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本日付で、クビになりました。~三十六歳、異世界に再就職します~  作者: くまきち
第一章:ちょっと異世界まで
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19話:異世界研修一ヵ月 派手なお客さんたち

 安達さんに言われて、油断をしないように気を引き締めた三週目の月曜日。

 食べ物のことで暴走しそうになったけれど、何とか無事に終わってくれた。


 ……ちょっと、危なかったけどね。明日からも気を付けよう、うん。




「ではこれを、二日後までに用意しておいてください」

「わかったっス」


「ん?」


 十五時のアラームが鳴って、帰り支度をしているわたしの横で、珍しく安達さんが弟子に、何かのメモを渡していた。


 何だか嬉しそうな顔で受け取っている、弟子の表情も気になるけれど。それより安達さんが何かを含んだような、企んでいるような顔なことが気になる。


 今までの経験上、絶対に何かの悪巧みだ。


 親方が梅に似た薬の材料を、別な薬に使えるかもしれないとわかった時に、山賊みたいな凶悪な顔だなあと思ってしまったけれど。

 親方は顔がいかついだけで、中身は善良な心配性な人だということを知っている。


 けれど安達さんは別だ。別っていうか、逆だ。


 仕事に関しては真面目だけれども、普段はとってもしつこいし鬱陶うっとうしい。

 そして、何を考えているのかわからない人でもある。


 つまりそんな怪しい存在の安達さんが、タダで弟子に何かを頼むなんて、怪しさしかない。


 ジトッとした視線で見つめていたら、きょとんとした顔をされた。


「先ほど、沢村さんにも話したではありませんか」

「え?」


 弟子へのメモは、わたしにも話してあることらしい。しかしわたしには、何の話かわからない。


 今度はわたしが怪訝な顔を向けたら、弟子があからさまにガッカリした顔をして言った。


「サワッちー、頼むっスよ」

「そう言われても、心当たりがありません」


 お客さんについて、ではないよね?

 二日後というと梅干しと梅酒の試食会だけれど、つまみは却下されたんだから、他には何も必要ないはずだ。


 考えてもさっぱりわからないと言うわたしに、呆れ顔の二人が口を開いた。


「パンケーキを作ることですよ」

「サワッちが作ることになったっしょ?」

「うえっ!?」


 確かにそんな話はしたけれど、わたし、一っ言ひとっことも了承していないんだけど!?


「その日は梅干しと梅酒を食べるだけでしょう?それに親方が言っていたじゃないですか。他のものと一緒に食べて何かあったら、どれに反応したかわからなくなるって」


 だからつまみを却下されたのに、パンケーキを作ったら意味がないじゃないか。


 わたしが作ることになっているけれど、決めた人は安達さんであって、わたしは賛同していない。いや、道具を持って来ようかとは考えたけれど。


 わたしが美味しいと思ったものを、こっちの人にも作ってもらいたいとは思っていても、それは二日後ではないと言うわたしに、それもそうかと弟子が頷いた。


「んじゃあ、また二日後の昼に一緒に作ってくださいっス。店のすぐ裏の場所も、作業できる部屋なんスよ。お客さんがいない合間を縫って、オレに指示をくれればご馳走するっスよ」

