13話:異世界研修一ヵ月 初出勤(二度目)
「おはようございます、安達さん」
「おはようございます、沢村さん。……朝から、物騒な顔ですね」
駅で待ち合わせをした人物が目に入ったら、わたしから挨拶をしていった。
こういうことは、先手必勝というもんね。
今日も紺色のシャツにジーンズ、一つ結びに枠ありの眼鏡という普通装備なだけのわたしは、しっかりと背筋を伸ばして腕を組んで、対象者を睨みつけた。
「どうかしましたか?」
まったくわけがわからないと困った顔をしている安達さんは、体調が悪くて踏ん張っているのだと思っているらしい。
それなら無理をしないで、「今日は休みたい」という連絡を入れておくよ。
「体調に問題はありません。わたしが怒っているのは、安達さんにです」
「私に、怒る?」
改札を通っていつもの電車が動き始めたら、自分の頭を指差して訴えてやる。
「髪ですよ、髪!」
親方も弟子も、少ないけれど通りがかった人も。
っていうか前に行った別な街の人たちだって、茶系の髪や瞳の色しかいなかったのだ。
この世界には染めてから向かったから、気付いても染め直すことは面倒くさい。だからって毛染め初心者に、ピンクを勧めるとはどういうことだ、常識的にも!
「向かう場所が場所だから、そのまま信じて赤系になりましたけどね。最初の予定通り、こげ茶でも全然まったくちっとも問題なかったじゃないですかっ」
自分の頭に向かって何度も指差しながら抗議するわたしに、安達さんがようやくポンと手を叩いて頷いた。
「そのことですか。たまたま茶系の人が多いだけで、他の色もいますよ?」
「そういう問題じゃありません。赤にする必要はなかったと言っているんです!」
怒っている理由を聞いても、きょとんとした顔で首を傾げるんじゃない。
何で赤系、それもピンクを勧めたのか訊いたら、ニコリと微笑んだ。
「それはもちろん、沢村さんに似合うと思ったからですよ」
「は!?」
赤が似合うなんて、初めて言われたんだけど。いや、この場合はピンクか。
普段の服装でも小物でも、ピンクは持っていない。女子にはピンクだろうという思考なら、三十六歳にはキツイということもわかって欲しい。
マスクはピンクベージュを持って行ったけれど、紺がなかったことで仕方がないチョイスだ。
「まあまあ。最終的には暗めの赤にしてもらったじゃないですか。これもこれで、似合っていますよ?」
「……」
髪の色が変わったことで、選ぶ服の色とかデザインとかも意識するようになったけれど。それとこれとは別だと睨んだら、ニコニコしながら自分の頭を指差した。
「それにほら、私も暗めとはいえブルーグレーでしょう?沢村さんが無難な茶系にしてしまうと、私が目立ってしまうじゃないですか」
「わたしもできることなら、目立ちたくはないんですけど」
三十六年間、ひっそり暮らしてきたわたしですよ。異世界でも目立ちたいわけがないだろう。
「それは、私もですよ。まあ茶色では面白くないと思ったことでの赤チョイスでもあります」
「人の髪を、面白くないからっていう理由で赤にしないでください!」
肩をすくめながら、サラッと何を言っているんだ、この人は。
まったく……とお互いがお互いに呆れながら。今日も同じ電車に乗って、慣れた駅で降りたらビルまで歩いていく。
髪の色の文句は言ったから、他の気になったこともついでに言っていこう。
「え、まだあるんですか?」
「細かくても、いちいち突っ込めと言ったのは安達さんじゃないですか」
そもそも、研修期間は始まったばかりだ。
まだお店に立っていないから、異世界の疑問点はこれから出るんだろうけれど。基本的な生活面での気になることが見つかったから、早めに処理をしておきたい。
「これは採用が決まったら考えないといけないことになるので、気が早い質問ですけれど……」
今のうちに会社でも意見をまとめてくれたら、採用後に動きやすくなると思う。掃除の時の弟子みたいに、「何かこう、上手いことアレしてください」という雑な丸投げは困るからね。
掃除は慣れていても、異世界のことにはまったくちっとも慣れていないもん。
それもそうかと一つ頷いた安達さんが、黙って手のひらを向けてきた。
続きをどうぞ、ということらしい。
「コホン、では……。まず一番気になっているのは、布団を担いでいかないといけないかどうか、です」
「布団はありますよ。住み込みのできる従業員を募集していたんですから」
「それは、どんな布団ですか?」
昔から畳で眠っていたわたしは、ベッドがそもそも苦手だ。
