18話:異世界研修一ヵ月 三度目の月曜日
「おはようございます、沢村さん」
「おはようございます、安達さん」
この挨拶にも慣れた、新しい週の月曜日。
わたしにとっては三回目の、異世界へ行く月曜日だ。
紺シャツにジーンズという格好も、ウェストポーチとお弁当と水筒が入った保冷バッグを持つことも。同じ時間の同じ車両の電車に乗ることも、スムーズになってきたなあ。
「では今週も、行きましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
人気のないビルに入ったら、例の扉の前に来る。
研修期間中だから、ハローワークカードは許可証と一緒に必要だけれど。これももしかしたら、来月には必要なくなるかもしれないんだよね。
今週は、ちょうど半分。少し慣れたからって油断をすると危険なことは、経験上知っている。
今日も気合いを入れたら、一人一人丁寧に、接客を頑張るぞ!
「そういえば。もしこのまま本採用になったら、扉の許可証をもらいに安達さんの会社に行かないといけないんですよね?」
「ええ、そうなりますね」
安達さんはどうやって行き来をしているかというと、社員証と許可証をかざしているのだ。
薄いハローワークカードとは違う、厚みのある社員証がとっても羨ましい。
「ん?そうすると、わたしは許可証と何の身分証明書を一緒に使うんでしょうか」
本採用になったら、ハローワークともおさらばだ。
つまりいま使っているカードはなくなるんだから、代わりが必要になるよね?
しかしわたしが就職をする先は、異世界。
社員証などというものはないだろうし、保険証が新しくなるかもわからない。
「保険証か、運転免許証、もしくはパスポートになるんでしょうか?」
保険証と免許証は持っている。けれど海外には行かなかったから、パスポートは作っていない。
地球外で次元も違いそうな場所ということで、海外に行く時に必要なパスポートでは、意味がない気がするけれど。
安達さんも社員証を使っているんだから、わたしも他の代わりがいるよね。
そこのところはどうなるんだろうと首を傾げるわたしに、落ち着くように両手を振って来た。
「そちらについては、本採用が決まったらある話し合いの内容に含まれています。しかし今は、折り返し地点でしかありません。今の時点で、親方から採用を決めた旨も言われていません。最後の日まで気を抜かずに頑張ってください」
「……それもそうですね。わかりました」
今までが順調すぎて、このまま就職した気になっていたけれど。わたしの立場は見習いで、不採用もあり得るのだ。
日々の売り上げの管理が、わたしの仕事になってくれたけれど。わたし以外の誰でもわかるような、マニュアルを作っておいたほうが良いということか。
もしも本採用になっても、病気や事故なんかで仕事が出来なくなるかもしれないもんね。
納得したわたしに、安達さんも軽く頷いた。
「三週目というのは、慣れからくるトラブルがつきものです。場所が異世界で日本ではない、ということも忘れないでください」
「わかりました」
言語に問題がなくたって、これから行く場所はわたしの今までの常識が通じない異世界だ。
あの世界でおかしいのはわたしで、当たり前なことは当たり前ではない。
別な気合いも入れ直したら、ようやく扉の中に入ることにした。
「おはようございます」
今日も看板に挨拶をしてからお店の扉を開いていくわたしに、安達さんはスルーしている。
彫像が動いても動かなくても挨拶をすることに決めているから、頭を上げたら、ドアノブに手を掛けていった。
目が閉じたり尻尾が動いた気がしたのはきっと、『ここは異世界だから』というわたしの思い込みからくる、見間違いもあるかもしれない。
それでも本当に動くかもしれないから、敬意は忘れずに接しておこう。
「……」
自分で磨いといてなんだけど、口元の鋭い牙も手元の尖った爪も、ものすっごく痛そうだ。
窃盗犯や強盗犯に喰いつくのなら、助かる頼もしさでも。自分に振りかかったら死ぬ、確実に。
本採用が決まったら、挨拶代わりにまた磨くことにしよう。
……もしも、不採用となってしまったら。
その時はお世話になったという意味を込めて、最終日に磨こうっと。
「はよーっス、サワッち」
「おはようございます、デーイさん」
わたしが扉を開けたら、すぐに弟子が降りてきた。
扉を開ける音って、そんなに上まで響くのかな?
