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33話:エピローグ

 ゴリゴリ ゴリゴリ……


 瓶の中にある葉を取り出したら、半分だけちぎって乳鉢に入れていく。


 ゴリゴリ ゴリゴリ……


 念入りに葉の繊維を細かく砕いたら、蜜を入れてさらに混ぜていった。

 そうして出来上がった液体を等間隔に並べたら、しばらく置いておくと、綺麗な琥珀色に固まっていた。


 袋に入れたら、ようやく完成だ。


「ったく。いつになったらあの奥さんは、これがただの飴だって気付くんだ?」


 ゴキゴキと首を鳴らして呟く言葉はぶきらっぽう。立ち上がればほとんどの人を見下ろす身長も有名だ。


「まあまあ親方、いいじゃないっスかー。“子供が真面目に勉強する薬“だと信じているから、こうして定期的に買いに来てくれんスよ?」

「それが問題だって言ってんだよ」


 常連さんは大事にしなきゃーと、ヘラヘラ笑う軽い調子の弟子にも呆れながら、そろそろ店を開けろと袋ごと弟子を部屋から追い出していく。


 繊細さと丁寧さを求められる仕事だが、どの動きも無駄がない。

 しかし節ばった手とガタイのいい体格、そしてギロッと鋭い目元をしていることから、見た目と中身が合わないでいる。


 ギャップがひどすぎることも自分が店に出ない理由の一つなのだが、最大の理由は需要と供給が追い付かないからだった。


 今日もようやく一つが片付いたと肩を回したら、すぐに次の仕事に取りかかる。




 家庭の常備薬から、冒険者の旅の薬まで。

 異種族が混同するこの世界では、それぞれの種族ごとに必要な薬も扱っていると言えば聞こえは良いが……。


 実際は手先が器用で仕事熱心な親方の性格のせいで、『何でも屋』に近い薬屋になっていた。


 だからこそ、“子供が真面目に勉強をする薬“などというモノまで作る羽目になっているのだけれども。


「あぁ、この辺りはそろそろ補充がいるな。昼に数えて発注しとくか」


 せっかく弟子がいても、まともな指導どころか休みも満足に与えられていない。

 いくら週末を定休日にしても、たまっている雑事やストック用の薬を作ることで終わってしまうのだ。


 結局のところ、親方自身も休みがまったくない状況が続いていた。


「こういう在庫整理も、もうちっと頼みてえな」


 三階建ての建物は、すべて親方が所有している。

 店舗兼住居の建物のうち、二階のすべてを倉庫にしなければいけないくらいに、その量と種類はかなり多い。


 薬の原料は買うこともあるが、そのほとんどを自分で栽培をしており、季節ごとに採取と加工をしてから保管している。


 どの薬にどのくらい使うかは毎回、お客によっても違う。

 店では出来上がった薬も販売しているが、特殊な薬を求めてくる客の方が多くて追い付いていなかった。




「親方ー、開けてきたっスよ」


 ホウキとちり取りを手に持った弟子が、開店準備が整ったことを知らせに来る。


「おう。今日の昼は在庫の確認だ」

「わっかりましたー。そろそろ店の在庫も少なくなってたっスもんね。フシダカは人気商品ですし」


 他にも数点の名前を言われ、週末だけでは時間が足りないことに気付いた親方は渋い顔をした。


「それなら七日丸々、休めば良いんじゃないっスか?」


 いつでも軽い調子の弟子は、アッサリ店を閉めようと言ってくる。


「それができれば……、いや。もうすぐ一斉に休む日があったな」

「あーあー、あれっスね」


 ポンと手を叩いて、ちょうど良い日があったと思い出す。

 その日に雑事も片付けて、ついでに休むことも決めたら、本日最初のお客が店に来たらしい。


「はーいっス、いま行きますよー」


 誰相手でも軽く応える弟子には少し頭を抱えつつ。上手くいけば、少しは教えることができるだろうと前向きに考え直すことにした。


 弟子は店に、自分は作業場に戻ろうと足を向けた親方に、振り返った弟子が声を掛けてくる。


「つーか新しい店番って、いつ来るんスか?」

「あぁ。ちょうど、その日・・・に来ることになっている」

「ラッキーじゃないっスか」


 それも思い出して、ちょうど良い日・・・・・・・だと思ったのだ。


 ニヤリと口元を歪ませた親方に、弟子が両手を挙げて思いっ切り伸びをした。


「あぁー……!これでやっと、オレも親方の手伝いができるっスよ!」


 弟子入りして二年、ようやくまともな仕事ができると弟子が喜んでいった。




「つーか、どういう人がくるんスか?」


 自分の代わりに店番を頼むことになるなら、苦手とする接客ができないと困る。しかし薬の知識がある人では、弟子が学ぶどころか役割が逆になってしまう。


 人の顔や薬の名前と効能を覚えることは早くても、計算が苦手な弟子には店番が苦痛だった。

 それでも何とかしてきたのだが、さすがにそろそろ限界ということで求人を出すことになったのだ。


「あぁ、その心配はねぇよ。接客ができる人材を頼んだからな」

「そっスか!いやぁ、良かった!くせ者揃いすぎるんスよねー、ここの店に来る人たちは」


 カラッと笑いながら、ようやく弟子が店に向かって行った。


「いやー、待たせたっスね」


 ちっとも申し訳なさそうな軽さで、散々待たせていたお客の相手をする弟子の声が店に響いた。


「アイツは、まったく……」


 ガシガシと頭をきながら、遠い目をした親方が階段を上がっていく。


 接客が一番の仕事だが、それと同時に様々な計算と、増えすぎた薬の種類と効能が覚えられるかが問題だ。


「長続きしてくれれば、どこの・・・世界・・でも問題ねぇさ」


 リレキショというものが送られてきたが、名前と経歴、性別と性格が書いてあるだけだった。


「女か……。まあ、大丈夫なんだろう」


 男所帯に住み込みを希望するなど、何とも奇特なことだと考えながら。

 どんなヤツなのか、少しだけ楽しみな気持ちで作業場に向かって行った。


 今話で長かった『前章』が終わりです。


 研修期間の『第一章』は、5/27から連載が始まります。


 引き続きお楽しみいただけたら幸いです。

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