出発
冒険者ギルドは、今日もアウトローたちで賑わっていた。
基本的に荒事を請け負う冒険者ギルドは、その構成員のほとんどが男性である。
時折冒険者の女性を見かけることもあるが、そのほとんどが魔術師や神官、もしくはすねに傷を持つ者だ。そして、数が少ないゆえにパーティに一人いるかいないか程度であり、その存在自体が稀少である。
だが稀少であるがゆえに、冒険者パーティに女性は一人いるかいないか――その程度だ。そして、女性の加入した冒険者パーティは、大抵何らかのトラブルを抱えて崩壊すると言われている。主に恋愛関係で。
そのために、ある意味女性を毛嫌いしている連中も多く、女性の冒険者というのは歓迎されない場合が多い。
多くを語ったが、結局何が言いたいのかというと。
冒険者ギルドにおいて、受付嬢以外の女性というのは非常に珍しいということだ。
「先日の、発注した依頼について伺いたいのですが」
「ああ、はい。ライセンスをお願いします」
「はい」
そして、僕の現状。
そんな女性が珍しい冒険者ギルドに、僕一人で女性二人も連れている状態である。
片方は女性と呼ぶより女の子と呼んだ方がいい見た目ではあるが、もう片方はメイド服に身を包んでいるといえ、立派な女性である。自然、周りには奇異な視線でじろじろと見られている状況だ。
ざわざわと、こちらを見ながら話す声も聞こえてくる。
溜息を吐くのを堪えながら、僕は受付嬢へと自分のライセンスを手渡した。
「ええと……ウェイデン遺跡の討伐依頼ですね。はい、こちらの方完了しております」
「そうですか」
当然、事前に『天竜の翼』から教えてもらっているため、その事実は知っている。
そして同じく、続く言葉も僕には予想のつくものだ。
「こちらの依頼なのですが……冒険者の方が、ゴブリンを二十一匹しか見つけることができなかったとのことです」
「……そうですか」
「事前の情報では、五十匹程度の反応があるとのことでしたが、他の冒険者がゴブリンを、別の依頼で退治したのかもしれません。今回は、二十一匹分の素材のお渡しとなります」
「仕方ありませんね」
落胆する素振りをしてみるが、まぁ元々知っていることだ。
そして、次に受付嬢が持ってきたのは、革袋に入った二十一匹分のゴブリンの左耳である。
残念ながら、僕は別にゴブリンの素材なんて必要ない。一応、簡易な結界を張るときなどに触媒として使えるけれど、こんなにも大量にはいらないというのが本音だ。ゴブリンの耳を鞄に入れておくのって、なんか生理的に嫌だし。
だけれど、僕は一応ゴブリンの素材を求めてやってきた体なので、ありがたく受け取ることとする。
「他にご用件はございますか?」
「ああ、今日はこれで大丈夫です」
「承知いたしました。また、何かご用件がございましたら、ギルドの方へお越しください」
丁寧に頭を下げる受付嬢。
そんな彼女に対して、僕も愛想笑いを返す。
「さて、それでは行きましょう。チェリルさん、マリカさん」
これで、ひとまず用事は終わった。
あとは今から、ウェイデン遺跡に向かってゴブリンを退治して、そこに存在する聖剣を抜くだけである。
だから僕は、後ろに向けてそう言ったのだが。
「貴様の命令になど従わん」
でも、何故かそう冷たい目で睨まれた。
僕が何をしたって言うんだよ。
「えっ! マリカ、一体どうしたのですか?」
「お嬢様、ご安心ください。このマリカ、お嬢様のご命令には絶対的に従います」
「……? どうしてゼノさんには従わないのですか?」
「それは、お嬢様の意見こそが絶対だからです。お嬢様のお言葉こそが、絶対的に正しい。それを私は知っております」
「なんと! わたしすごい人でした!」
「……」
はいはい。
とりあえず、周りにジロジロ見られてるから、早くギルドから出てくれ。
冒険者ギルドからどうにか二人を押し出して、僕たちはゼッツブールの商店街を歩いていた。
現在の時刻は、昼食からやや経った二時半。このままウェイデン遺跡に向かうとなれば、恐らく夕刻くらいには到着するだろう。そこからゴブリン退治、ならびに隠し部屋探しというのは、割と腰の重い事案だ。
さすがに腕のいいマリカであっても、夜目でゴブリンと戦うのは厳しいと思う。それに、暗いとそれだけ隠し部屋も探しにくい。だから最適なのは、明日の朝早くにゼッツブールを出て、そのままウェイデン遺跡に向かい、日中のうちに全てを終わらせることだ。
だがここで、一つ問題が浮上する。
明日の朝早く――そんな時間に、チェリルが起きてくるわけがない。
「と、いうわけで野宿をする予定です」
「お嬢様に地べたで眠ることを強要するつもりか!」
「前回もやってたじゃないですか」
そこで、僕がとった折衷案。
今からウェイデン遺跡へ向かい、森の入り口あたりで夜営を行う。そして朝になったら出発し、早い内にウェイデン遺跡へ到着する。そしてゴブリン討伐、ならびに隠し部屋探索を行う――その流れだ。
これならチェリルが起きてくるのを待たなくていいし、早くからゴブリン討伐に取りかかることができる。
「お嬢様に夜営をさせるのであれば、せめてふかふかの寝台を運ぶべきだ! それが、お嬢様と旅を行うにあたっての最低限の礼儀だろう!」
「誰がそんなもん運ぶんですか」
「貴様に決まっている」
「……」
はぁぁぁ、と大きく溜息を吐く。
能力だけで人間を選んではいけない――それを、僕は心から後悔している。
こんなにも面倒臭い奴だったなんて。
「はぁ……チェリルさん、ちょっといいですか?」
「はい! このリンゴすっごく美味しいです!」
「貴様、お嬢様に……!」
「では、チェリルさん。四つほど買っておきますので、星空を見ながら食べましょう」
「わぁ! すごく楽しそうです!」
「む……」
そこで、僕は標的を変える。
僕の言うことを聞いてくれないのならば、チェリルの言うことを聞いてもらえばいいのだ。
「マリカ! すごく楽しそうですね! そう思いませんか!」
「お、お嬢様……?」
「みんなで星空を見ながら、美味しいリンゴを食べるんです! いっぱいいっぱい話をするんです!」
「え……」
「わたしは、マリカともっと仲良くなりたいと思っていました! いっぱいお話をしましょう!」
「……」
かぁーっ、とマリカの頬が赤く染まる。
とりあえず、僕はそんな主従に背を向けて。
近くの八百屋で、リンゴを四つ購入することにした。