旅行先で少しの日にち、眠るくらいはいいけれど。これから毎日眠ることになる場所は、洗濯ができるかどうかが重要になってくる。
フローリングでベッドだということは、先に聞いていたので知っている。しかし外せない重いマットなら、布団クリーナーか布団乾燥機を買おうと思っていることを話していった。
「……そこを気にしますか」
「安達さんだって、疲れを取る布団は大事だと言っていたじゃないですか」
「言いましたけど……」
月の大半は向こうで暮らすことになるんだから、干せないと困る、非常に。
シーツも敷きっぱなしは嫌だし、枕がガサガサ音の鳴るタイプだと、いくらふかふかでも気になって眠れない。
とても切実に訴えるわたしに若干、引きながらも、小さく頷いてくれた。
「相変わらず、今まで訊かれたことのないところを突っ込んできますね」
「睡眠は、食事と同じくらいに大切なことですから」
「それは同感です」
とても深く、何度も賛同してくれる安達さん。
けれどそんなに細かいことは知らないし、そもそもわたし好みの布団かどうかはわからないと言われてしまった。それもそうか。
「親方か弟子に訊いてみて、実際に触れてみれば良いでしょう」
「わかりました」
カレーや薬草の調理をした三階の空部屋は、備え付けのキッチン以外は見当たらなかった。
別な場所に置いてあるんだろうから、昼食の時にでも訊いてみることにしよう。
可能なら、お昼寝をして確かめてみたいな。
「良いですね、昼寝!」
「何で安達さんと一緒に眠らないといけないんですか」
ぱあっと明るい顔をして、「早速、昼寝時間を申請しましょう!」と張り切るんじゃない。
それはつまり、同じベッドで眠ることになるじゃないか。意味がわからない。
「いえ。さすがにそれはありませんよ」
「……」
それならソファらしき家具もない場所で、どうやって昼寝をするつもりだったんだろうか。
そして、被り気味に真顔で否定するんじゃない。いや、ここで「一緒に寝ないと会社に報告ができません」とか言われるよりは、マシだけれども。
「沢村さんよりは大きい人が多い世界ですから、ベッドも大きいと思いますけど。さすがに二人並んで眠れるくらいの幅は、ないでしょうからね」
「横幅はまあまあで、縦が長い可能性が高いんですね?」
そうすると、わたしが持てる大きさのマットなのかが微妙だなあ。前に泊まった宿のベッドの大きさって、どうだったっけ?
定期的に干すためにも、持てないサイズじゃないと困るんだよね。
「サイズが合わない場合は、こちらから持って行かないといけませんね」
「……わかりました」
寝具一式が用意されいても、一通り担いでみよう。よし。
「布団を持っていく予定で考えていたということは、他の荷物も大量ですか?」
いつものビルに入ったら、今日も許可証とハローワークカードを出していく。
他にも何か準備が必要みたいで、扉の近くをウロウロしている安達さんが、布団以外の荷物はどのくらいを予定しているのかと訊いてきた。
「段ボールに入れてまで確認はしていませんから、ハッキリは言えませんけれど。このくらいの、先日のカレー鍋を運んだ大きさの箱、二つ分くらいでまとめようと考えています」
「二箱ですか?」
「はい。鍋も食器も、一人分ですから」
調味料や食材をどの程度、持って行くかによってはもう一箱分、増えるかもしれないけれど。
靴はいま履いているスニーカーとサンダルで、服は四日分あれば足りるだろう。元々、手持ちの服自体が少ないしね。
持っていく予定で考えているものを話したら、納得するように頷いていった。
「それくらいなら、他の社員の手伝いも必要なさそうです」
「手伝ってくれる予定だったんですか?」
「沢村さんだけのオプションではないですよ。専門業者が使えない理由は、知っているでしょう?」
「……はい」
やっぱり手作業で運ぶことになるらしく、移動の日が決まり次第に、社員総出で土日返上で手伝うのだと教えてくれた。
「と言っても、沢村さんのように生活用品を持って行く人はいませんでしたからね。身の回りの最低限のものだけで、他はすべて処分ということが普通です」
「それなら引っ越しの手伝いよりは、処分に時間と人手を使う感じですね」
「ええ。持っていけない電化製品を中心に、住んでいるところから丸ごと、いなくなっていただかないと困ります」
「丸ごと……」
いやでも異世界に永住なんだから、そうなるよね、うん。
しかし手伝ってくれることは助かるけれど、みんなの休みを使うのか……。余計に手を借りたくないと思ってしまうな。
安達さんなら、その後に有休をぶん取って休むだろうけど。他の社員はサービス残業扱いじゃないよね?