わたしがいる時間帯は開けっぱなしだから、どうやって判断しているのか、イマイチわからないんだよね。
最初は安達さんにも挨拶をしていた弟子は、今はまったくスルーしている。
仕事内容はわたしの監視な”だけ”の人だから、いてもいなくてもどっちでもいい人、なんだろう。
すぐに二階へ上がって親方にも挨拶をして、三階の冷蔵庫にお弁当を入れさせてもらう。
「んじゃ、店の前と昨日の売り上げの計算、よろしくっス」
「わかりました」
まずは掃除道具を抱えて、お店の前を掃いて来ようっと。
「っていっても、街全体はいつも綺麗ですよね」
目立つゴミも雑草だって、全然見たことがないくらいにピカピカだ。
「街の美化担当がいますし、ギルドが厳しく管理していますからね」
「へぇー」
お掃除屋さんがいるんだ。それに、街の美化を冒険者たちと一緒にギルドというところが管理しているとは初耳だ。
「ん?それだと、ええと……ダンジョン?とかいうところから泥だらけで来た二人は、ものすごく怒られませんか?」
最悪、冒険者登録が剥奪されると言っていたはずだ。
あれは、迷惑を掛けたことに対する罰則みたいなものと言っていたけれど。街を汚したのに掃除をしなかったことも、含まれていたのかもしれない。
わたしの問いに、安達さんが少しも考えずにアッサリ答えた。
「ものすっごく怒られた上に罰を受けることになって、いまだに掃除道具を返しに来れていないんじゃないですか?」
「……なるほど」
わたしがいる時間には戻ってこなかったから、閉店ギリギリまで掃除をしていたのかなと思っていたけれど。
掃除道具が置いてある場所には、渡したホウキとちり取り一式分が、空いたままだった。
「……」
自分たちが汚した場所を掃除して、さらに着替えてから戻しに来ると言っていたはず。なのにまだ来ていないということは、掃除が終わっていないということと、街の美化担当にこってり絞られているということなんだね。
「あの二人、特に青い髪のアゼロは一つのことしか見えない、猪突猛進タイプなんです。それをフォローするはずの相方のオードは、アゼロが考える障害を排除することに集中しすぎて、これまた周りが見えていません」
「うわぁ……」
二人とも猪突猛進タイプということは、最悪な組み合わせではないか。
ブレーキ役が必要なのではと思いつつ、顔を歪ませながら雑巾を絞るわたしに、安達さんも呆れた顔で肩をすくめていく。
「もう一人、二人の暴走を止めて上手く操れる人が入ると良いパーティーになると思います。しかし前科がありすぎて有名な二人のチームに、入ろうとする奇特な人はいません」
「わたしだって入りたくありません」
明らかに尻拭い役ではないか。そんなことは御免被る。
「冒険者は報酬次第で儲かったり儲からなかったりする、博打な職業ですからね。安定を望む沢村さん向きではないでしょう」
「はい。真逆です」
そんなギャンブル人生なんて、わたしには絶対に無理だ。一瞬で死ぬ。
そのためにもせっかく正社員になれそうな親方のお店を、せめて綺麗にしようと今日も扉を磨くことに集中しよう。
よし、綺麗になった。
午前中は、いつものお客さんや新規の人、別な冒険者らしき人が入れ替わり来たことで、結構賑やかだった。
昼食後に計算をしたら、今まで一番、売り上げがあったことがわかった。
「あー。今日はギルドから紹介された、新規の人が多かったっスからね。冒険者の常備薬がけっこー売れたっス」
止血薬や栄養剤、さらに死にそうになる直前に飲むと寿命を延ばす効能がある薬まで、『冒険者セット』と言えるものが二組も売れたのだ。
止血薬や栄養剤、その他の薬は家庭の常備薬でもあるようで、比較的安価だったけれども。
この、『寿命を延ばす効能がある薬』というものは、とんでもなく高価。
「そりゃあ、要望があって金がある人にしか出せない、究極の延命薬っスからね。滅多に買う人はいないっスけど、冒険初心者にオススメの薬の一つなんで、ギルドも推奨してくれてるんスよ」
