでなければ、名うての冒険者たちが見逃すとは思えんが」


「……その可能性は低いでしょう。恐らく、ゴブリンは行き来することができています。そうでなければ、この地下一階にゴブリンが沸く理由がない」


「なるほど。ゴブリンだけが知っている通路があるということだな」


「そうです。ですから、ここで僕の出番ということですよ」


「どういうことだ?」


「――『魔視サーチ』」


 杖の先端に、魔力を込める。

 それは、魔力の残滓を見るための魔術――『魔視サーチ』。

 魔物というのは、基本的には魔力の塊だ。そのため、魔物がどう移動したのか、どこからやってきたのか、そういう魔力の流れを視認することができる魔術である。

 ゴブリンがどのようにこの遺跡の中にいたのか――その魔力の流れが、僕の目に映った。


「ゴブリンの動いた経路は……向こうの奥から足跡がこちらに向けて続いていますね」


「……魔術というのは、そういうことができるのか。凄まじいな」


 マリカの言葉に対して、僕は少しだけ目を逸らす。

 この魔術の習得は、恐ろしく難しい。恐らく僕以外に扱えるのは、それこそ大陸でも五指に入る大魔術師くらいのものだろう。

 何せ、魔力を視認する――それが可能になるまで、僕は七百年以上を費やしたのだから。

 人間に出来るとすれば、余程の大天才くらいのものだと思う。


「……ここで、途切れていますね」


 そして、僕の視界にだけ映っているゴブリンの足跡――それが、一つの壁の前で止まった。

 ただの岩壁で、特に仕掛けがありそうには見えない。だが、間違いなくゴブリンは、その壁の中から遺跡へ向けて歩いているのだ。

 これは恐らく、内側からしか開くことができない仕掛けだ。


「つまり、この壁の向こうに行けばいいのか?」


「ええ。ちょっとゼッツブールの街に戻って、ツルハシでも購入した方がいいかもしれませんね。岩壁ですから、壊すのにもちょっと時間がかかるかもしれませんし……」


「ふんっ!!」


 そんな岩壁に向けて、マリカが思い切り蹴りを放つ。

 ずしんっ、と遺跡全体に衝撃が響いて。


「……はい?」


「これでいいか?」


 次の瞬間――目の前の岩壁が、砕け散っていた。

 土煙の向こうに見えるのは、小さな部屋と、その部屋の中央にある階段。

 つまり。

 この女、岩壁を蹴りで砕きやがった。


「……凄くないですか?」


「大したことではない。靴の底に鋼鉄を仕込んでいるだけのことだ」


 いや、そんな程度のことじゃないと思うんだけど。

 あと。


「すやすや……」


 え、何。

 チェリル寝てると、こんなにもスムーズに進むの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