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本日付で、クビになりました。~三十六歳、異世界に再就職します~  作者: くまきち
第二章:平日異世界、週休二日
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0話:臨時休業のお知らせ

「あら。モランさんのお店、またお休みするの?」


 常連客の一人が、店の張り紙を見ながら呟いた。

 そこにはしばらく休むということが書いてあり、用がある人は扉を叩くようにという旨が追加されていた。


 いつまで休むのかと首を傾げたご婦人に、通りがかった別な店主が話していく。


「ほら、この前まで弟子のデーイと一緒に店番をしていた小さい子がいただろう?あの子の住み込みの用意をするんだと」

「ああ、そういえば。カウンターから顔しか出ていないくらいの、小さい子がいたわね」


 最初は生首が乗っているのかと思って、店に入った途端に悲鳴を上げてしまったと笑い合う。


「そう、その子。慣れないところはまだ多いが、計算は早くて仕事も丁寧らしい」

「それは、デーイが助かるわね」


 クスクスと微笑ましそうな口調で、計算が苦手の弟子は良かったんじゃないかと喜び合った。




 モランのお店は各種、様々な薬を扱っている。

 弟子として入ったはずのデーイだが、店番がいないせいで、ちっとも弟子らしい仕事ができていなかったのだ。


 これで一安心だとホッとしている二人に、別な男性が話しかけてきた。


「いやいや。聞くところによるとその嬢ちゃんは、面倒な異種族を次々と手懐てなずけているらしいぞ。ほら、気難しいと言われているワイバーンも、嬢ちゃんに掛かればイチコロらしい」

「ええっ、ワイバーンまで!?」


 いまも空を優雅に飛んでいる青い鱗の飛竜 ワイバーンは、生涯でただ一人のあるじの命令しか聞かないくらいに気位が高いことで有名だった。


 男の話を聞いたことで、恐々と、そうっと店に顔を向けていく。


「モランは大丈夫なのかしら?」

「小さくても、油断できない嬢ちゃんらしいからな」

「それに、住み込みなんだろう?」


 「……」


 少し先に行ったギルドでも、薬の調合や簡単な手当てはしてもらえる。

 しかし腰痛に効くものや、複雑な風邪の症状に対応はしていないので、この薬屋がなくなると困るのだ。


 奇妙なその嬢ちゃんに、店が乗っ取られるのではと心配の目を向けていく。


「……でも、大丈夫じゃないかしら。だってそのお嬢ちゃんはモランの半分くらいしかない、とっても小柄な人なのよ?」


 モランの腕くらいしかない体型なら、負けないだろうとホッとする。


「何言ってんだ。前にこの辺りを騒がせていた泥棒を捕まえたのは、その嬢ちゃんだって話じゃないか」

「あら、ギルドに運んだのはアゼロたちじゃなかったの?」

「冒険者登録をしていることで、引き渡しをしただけだろう。大体、あのへっぽこたちが、ギルドが手こずっていた常習犯を捕まえられるわけがないだろうが」


 本人が聞いていたら怒りそうな言葉を呟くが、へっぽこ冒険者そのとおりなので誰も反論をすることはなかった。


「じゃあ見た目より、意外と腕っぷしはいいんじゃないか?」


 小柄だけど泥棒を捕まえる腕っぷしがあって、計算は早く手仕事ができるみたいだけれど、ワイバーンを手懐てなずけるなど得体が知れないところもある。


「……結局、どんな子なのかさっぱりわからないわねえ」

「まあ、様子を見ようじゃないか」

「そうね」


 次に店が開く日は、例の嬢ちゃんが来た後からのはずだ。


 交代で見張ることが決まったら、ようやく店の前から離れていった。




「……あれ?誰もいないっスね」


 閉まっていても、店の扉に触れると奥や二階以上の部屋にまで、来客を知らせる音が響くようになっている。


 けれどずっと店の前で話していただけだったことで、しばらくしてから話し声に気が付いた弟子が扉を開いたのだ。


 キョロキョロと周囲を見回して、少しだけ首を傾げたらまた扉を閉めていく。


「まあ、いいか。サワッちが来る前に、部屋の掃除と追加の薬草の処理をしておかないと!」


 ようやく弟子らしい仕事が増えてきたデーイが腕を回し、張り切りながら二階へと駆け上がっていった。


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