「それって仕事中に作るってことですよね?それは親方に許可をもらわないとダメじゃないですか?」


 二日後の水曜日は早めに店じまいをして、十七時まで試食会だ。いくらお客さんがいなくても、営業時間内に昼食の準備をすることは間違っている。


 エローラさんの時は時間稼ぎの意味もあったから、許容範囲になるかもしれないけれど。


 仕事中はダメだと伝えたら、親方へ伺いに行ってしまった。素早い。


「そんなに食べたいんだ……」

「沢村さんの勢いのほうが、すごかったですよ?」


 食に対する情熱は似ているかもと思ったけれど、仕事中に作り方を指示しろとか、真面目なんだか不真面目なんだか……。


 そんな弟子に呆れた言葉を呟いたら、さっきのわたしの勢いのほうがひどかったと、冷静に横の人に突っ込まれてしまった。


 それはほら、いまさらだから、脇にでも置いておいてください。




 結局、仕事中に作ることは却下されてしまった。当たり前だけど。

 その代わり、早めに閉めて作ることは了承してくれたから、親方も気になったのかもしれない。


 そういえば粉の組み合わせを教えてもらった時に、甘い物は作らないって言っていた。飴を買うし子供もいるから、お菓子も日常的に食べていると思ってたよ。


 何でだろうと首を傾げたら、安達さんが理由を教えてくれた。


「あまり甘味は広まっていません。そういうお店もありませんしね」

「なるほど」


 美味しい香りはしても、甘い香りはしない理由はそれか。


 何だかもったいないなあ。

 あんなに美味しい粉と砂糖があるのに、誰もお菓子を作ろうとしないなんて。


「作り方を知らなければ、作れないでしょう?」

「……そうでした」


 蜂蜜を溶かす飴は親方が作っていることで、薬の一つとして扱われている。

 クッキーを物珍しそうに見ていたことからも、三時にはおやつを食べる、という習慣もないのかも。


 おやつがない人生なんて、わたしには考えられない。


「エローラさんに、パンケーキのことを話そうと思ったんです。でもそういう世界なら、やめておいたほうが良いでしょうか?」


 薬屋に就職しに来たのに、お菓子屋になれと言われたらどうしよう。

 そこまでの腕はないし分量もいつも適当だから、同じ味を作り続けることは無理だけれども。


 企業をしたり、社長になりたくて異世界まで来たわけではなく、普通に雇われる側として、この世界を選んだだけだもんね。


 わたしが恐る恐る顔を上げたら、微妙な顔の安達さんが考え込んでいた。


「……大丈夫、だとは思います。粉もの屋に前から扱っている商品を組み合わせて作れるものですからね。しかし子供というのは、口に戸が立てられない存在です。奥さまが誰から教えてもらったかを言わなければ、問題ないかと思われます」