だから遠くへ旅に出る人や、冒険者登録をしたばかりの人に売れるのだと話してくれた。
うーむ、延命薬まで扱えるとは……。親方、おそるべし。
遠くへ旅をする人は、船を必ず乗ることから酔い止めも買っていくらしい。
他の地域の情報を仕入れたり、何か月か何年か後に戻って来る時に、珍しい草があったら持ってくるように頼んだりしてもいると教えてくれた。
わたしが梅に似たフスベを食べられると言った時、親方はすぐに切り替えられたのか。
「あ、そうだ。約束の梅干しと梅酒を持ってきました。わたしも一緒に食べたほうが良いですよね?いつ頃、食べますか?」
「アツに滞在延長の許可を出してもらったのは、二日後だ。その日は十五時に店を閉めて、試すことにする」
「わかりました」
月曜から金曜まで開いていることが普通のお店の時間を変更する時は、周りにも早めに閉めることを事前告知しなければいけないらしい。
水曜日の夕方は比較的、暇な日が多いらしく、その日に試すことを話していく。
「つまみか何かも用意したほうが良いですか?」
甘めの梅酒を飲むのなら、辛めのおつまみがあると楽しいよね。
梅干しは単品だと食べにくいだろうから、白米やクラッカーがあったほうが良い気がする。
「いや、いい。それだと味もわからんし、体調が変化しても何に反応をしたのかがわかりにくい」
「……それもそうですね」
持ってきた梅干しと梅酒は、明らかに異世界のものだ。
ここでさらに別なものを身体に入れて、万が一、何かあったら……治療も対処もできないと首を振っていった。
弟子がちょっとガッカリしているけれど、大丈夫だったら来週に何か持ってくるよ。
まだ明るい時間にお酒を飲めることで浮かれていたけれど、薬に使えるかどうかを確認するための試食会なんだった。……ちょっと落ち着こう、わたし。
「ええと……じゃあ、これは渡さないほうが良いですか?」
「何だ、それは?」
「甘い匂いがするっスね」
土曜日に、安達さんにも出した物の一つを持って来てみたのだ。
「クッキーという、焼いたお菓子です。クリーさんの粉もの屋さんで買った、粉で作ってみたんです」
最初なので、一番シンプルな粉と砂糖と卵、それとバターのみで作ったクッキーを、テーブルの上に出してみる。
あんまりお菓子がない世界なのか、見た目が丸いベージュだからなのか、どんな反応をすれば良いのかわからずに、二人が固まってしまった。
「先日、安達さんには先に食べてもらいました。もちろん私も食べてこの通り元気ですから、問題はないと思います」
恐々とつかんだ親方が、じっくりクッキーを見回している。
弟子は相変わらずじいっと見つめているだけだけど、砂糖とバターの香りが気になるのか、口元が若干、光っている気がする。
お酒とつまみにも反応が良かったけれど、弟子は甘い物もイケる口なのかも。
「……これは、どうやって作った物だ?」
「あ、はい」
じっくり見ていた親方が、やっぱり見たことのないお菓子だったみたいで作り方を訊いていた。色んな材料を混ぜて焼くところが薬っぽくて、気になるのかな?
粉もの屋さんで教えてもらった商品名のメモを見ながら、何を混ぜてどうやって焼いたのかを話していこう。
「コーラッサという粉と、アイラコの甘味、それとバターと卵を混ぜて、オーブンで焼いたものです」
「あの粉で作れるのか」
「親方、食べていいっスか?」
具体的なグラムも伝えたほうが良いかな?少し難しそうな顔をした親方は、まだじいいっとクッキーを見つめている。
ソワソワしていた弟子は待ちきれなくなったのか、親方に食べていいかと尋ねてきた。
「サワに訊け」
「サワッち」
クッキーから視線を外さない親方が、わたしのほうを指差した。すぐにグリンと首を回した弟子の、茶色い瞳が爛々と輝いている。
「お二人に食べてもらおうと持ってきたものです。どうぞ」
「よっしゃ!」
親方の繊細なつまみ方とは逆に、勢いよくつかんだ弟子が口に放り込んでいく。
躊躇ゼロの入れ方だね。大丈夫かな?