「休みは交代で取りますよ。それより、同性同士でないと出来ないこともありますからね」
「……はあ。そうなんですか?」
同性というと、下着の移動とかだろうか。
でもそれは同じ女性同士でも他人には触れられたくない物だし、触りたくもないだろう。
他に何か、安達さんでは無理なものがあったかと悩むわたしに、何とも言えない顔で見つめられてしまった。
「……沢村さんが気にしないのなら、良いんですよ」
「そうですね」
何だか頭を抱えているような気がするけれど、どういう意味だろうか。
まあいいやと脇に置いたら、運ぶ段取りを話していくことにする。
「先日の台車が借りられたら、わたし一人でも一度で運べると思うんです。布団があったら、もう一往復しないといけませんけれど。そうだ、洗濯機はありますか?」
「ありますよ。ああ、こちらは研修前に使わなかったですね。……親方に頼んで、今週のうちに使わせてもらいましょうか」
「お願いします」
そうそう。洗濯機があるかどうかによっても、持っていく量を考えないといけなかったんだった。
気候は良さそうだから、朝に洗濯をしたら夕方は乾いているだろう。しかし手で洗うことになるのなら、毎日しないと追い付かない。
「……やはり、着眼点が違いますね」
「他の人は、着替えの服とか考えないんですか?」
「永住するんですから、そちらの世界で買い足すんじゃないですか?」
「ああ、なるほど」
その方法は簡単だけれど、お金がないと大変なはずだ。
そもそも異世界の服が自分に合うかどうかもわからないと言ったら、怪訝な顔をされてしまった。
「そういうところも、特に突っ込まれたことはありませんね」
「そりゃあ今までの人たちは、最初から一人で仕事をすることになるんでしょう?それなら研修期間中は、向こうの世界に慣れることで精いっぱいでしょう。慣れた頃には永住が決まっているんですから、安達さんたちに不満は伝えられませんよ」
「ああ、なるほど。……それもそうですね」
着心地やサイズも気になるけれど、世界が違うことで着方も違うかもしれない。
アンケートの結果で世界と就職先を選んでくれることから、仕事に慣れようとは考えても、洗濯事情まで最初から気にする人はいないはずだ。
現にわたしも、少しずつ気になってきた部分だもんね。
「その調子で突っ込んでください」
「それは構いませんが、ちゃんと仕事に反映してください」
最初から細かすぎるアンケートだと、行かない人が増えて困ることもありそうだけれど。
それでも何も変わらないなら、こうして安達さんがついていることも、わたしが書いている業務日誌も、意味がないということになってしまう。
それではいかんと気合いを入れるわたしに、きょとんとした顔で首を傾げた。
「意味がなくても仕事をしたことになって、お金がもらえるんですよ?楽じゃないですか」
「意味がない仕事なら、させないでくださいよ」
「しているという事実がないと、意味がないでしょう?」
「……」
何だか段々、意味がわからなくなってきたけれども。要するに、安達さん的には改善されなくても問題はないということか。いやそれ、堂々と言うこと?