 前の時よりは、大丈夫っぽい言い方だけれども。ハッキリ「問題ない」じゃないなら微妙か。

 確かに内緒だと言われることほど、魅力的な話はないもんね。


 果汁を煮詰めることもあるこのお店なら、不思議に思われなくても。今までしたことがない場所から甘い香りが漂っていたら、周囲の人だって怪しむよね。


 飴を好んで口にするくらいだから、きっと喜ぶと思うんだけどな。

 気に入ったら周囲に話したくなるだろうし、作り方を知っているエローラさんに尋ねる人が店に来るかもしれない。


 粉もの屋さんがパンケーキ屋さんになったら、さすがに困るもんね。

 そこからわたしに繋がったら、わたしも困る。


 もったいない気持ちは置いておいて、エローラさんに教えることは却下しよう。

 粉や砂糖の話をしただけで、どんなものを作るか話さなくて良かった。


 それでもちょっとガッカリなわたしに、黙って話を聞いていた弟子が自分を指差した。


「じゃあ、オレがサワッちから作り方を聞いて、エローラさんに言えば良いんじゃないっスか?」

「え?」

「店の商品は親方が作ってるっスけど、今は教えてもらっているっスからね。そのついでに甘いものができても、おかしくないっしょ?」


 様々な薬草を組み合わせて薬を作っているこのお店のことは、お客さん以外の人も知っている。

 薬屋以外では扱えない面倒な素材もあれば、別な地域ではまた違った組み合わせをしていることも常識だと話していった。


「サワッちはワイバーンにも好かれてる、妙な新人っスからね。別な土地から来たことはバレバレなんスから、食べ物だって妙なもん知ってても納得するっしょ」

「みょう……」


 そうか、わたしって妙な人間なんだ……。


「サワッちの名前が出なきゃいいんスよね?オレは料理も買い物もするっスから、甘いもんを作っても怪しまれないっスよ」


 弟子の言葉に微妙に落ち込みつつも、カラッといつも通りに軽く笑って、何でもないことのように手を振っていく。


 何だかごちゃごちゃ考えていることが、馬鹿らしくなる軽さだなあ。


 目立ちたくないことは確かだから、もしもエローラさんが興味を持ったら弟子が教えることにしよう。


「これでオレも食えるっスね!」

「……」


 いぇい!とでも言いそうな高いテンションで、パンケーキが食べられるとご機嫌な弟子。


 やっぱりというか何というか、単に自分が食べたかったことでの提案か。


 ……知っていたけれど、わたしの周りってこんな人ばかりなのか。そうか……。




 微妙な月曜日が終わったら、まぶしい銀の髪の男の人が、また来ると言っていた火曜日になった。


 けれど朝イチで来た人は、全然違う女の人だ。


「久しぶりね」


「いらっしゃいませ」

「あ、いらっしゃいっス。どうしたんスか?」


 軽口なのは誰に対してもだけれど、この人も常連さんの一人みたい。

 薬の名前も出さずに、「いつものヤツ、もうなくなったんスか?」と話し掛けていった。


 長い緩いウェーブの黒髪を後ろに流した女の人は、とっても背が高い。

 がっちりした体格じゃなくて、モデルみたいなスラッと長身の美人さんだ。それなのに高めのヒールを履いていて、わたしはすでに首が痛い……。


「今の季節はあちこちに行くからね。それを見越して買っておいたんだけど、足りなくなったのよ」


 この人も慣れているのか弟子の口調に何も言わずに、肩をすくめながら来た理由を話していく。

 その言葉に弟子も納得して、何度か軽く頷いていった。


「あーあー、そっスね。この時期以外は基本、引きこもりっスもんね」

「モランの薬がないと出掛けられないんだから、仕方ないでしょ」


 ぶかぶかのローブの上からでもわかる見事な体型に、ぽってりとした厚めの唇。黒髪に流し目に、赤い唇と少し低い声が似合っていて、同性なのに色気に当てられそうな迫力がある。

 弟子よりも高い身長は、もしかしなくても親方と同じくらいだろうか。


 そんな人と引きこもりって、真逆すぎて想像ができないね。


 ポンポン言い合っている二人の横で、わたしは「いらっしゃいませ」以外に何を言えばいいのかわからずに、キョロキョロ見比べながら固まっていた。


「んじゃ、親方に訊いてくるっス。在庫はあったんで出せるはずっスけど、もっといるなら作らないといけないんで」

「いいわよ、ゆっくりで。ここで待たせてもらうから」


 ひらひらと手を振ったら、昨日の男の人と同じく中央の椅子に向かって行った。


「あ、あの、お茶は……」

「あー……そっスね。出してもらったほうが良いかな?」

「え?」

「よろしく、サワッち」

「はあ……」


 婦人病全般に効くお茶だから、女の人限定で出すのかな?

 昨日の男の人と同じく、穏やかな雰囲気に見えるけどなあ。


 名前も欲しい薬もわからないから、エローラさんの時みたいに尋ねたら、他にも教えてくれるかな?




「いらっしゃいませ。お茶をどうぞ」


 エローラさんとは違って、殺気立ったりイライラとテーブルを叩いてもいない。挨拶をしたら、ゆっくり丁寧にお茶を淹れたカップをテーブルに置いていく。


 わたしが逆に、緊張でひっくり返しそうだ、気を付けよう。

 よし、変な音も出なかったぞ。


 前はお茶を飲んでもらわないといけなかったから椅子にも座ったし、お茶を先に飲むこともした。けれど今日のお客さんは別だから、一つだけのカップを置いたら脇に控えるように背筋を伸ばしていく。


「あら、ありがとう。いただくわ」

「はい、どうぞ。もう少々、お待ちください」


 チラッとわたしに視線を軽く向けたら、優雅にカップに手を伸ばす。そんな仕草も絵になる美女は、一体何者なんだろうか。

 何を訊こうか考えているわたしに、カップを置いた向こうから話し掛けてきた。


「初めて見る顔ね。モランとデーイだけでは手が足りなくて雇った人なの?」

「はい、そうです。試用期間中で、サワと申します」


 もっと背筋を伸ばしたら、ニコリと微笑んでしっかり伝える。

 うん。この流れも慣れてきたな。


 スムーズにいったと心の中で拍手をしていたら、フッと小さく微笑んだ女の人が応えてくれる。


「アタシはゲラよ。普段はこの店に入れない大きさなの。だから、滅多に集落から出ないんだけどね。いい天気が何日も続くこの時期は、仕事をもらったり渡したりしに、頻繁に街に降りてくるのよ」

「……なるほど」


 春にしか街に降りてこないのに生活ができるとは、どんな仕事を生業にしている人なんだろう。

 そして今でも大きいと思える身長は、親方の薬で小さくなっているのだと話してくれた。


 やっぱり万能すぎない、親方?

