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本日付で、クビになりました。~三十六歳、異世界に再就職します~  作者: くまきち
第二章:平日異世界、週休二日
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25話:二度目の週末

「はあーーー……」


 ああ、疲れた。


 畳の上に横になったら、そのまま大の字で寝転がる。すごい解放感。


 やっぱり、畳っていいなあ……。




 木曜に毒まみれになって急遽、こっちに戻ってくることになった。

 染めたばかりの髪が真っ黒になっていることに、美容室の人には驚かれたりしたけれども。


 無事に染まって良かったと、少し赤みが入った自分の髪をつまんで確かめる。

 黒髪時代のほうが長かったのに、この色に慣れたってことなんだなあ。


 染め終わった時には安心し過ぎて、美容室の人には怪しまれてしまった。


「……それも、そうか」


 染め終わって出た言葉が「ああ、良かった……」では何かに追われているとか、黒髪では困るって言っているようなものだもんね。

 なんとか誤魔化したけれども、染めたばかりのはずの頭皮までまっさらになっていて、ものすごーく不思議がられてしまったことは困った。


「染めたり落ちたりで、髪が傷んでいないかな?」


 石鹸で洗ったあとは、信じられないくらいの艶やかさだったけれども。そこからまた染めたことで、ダメージとかないのかな。


 後輩ちゃんに言われた通り、髪の量は多めのわたしだ。しかしまだ三十代、薄毛の心配まではあんまりしたくない。


「向こうに戻ったら、親方にも訊いてみようかな?」


 でもそうすると、髪の色が落ちたことを説明しないといけないか。


「……それは、危険だね」


 タオルにフードで隠したことで、黒髪に戻ったことは見られていないはず。それなのに自分から染めていることを話したら、絶対に追い出されるだろう。


「実害も交流もないからわからないけど、教会の人ってどんな人なんだろう?」


 この先も関わることはないだろうから、気にしないほうがいいか。




 色々と用事を済ませて掃除もして、会社にも報告に行った。

 社長さんは相変わらず眼光が鋭くて、毒を持った魔物を街に持ってきた冒険者の二人に心底呆れた顔をしていた。


「魔王に呆れられる冒険者って、すごいよなあ」


 アホの方向ですごい。本当に。


 話も終わって業務日誌も渡して、許可証も取って仕事は完了だ。

 一応、何かあると悪いので、月曜の出勤は安達さんと一緒に行くことになった。


「あ、そうだ。渡された薬を舐めないと」


 一日一回、四角い解毒薬を服用しないといけない。

 この薬を口にする間は、先月渡された『成長不良に効く薬』はストップになってしまった。


 あの薬は、なんだか色々な部分の成長を促す効能があるらしく、毒が残っているかもしれない状態では、かえって全身に毒を回してしまう可能性が高いと言われてしまったのだ。


「せっかく一命を取り留めたのに、別な薬で死にたくない」


 とりあえず週末は仕舞っておいて、月曜に向こうに行ったら訊いてみようか。


 最初に食べさせられた団子は解毒薬じゃなかったので、これは調べてみるという話だった。


 全身に確実に回る毒を受けても、熱は引いたし症状も収まった。それならどんな状態でも、誰でも復活できる薬ってことなのかな?