「……」
「……」
何を言っているんだと、お互いをものすごい顔で見やりながら。
本当にこの人で大丈夫なのかと、今度はわたしが頭を抱えたくなってきたよ。
朝から頭が痛い会話をしたことで、すでに疲れてきたけれど。
先週よりも賑やかな通りに降り立ったら、自然と気が引き締まってきた。歩いている人たちの中で、お店に来る人がいるかもしれないもんね。
妙な言動を見せて親方のお店に迷惑を掛けないように、しっかりまっすぐ歩いていこう。
「おはようございます」
「……」
よしっと気合いを入れたら先週と同じく、まずは彫像に向かって朝の挨拶をしていく。
やっぱり何とも言えない顔で静かに見やる安達さんは無視して、ガチャリと扉を開けることにしようっと。
採用されたら、裏にある従業員の出入り口から入ることになるんだよね。
それまでは弟子が開けてくれているらしく、今日も普通に扉が開いていった。
「おはよーっす、サワッち。今日から店番、よろしくっス!」
「おはようございます、デーイさん。よろしくお願いします」
わたしを『サワッち』呼びしている弟子は、何と呼べばいいのか迷ったけれど。年下っぽくても先輩なことは確かだから、『さん』付けにすることにした。
弟子は呼び捨て以外をされたことがないらしく、若干、照れている。
「いやあー。やっとオレも下っ端から一歩、前進っすね」
そうして「親方の右腕になるぞ」と気合いを入れえる弟子は、今日も熱いな。
お店が開くまで何をしようかと尋ねる前に、奥からミシッと重い音が響いた。
「おぅ、来たか」
「おはようございます、親方」
弟子は名前で呼ぶけれど、親方は『親方』呼びのまま。
名前が良いのかなと思っていたら、名前を呼ぶのは従業員以外だと、安達さんに教えてもらったのだ。
確かに飛竜の飼い主のオジサンも、名前で呼んでいたもんね。
それにしても、わたしも『親方』と呼んでいいなんて。研修期間中の見習いとはいえ、やっぱり嬉しいな。
「オレは奥で仕事をしている。基本的なことはデーイに訊け」
「わかりました」
「はーいっす」
それなら早速、お店の前を掃いてくるとしようか。
すっかり馴染みのホウキとちり取りを持ったら、開店準備に取り掛かろうっと。
掃除が終わったら、扉も軽く拭いて。
持ってきたホコリ取りのモップで棚をサッと一拭きしたら、中央にあるテーブルと一緒に、カウンターの上も拭いていこう。
「サワッち、言われなくてもそこまで拭くんスか」
「え?……あ、水拭きはダメでしたか?」
普通の木の板だと思って、勝手に水拭きにしちゃったよ。固く絞ったからすぐに乾くだろうけれど、まずかっただろうか。
先週はこまめに尋ねていたのに、やらかしてしまったと固まっていたら、大きな手のひらが頭の上に乗っかっていた。
「いやー。やっぱ見た目が小さいだけで、しっかりしてるんスね!」
「痛い痛い」
グリグリと頭を揺さぶられているけれど、もしかしなくとも、弟子に撫でられているんだろうか。……痛いし、頭が回されて酔ってきた。
「デーイ、沢村さんの首が取れると親方にも言われただろう」
「あ、やべ。取れてねえっすよね?」
「……大丈夫です」
恐る恐る覗き込んで、首と頭は繋がっているかと確認をするんじゃない。
飛竜と同じく、次からは手加減をしてくれと伝えないと怪我をしそうだ。
「悪ぃ、悪ぃ」
「……」
全然悪く思っていなさそうな口調は、元同僚を思い出させるな。
「んじゃまあサワッちは基本、カウンターの中にいてくださいっス。その場で薬を頼まれた場合はオレが対応して、奥の親方に伝えに行くんで」
「わかりました」
まずは初日ということで、脇に控えるように見守ることになった。
どんなお客さんがどういう風に来るかもわからない初心者のわたしでは、計算係くらいしかできないもんね。
カウンターの中で準備をしたら、弟子が外に通じるお店の扉を開いていった。
「あ、デーイ!すまん、モランさんはいるか!?」
「うおっと、いらっしゃい。つーかアゼロ、またやったんスか?」
「へ!?」
開けた途端に駆け込んできた人たちは、剣っぽいものを腰に差しているガタイのいいお兄さんと、その人を支えている、ぶかぶかのローブを着ている細っこい男の人たちだった。
「い……、いらっしゃいませ」
で、いいんだよね?