 世界を救うだけの勇者よりもすごいんじゃないだろうかと感心しているわたしに、綺麗に整えられた、細くて長い指が伸びてきた。


「あなたは小さいのね……うらやましいわ。それともこれから伸びるのかしら?」


 わたしが立っていることで、ゲラさんが若干、見上げるように覗き込む。

 伏し目がちな薄い茶色の瞳に、長い睫毛が怪しい雰囲気を醸し出している。


「ええと……身長はこれ以上、伸びません」

「あら、そうなの」


 それは残念ねえと小さく溜息を吐いたら、わたしの顎をスルリと撫でながら指を離していく。


 ぞわっとする感覚が襲ってきて、お尻の辺りがムズムズする。そのままカップに指を掛けたゲラさんは、普通の顔でコクリとお茶を飲むだけだ。


 何だったんだろう、いまのは。


 どんな反応をすればいいのかわからずに固まるわたしを無視して、優雅にカップを置いていった。


 こうして横に立っても、大きいことがわかる迫力のある美人さんだ。

 大きいのは身長だけではない。隠れていない色気を持っていることから、わたしみたいに『お嬢ちゃん』なんて呼ばれたことがないんじゃないかな。


 わたし自身はもうちょっと欲しいなと思う身長だから、大きい人をうらやましく思うけれど。ゲラさんにはそこまで必要ないらしく、できれば年中、このくらいの身長が良いと肩をすくめながら話していった。