 それならお店に置いて宣伝したら売れそうだと考えたところで、作り方が面倒なうえにお高い薬だってことを思い出す。


 お店に出すことも宣伝も、却下で。これからもひっそり売り続けてもらおう。


「あとは、残った石鹸をどうしようかな」


 また使うことになるかもしれないから、手元に置いておいたほうが安全だろう。二度と使いたくはないけれど、冒険者二人は追放されていないのだ。


「石鹸ケースに入れて、仕舞っておけばいいか」


 使いかけを戻すことも微妙なら、自分で持っていよう。貴重な石鹸らしいから、捨てることは絶対にできないし。


「うーん、美味しい……。ちょっと酸っぱくて、甘いなあ」


 飴と言えば、エローラさんが買う『勉強をさせる薬』はどんな味なんだろう。

 きっと子供が、「もっと欲しい!」と言うくらいに美味しいんだろうな。


「ふぁ……」


 甘いものを口にしたことで疲れが出て、ウトウトしてくる。

 畳の上は最高でも、このまま寝落ちすると全身が痛いんだよね。困る。


「お風呂にも入ったし、ちょっと寝よう」


 まだ明るい時間帯だけれど、夕食には微妙に早い。

 疲れている時は寝るのが一番ということで、布団を引っ張り出して横になろう。


「……」


 まだコロコロと、口の中に残っている薬が気になるな。


 噛むとダメって、なかなか難しいことかもしれない。




「ふわー……」


 ウトウトしながらも、なんとか薬を舐めきってから眠れたぞ。


「あれ?」


 鳥の声が聴こえるということは、もしかしなくとも朝になってる?


「うわぁ……」


 カーテンを開けたら明るくて、時計が朝の五時という時間を知らせていく。


「めちゃくちゃ眠っちゃった」


 ええと、十六時頃に寝たから十三時間くらい?


 でも、身体は軽いし頭はスッキリしている。


 ぐぅぅぅ……


「……」


 ついでに、お腹が鳴った。


「お腹がすくのは健康な証拠!よし!」


 そういうことにしておいて、朝食を作ろうっと。




「金曜に家にいるなんて、久しぶりだな」


 痛いところも腫れているところもなくて、薬がよく効いているようで何よりだ。


「消化にいいものにしよう」


 夕食を口にしていないのに、朝食をガッツリ入れたらお腹が痛くなりそうだ。

 ここは慎重に、おかゆっぽくゆるーく炊いたご飯とお味噌汁、漬物とあんかけにしておこう。


 コトコト煮込む音を聴きながら、今日も自分のためにご飯を作る。


「……量も控えめにしておこうかな」


 いつもよりも気持ち少なめに盛って、ゆっくり噛みしめながらいただこう。


 あー、お米って美味しいなあ……。

 死ぬところだったことを思い出すと、普通にご飯が食べられることがありがたいと感じるよ。


 大きな病気や長期入院をしたことがある人は、こんな気持ちになるのかな。


「ごちそうさまでした」


 のんびり朝食を済ませたら、食後の番茶をゆっくり飲み干す。

 それだけのことなのに、なんだかしみじみとした気持ちになるよ。


「……これから、何をしようかな」


 起きた時間が五時だと、一日が長く感じるね。

 早速やることがなくて、何をすればいいのかわからない。困った。


「一応、療養だもんね」


 掃除や買い物は、昨日のうちに済ませてある。洗濯は日曜の夜と月曜の朝にするからーと考えて、家事しかやることがないことに気付く。


「……」


 ええと、ほら、アレだ。なんかこう、あったはず。やること!


「……」


 岸さんから荷物が届くのは、明日の午前中。

 昼前に後輩ちゃんがパスタを持って来ることになっているので、準備も特に何もない。


「……」


 チラッと窓の外を見れば、微妙に曇っている空が見えた。

 梅雨の時期に外に出れば、雨に降られる確率が高いだろう。


「よし、ゴロゴロしよう!」


 特に用事がないのなら、家の中でゴロゴロすればいいんだよ。

 年末からこっち、ゴロゴロすることに関してはプロだもんね。


 クッションと座布団を敷いて、畳の上でゴロゴロすることに決定!