つっかえてしまったけれど、わたしのとっては初めてのお客さんだ。
しっかり立ち上がったら、カウンターの中で声を掛けた。
けれど声が小さかったからか、ガンガン言い合いをするような言葉が飛び交っているからか。わたしのほうに視線を向けないで、ひたすら剣を持っているお兄さんと弟子がやり合っていた。
「またとは何だ、またとは!オレは冒険者だぞ!?ダンジョンに入ったら、怪我はつきものだろうが」
「怪我っつっても、オードは癒しをする人じゃん。ダンジョンから出てくんなよ、面倒くせえ」
「……」
アゼロ……さんが、冒険者の人でいいのかな?
冒険者になる人なんだから、情熱的なんだろうね。ものすごく熱く、ダンジョンとかいうものの話を力を込めて言っていく。
対する弟子は耳をほじりながら、右足を左足で掻きながら、「あっそー」とでもいうような態度と白けた顔で見下ろしている。
……ええと。お客さん、で、良いんだよね?
親方を指名しているということは、怪我をしているということは、絆創膏か軟膏が欲しいということなのかな。
カウンターから出ないようにと言われたけれど、出入り口でいつまでも言い合いをしていたら、他に用があるお客さんに迷惑だよね。
「オ、オレは、アゼロを死なせないことしかできないから……」
「止血してんなら親方の出番はないっしょ?宿行って着替えれば済む話じゃん」
オロオロしながら診てもらいたいと言うローブの人に、余計な仕事を増やすなと、弟子がしっしと手を振っていった。
「デーイさん。とりあえず、二人をお店の中に入れてはどうですか?他のお客さんが入れないと悪いですし、容体が悪化するかもしれないでしょう?」
ここで追い返して、道端で倒れたらどうするんだ。
それこそ親方に迷惑が掛かると伝えたら、ものすごく顔を歪ませた弟子が二人を指差した。
「サワッちは知らないから、そういう優しいことを言えるんスよ。冒険者登録した途端、こうして毎日のように怪我した格好で店に来るんスよ?扉に血がつくから、落としてこいって言ってんのに聞かねえし……」
「え?」
扉の掃除をした時に、妙な汚れがついていることが不思議だったけれど。あれはもしかしなくとも、目の前の自称冒険者、アゼロさんの血だったのか。
っていうか改めて見ると装備らしき鎧はボロボロだし、短く刈り上げている青い髪には、血がべっとりついている。
二人の全身は泥と草がこびりついていて、歩いてきた道には泥の靴跡が見えた。
「うわぁ……、掃除したい」
っていうか、頭から水をぶっかけたい。
「でしょー!?サワッちもそう思うっしょ!?」
確かに綺麗に整頓しているお店の中には、入れたくない人たちだね。
思いっ切り引く、突然現れたわたしに怪訝な顔を向けながら、整備されていないダンジョンに潜る冒険者は、みんなこうなのだと強調していった。
「そもそも怪我をした状態のまま店に来ないと、いかに大変な相手だったか伝わらないだろ!」
「そーゆー鬱陶しいの、マジ勘弁。自分の腕を過信するから、いっつも返り討ちにあうんだろーが」
「……」
何だろうな。
この冒険者の人も支えるようにオロオロしているお兄さんも、もちろん弟子も。
いい大人な気がするのに、言っている内容は小学生の会話に聞こえるんだけど。
「いいから、モランさんを呼んでくれよ!」
「うるっせぇ!全身洗ってから来い、アホども!」
いつもこの状態で来ると言う言葉の通りに、二人のやり取りを通行人は誰も見ていない。っていうか、気にするそぶりも見せない。
他人に無関心な薄情なわけではなくて、本当に日常茶飯事のやり取りで、すでに街の人たちも呆れているんだろう。
「……」
扉の中と外で言い合いをしている、二人からそっと離れて距離を置こう。そして親方に、どうすればいいか尋ねに行こう。
静かに気配を消しながら、カウンターに入って奥の部屋の扉に手を掛けるわたしよりも先に、安達さんがぬうっと顔を出した。
「逃げるんですか?」
「失礼ですね。上司に指示を仰ぎに向かうんですよ」
っていうか面倒くさそうだとわかったら、真っ先に奥の部屋に隠れた人が言うんじゃない。