「うぉっ!サクッとしてるっスよ!甘い!うめぇ!」
「……ありがとうございます」
甘過ぎることはなかったみたいで、二個、三個と順調に口に入れていく弟子だ。そんなに勢いよく口にして、大丈夫なのかな??
「デーイ、落ち着け」
「あ、すんません。親方の分は取ってあるっスよ!」
「そういう意味じゃねぇ」
ちゃんとクッキーの数は数えていたのか、自分の分を手に取ったら、残りを親方に渡していった。
律儀というか、真面目というか。……真面目か、これ?
ようやく親方も口に入れて、一口一口、噛みしめるように食べてくれる。
眉間に皺を寄せながら、食べるようなものではないと思うんだけど……。
カレーを食べた時みたいだなあと思い出しつつ、無理に食べるものではないからと伝えよう。
小麦粉も卵も、アレルギーが出る人はいるもんね。
いくら粉がこっちの世界のものでも、バターや卵はあっちの世界だ。考えながらゆっくり噛みしめていく親方を恐々と見つめていたら、小さく頷いた。
「……美味いな」
「あ、ありがとうございます」
粉を使う前に、粉屋の娘のエローラさんと話せたことも良かったのかな。
おかげで、ふわっふわのパンケーキも作ることができたもんね。
あんまりふわっふわだったんで、滅多に使わないスマホのカメラで何枚も撮ったくらいだ。あれを見せたら、エローラさんも喜んでくれるかな?
クッキーの残りを渡したら、昼食の時間が終わっていった。
バターは決められた量以上は入れなかったけれど、胸焼けをすると悪いもんね。明日の朝に、問題なかったかちゃんと確かめよう。
「サワッちは甘いのも作るんスね」
「週に一回は食べないと困るものですからね」
「あの店の、あのお菓子が食べたい!」という時は、買って帰れば済むけれど。何となく自分好みのケーキが食べたいなあとか、バナナが余ったなあという時は、何かしら作れたほうが便利なのだ。
弟子は甘い物は好きでも、自分で作ることはないらしい。
せっかく部屋にオーブンがあるのに、作らないなんてもったいない。
「作り方がわかんないんスよ」
「それなら無理ですね」
クリーさんのお店に甘い粉があっても、組み合わせると美味しそうなことが気になっていても。
作り方も材料も分量も知らなければ、確かにどうすればいいかわからないね。
「じゃあ、エンマーという粉は使ったことがないですか?」
「砂っぽい粉のことっスか?ないっスよ」
薄力粉っぽいなと思った、コーラッサしか買ったことがないらしい。益々もったいない。
「甘くて軽い粉なんですけど、卵と牛乳と混ぜると、ふわふわのパンケーキが作れますよ」
「パンケーキって、なんスか?」
「ええと……甘くて茶色い、丸いお菓子です。クッキーよりも口当たりが軽くて、フスベとカズラを煮詰めたものと一緒に食べたら、絶対に美味しいです!」
「おえっ!?それと一緒に、食べるんスか??」
薬の材料としてしか見ていなかったからか、わたしの言葉に弟子が「マジで?」と顔を引きつらせる。
身体全体でも引いているけれど、食べたら絶対に美味しいはずなのに。
「沢村さん、落ち着いてください。ここは店の中ですよ」
「はっ……すみません」
「いいっスけど……」
お客さんはいなくても、今は仕事中だ。
安達さんに肩を叩かれなかったら、スマホを出して写メも見せて、今すぐ作ってみるように言っていただろう。……危なかった。
食べ物に関しては自重をしないと。落ち着くための深呼吸を何度かしたら、安達さんにも助かったことを伝えていく。
ちょっと困った顔で微笑んだ安達さんが、弟子に振り向いて感想を話した。
「エンマーを使ったパンケーキの味は、実際に食べた私も保証しますよ。作り方と味が気になるのなら、二日後に材料を用意しておくといいでしょう。作って見せてくれるはずですから。沢村さんが」