「アタシたちの体格を変えられるモランだもの。貴女をもう少し大きくできる薬も扱ってるんじゃないの?」

「……訊いてみます」


 成長不良ってことはないだろうけれど、もうちょっと伸びるなら、足を長くする方向でお願いしたい。

 他も大きくなると服を買い直したりと面倒だから、そっちはいいや。




 他には何を訊こうかなと考え込んでいたら、弟子が箱を抱えながら戻ってきた。


「お待たせっス」


 カウンターに置いた箱を開けて、中の茶色い袋を取り出しながら話していく。


「とりあえず薬はこんだけあるんスけど、全部は売れないんスよ。どんくらいいるんスか?」


 椅子から立ち上がったゲラさんもカウンターに行って、箱の中と並べてある袋の数を見比べていった。


 これは、片付けた後に作ったのかな?それとも在庫なんだろうかと横から覗いていたら、袋を三つ、つかんでいく。


「とりあえず、三つで良いわ。今はアタシたち全体が移動している時期だからね」

「そう言ってもらうと助かるっス。次に来るまでには追加しときますね」

「ええ、よろしく」


 すぐにお会計となるのか、お財布らしき袋を取り出していく。慌ててカウンターの中に入ったら、お金じゃないものが置かれていた。


 ……ええと、これは何だろう。


「うおっ、また艶のいい石っスね!」

「これで足りるかしら?」

「余るくらいっスよ。……んじゃあ、ジョウコのお茶を追加しますか?」


 キラキラと輝くこの石が、どうやらお金代わりになるみたい。……異種族だと、物々交換になるんだろうか。


 お金の計算はお墨付きをもらえたのに、新しい問題が発生してしまった。

 どうすればいいのかわからずに固まるわたしの前で、弟子がまた知らない薬草の名前を言っていく。


「そうね、何袋になる?」

「そっスねー……こっちも三袋かな?」

「交渉成立ね」


「……」


 ダメだ、さっぱりわかんない。


 石の大きさは親指の爪よりも大きくて、とにかく複雑な色合いだ。けれどそれがいくらで、どの商品と釣り合うのかがさっぱりわからない。


 とりあえずメモっておいて、後でしっかり訊いておこう。


 最初の薬の三袋以外を箱に戻した弟子が、そのまま奥に戻ってしまった。きっとお茶を取りに行ったんだろう。


 売れた薬を書く票には記入していないから、待っている間に何をすればいいかもわからない。困った。


「お金以外が出てきて困っているの?」

「あ、はい、そうです」


 挙動不審の落ち着かないわたしの頬を撫でるように、またしても長くて綺麗な指を伸ばしてくる。いやこれ、ムズムズするからやめて欲しいんだけど。


 一歩下がって距離を置いても良いのか、一歩くらいでは距離が置けない身長差に悩むわたしに、カウンターの上の石をトントンと叩いていく。


「これはね、グリフォンという獣が産んだ卵の一つなのよ」

「卵?」

「このくらいの大きさだと子供が入ってるんだけどね。それ以下の小さいものは、すべて宝石になるの」

「じゃあ、小さい卵が宝石なんですか?」

「そうよ」


 頬を撫でながら静かに教えてくれるゲラさんの言葉通りなら、この石は宝石で、さらにグリフォンとかいう異種族の卵らしい。

 子供が入っていると言った大きさは、わたしも丸まったら入りそう。


 これがどのくらいの価値があるのかは、わからないけれど。ゲラさんの種族は、こういう宝石や加工したものと商品や食料を物々交換するのだと話してくれた。


 ……それは良いんだけれど、そろそろ指を離してくれませんかね。




「三袋っスね、まいどー」


 話が終わるタイミングで戻ってきた弟子のおかげで、変な声を出すことがなくて本当に良かった。


 だって今もわたしの足元には、震えている安達さんがいるんだもん。

 わたしも別な意味でこらえて震えていたというのに、相変わらずまったく助け舟を出さない監視役だ。


 カウンターの商品を確認したら、「モランによろしく」と言って出口に向かって行った。……はあ、助かった。


「またどうぞー」

「ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げたら、代わりに手を振っていく。

 種族が違えば寿命も違うだろうから、わたしのほうが年下なことが多いだろう。でもやっぱり毎回、手を振られるのは微妙だなあ。


 手を振り返すところがまずいんだろうかと思いつつ手を振り返したら、出入り口にまぶしく反射する、例の銀の髪が現れた。……ま、まぶしいっ。


 振っていた手を顔にかざしたら、ゲラさんが片眉を上げて振り返る。


「やあ、約束通りに来たよ」

「いらっしゃ」

「何でアンタがここに来てんのよ」

「……いませ?」


 店の中にはゲラさん、扉をはさんだ外には銀の髪の男の人。

 二人とも長身で派手だから、とっても迫力がある。


「おえっ!?しまった」

「え?」


 睨み合いながら立っている姿を見た弟子が、そろりそろりと奥の部屋に逆走していく。

 器用に後ろに下がる姿も気になるけれど、何か気になることを言わなかった?


「あの二人も有名ですからね」

「有名な二人なんですか?」


 隠れていた安達さんが小さく呟いた言葉で、改めて二人に視線を向けたら


「わざわざ人里に降りてくるとは暇人だな」

「うるさいわね。アンタこそ夜でもないのに動き回ってんじゃないわよ」


「……」


 ものすごく睨みながら、顔を歪ませながら。絶対に自分からは先に視線を逸らさないと意地を感じる二人が、言い合いまで始めてしまった。


 ええと、これどうしよう。


 どうすればいいのかと振り返っても、サッサと逃げた弟子はいない。足元に安達さんはいても、最初から戦力外なので、無視で。


 落ち着かせることができる、例のお茶を出せばいいんだろうか。

 けれど出した途端に、お茶を掛け合いそうな雰囲気だ。


 長身の二人は大柄でもあるから、わたしが間に入っても片手で、いや、デコピンで脇に追いやられるオチだろう。


 それでもお客さんだしお店の中だし、営業時間内だしとオロオロしているわたしの上から、大きな腕が伸びてきた。


「うるっせぇぞ。オレの店で何をしている」

「親方……」


 どこかの誰かさんたちと違って、とっても頼りがいのある人が来てくれた。


 心の底から安堵するわたしに、頼りがいのない二人が反論していく。


「オレは止められる親方を呼んできたんスよ?」

「監視役が仕事ですから、手を出してはいけないだけです」

「はいはい」


 手を振ったら、親方の声で振り向いた二人がお互いを指差して言った。


「「だってコイツ、キャラ被ってんだもんっ!!」」


「へ?」


 ……キャラが被っているって、どういう意味だろう。


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