「で?日中に寝過ぎて夜に寝れなくて、昼のこの時間に微妙に眠いって……夏休み中の小学生ですか?」

「……うん」


 本を読んだりウトウトしたり、好き勝手に過ごしすぎた。

 午前中に昼からも寝たことで、肝心の夜に眠れなくなったのだ。


 頑張って横になるも、ウトウトできたのは一時すぎ。

 配達の人がチャイムを鳴らさなかったら、荷物を受け取れないところだった。


 昼食でお腹がふくれたこともあって、微妙に眠い十三時。


 岸さんから届いた、野菜に手作りジャムやソースの詰め合わせはどれもとっても美味しくて、パスタにピザにと作りすぎてしまったくらいだ。


「採れたてって、やっぱり美味しいですね」

「そうだねえ」


 箱の中にはメモが入っていて、いつ収穫したものだとか◯日までに食べるようにという、注意事項まで書かれていた。

 こういう細かい気遣いを、もっとわたしも身に着けないといけないな。


「でも、お礼にお中元って重いかな?」


 岸さんが送ってくれた野菜たちは、一人分にしては結構多い。

 職場の人も好きだと思うと伝えたことで、多めに入れてくれたこともあるだろうけれど。後輩ちゃんに分けても、向こうに持って行っても余裕のある量には、どういうお返しをすれば良いんだろう。


「それなら、連名にすればいいじゃないですか」

「連名って、誰と?」

「わたしです」


 目の前にいるじゃないかと、今日も整った綺麗な爪で自分を指差す後輩ちゃん。


「二人からなら、重くないか」


 それなら気持ち的にも助かるかな。

 でもさすがに半分こにしてはいないので、金額は8:2だ。


8:2ハチニーって、連名にするには恥ずかしい金額じゃないですか」

「分けた量からすれば妥当でしょ」


 これは譲らないと無理矢理、決定して、岸さんにお礼の電話をしよう。


「あ、それならついでに、何を贈られて嬉しいかも訊いてくださいよ」

「え?お中元の中身を、贈る相手に訊くの!?」

「だって、岸さんの家って親戚が多いんでしょう?そうめん三箱かぶるとか、最悪ですよ」


 ……そういうものか。


 一人暮らしじゃないなら、そうめんも三箱くらい消費しそうだけどなあ。


 連絡先を出しながら首を傾げるわたしに、料理をするのにわかってないと、全然料理をしない後輩ちゃんが言っていく。


「暑い夏にゆでなくちゃいけなくて、それ単品ではお腹がふくれないそうめんって面倒くさいんですよ。母親に『冷やし中華でいいよ』って言ったら、怒られたうえに麺をゆでる係にさせられるくらい、ゆでることも大変ですし」

「そう?」


 これは一人分と、家族分という量の違いもあるのかな。


「それに、そうめんって飽きますし」

「……そうかも」


 そうめんのお供を天ぷらから揚げ浸しにしても、ゴマダレから醤油味にしても、毎日ではとっても飽きる。確実に。


「家で食べないんですか?」

「冷やし中華って三人前が多いから、あんまり買ってこないんだよね」


 ついでにそうめんは、会社がもらったお中元を分けた時に二、三束もらって終了だ。


 懐かしいなあと思い出すわたしに、とりあえずそうめんは却下する後輩ちゃん。


「やっぱりお酒が妥当でしょうか?子供さんがいるなら、ジュースとかゼリーとかも喜ばれますよ」

「詳しいんだね」

「ウチも親戚多いんで、父方の実家に行くと仏壇の横に並んでいるんですよ」


 ふぅん。ここは後輩ちゃんの意見を参考にしつつ、岸さん本人に訊いてみたほうが良さそうだ。




「んじゃ、酒で」

「……わかりました」


 この時期限定のものやプレミアムな高いものよりも、いつも飲んでいる酒を多めのほうが良いと言われたことで、速攻で贈り物が決定した。


「岸さーん。お久しぶりです」

「おお、山田。変わってなさそうだな」

「名字で呼ばないでください。それより、わたしもいただきました。ごちそうさまでーす」


 部署も違うのに、相変わらず交流スキルが高い後輩ちゃんだなあ。

 ちょっと『ハムの人』になりたかったんだけど、お酒がいいならお酒にしよう。


「ん?今からお中元って、早くない?」

「遅いよりは良いんじゃないですか?」


 それもそうかということで、出掛けることにする。


 岸さんなら、きっとあの海の街にあったお酒も気に入ると思うんだけどなあ。


 ビールを送る手配をしたら、残りの休日ものんびり過ごすことにしよう。


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