「わたしがですか!?」
「私は前回も作っていませんので」
それもそうだ。
二日後にある梅干しと梅酒の試食会の時に、パンケーキの作り方も教えることになってしまった。
弟子にも楽しみにしていると言われれば、作らないわけにはいかないだろう。
元々、この世界の粉だしね。
それなら泡だて器とか粉を振るう道具とか、持ってきたほうが良いよね。
これは安達さんに運んでもらうことにして、シロップに使った砂糖も買ってきてもらおうかな。
メープルシロップよりもトロンとしていて、ちょっとほろ苦くて。
あれは美味しかったと思い出していたら、この世界で初めて異世界っぽい髪の色を持った、とても派手な人が入ってきた。
「やあ、デーイ。いつもの物を買いに来たんだが、モランさんはいるかい?」
「いらっしゃい。親方に訊いてくるんで、ちょっと待っててくださいっス」
銀の髪をまぶしく輝かせた男の人は、キザったらしい仕草でうねる髪をかき上げながら囁くように呟いていく。
顔も派手だし髪の色も派手だけれど、声も艶があるとはすごい人だな。
銀の髪なら、異種族なのかな?
エローラさんは赤髪で、アゼロという冒険者は真っ青な髪だったけれども。
「お茶は出しますか?」
まぶしくて固まったわたしの横を通り抜ける、弟子を捕まえて訊いてみた。
お客さんは慣れているのか、待つように言われたら、案内をする前に中央の椅子に座っていく。
それならお茶を出したほうが良いかと尋ねたら、「今日は大丈夫っスよ」という答えが返ってきた。
今日”は”って、どういう意味だろう?
すぐに終わる用事だからなのか、穏やかそうな雰囲気だからなんだろうか。
エローラさんには落ち着かせる意味も込めて、お茶を出したけれども。この人はのんびり優雅な仕草で、静かに待ってくれていることからも、そういうお茶は必要ないってことなのかな?
「……」
またしてもカウンターの下にすぐさま隠れた安達さんは置いておいて、何か話し掛けたほうが良いのかな。
でもお茶もないのに話し掛けることも微妙だし、タイミングを逃した気もする。
何か言われたらすぐ反応できるように、静かにカウンターの中にいよう。よし。
手持無沙汰で待っていたら、言葉通りにすぐに弟子が戻ってきた。
「すんません。明日になるっスわ」
誰に対しても軽い弟子は、まぶしいお客さんに対してもへらっと笑いながら、「今日は無理っス」と伝えていく。
慣れているのか怒りもせずに、お客さんが静かに立ち上がった。
「そうかい。それなら明日、また来ることにしよう」
「二日後は早めに閉めるんで、明日中に取りに来てくださいっス」
遅れることも悪びれない弟子は、明日中に来いと無理を言う。
……色々、大丈夫かな。
ハラハラしながら見守っていたら、これまた慣れているのかお客さんはアッサリと手を振っていく。
「ああ、わかっているさ。明日はそちらのお嬢ちゃんを紹介してくれよ」
「いいっスよ」
「はい?」
バチンと音がしそうな勢いで、けれど自然な流れで右目をつむったら、まぶしい銀の髪をなびかせながら帰っていった。
「ま、またお越しください」
「また明日ー」
やっぱり手を振ったのは、『お嬢ちゃん』のわたしに対してみたいだ。
前にエローラさんが帰り際に手を振ったのも、わたしを年下だと思ったからなんだろう。……十歳は確実に年上だと思うんだけど。もちろん、わたしが。
微妙に落ち込むわたしの足元で、今日も震えている塊があった。
「……何を笑っているんですか、安達さん?」
「相変わらず、異種族に好かれているなあと思っただけです」
「え?」
それじゃあ今の人は、別な種族の方だったんだ。
「ふぅん」
明日、わたしを紹介するのなら、逆にどんな方なのか尋ねてみよう。
それにしても銀の髪って、室内で見てもまぶしいんだなあ。




