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13話:職業訓練と求職活動

「さて」


 今日は一月四日、ハローワークに行く日です。


 午後からの『職業訓練説明会』は開催日時に会議室に行けば、専用の外部講師の人がお話してくれるらしい。

 もちろん無料で、予約不要。気になったらGO!ということらしい。


 RPGで言うと、村長の助言とかそういうの?

 ゲームはそんなにしなかったから、よくわかんないけど。


「っていうか、どういう頻度でハローワークに来ればいいんだろう?」


 午前中は洗濯を終わらせて、掃除をしたりおかずを作ったり。


 煮物をコトコト煮込んでいる時、ふと、こういう講座とか決まった支給日以外に、どのくらい行っていいものか疑問が沸いてきた。


「次の就職先が見つかるまで通わないといけないのはわかるけど……」


 月曜日から金曜日、九時から五時まで開いているハローワーク。

 通う頻度はどのくらいだろうって、急に気になってきてしまった。


 支給日までの一か月、二回以上の求職活動をすれば申請が通ることは聞いた。

 でもこういう説明会とか再就職のための講座に参加することも求職活動になると聞くと、どのくらいから求人票に応募すればいいのかわからない。


「ググればいいのかな?」


 ハローワークに直接訊きにいけばいいんだろうけど、こんな曖昧な質問、どこの窓口で尋ねればいいかわからないな。


「追い返されたらどうしよう……」


 それはないか、うん。……たぶん。




「ええと……、ハローワークに入って左の扉は窓口の部屋だから。右側にある階段を上がって、四階の会議室に行けばいいんだよね?」


 まだ早い時間だからか新年早々だからか、人はまばらだし階段に向かう人が誰もいない。そろそろと上がりながら、看板が立っている会議室の前に辿り着いた。

 え、誰ともすれ違わなかったんだけど……。


 本当に、ここで合ってる?


 部屋に入っていいものかと見回したら、エレベーターの脇にある休憩スペースにテーブルと椅子が並んでいた。


「とりあえず、時間まで座って待とうか」


 タイミングのいい電車はそんなにない。

 ちょっと早く着きすぎたわたしは、今日の説明会のチラシを鞄から出した。


「今日は簿記会計とウェブデザイン、それとネットショップ販売の説明をしてくれるんだよね。んー……興味があるのは簿記だけど、訓練施設が学校ってことは通うってこと?」


 これも、どのくらいの頻度で通って資格が取れるんだろう。こういう話を詳しく教えてくれるのかな。


「今日の説明会に参加される方ですか?」

「あ、はい。……はい、そうです」


 わたしが近くでチラシを見ていたからか、会議室から出てきた男性が声を掛けてきてくれた。


 まだ時間じゃないみたいだけど、すでに中で講師の人が待っているらしい。中へどうぞと案内をされる。


「こんにちは、どうぞ」

「はい、失礼します」


 ニコニコと微笑みを浮かべた女の人が二人……講師でいいのかな?


 名前とハローワークカードに書かれている個人番号を用紙に記入したら、説明をしてくれるみたい。確かに時間だけど……。え、わたし一人しかいないのかな。


 ちょっと恐々と目の前の椅子に座ったら、早速、説明会が始まってしまった。




「うーん……」


 さすがに訓練学校ということで、資格に応じて三か月から半年、平日はびっしり通わなければいけないことはわかった。

 約一万円の教材が自己負担なことは痛いけど、受講料無料なんだから安いよね。


「沢村さんが興味のあるコースはどれですか?」

「簿記と考えていたんですが、ウェブデザインが気になります」


 学校のパソコンを一人一台に貸し出してくれることも、自分で用意しなくていいから助かるし。一日五百円で持ち帰りもできるとか、至れり尽くせりすぎる。


「幅広い資格を受験できるところも良いですね」

「ええ。こちらは専門に特化したコースですから」


 言語を習うのだとか理解するとか、一気に言われて頭の中はこんがらがっているけれど。

 ホームページが一から作成できるというところで、前の会社を思い出す。


 わたしがいた部署で、パソコン関係が詳しいってことから総務課に引き抜かれた人がいた。

 今まで外部に頼んでいたデザインや、パソコンとスマホに画面切り替えができるとか。その時はよく分からない内容だったけれど、そういう資格を持っていたってことなんだろう。


 この先、生き残るためにも特殊スキルは必要だ。


「ウェブデザインですね。こちらでしたら来週に見学会があります。しかしその日が受付の締め切りになっておりまして……」

「ああ。じゃあ、無理ですね」


 それなら簿記にしようかと考え込むわたしに、今日中にハローワークから紹介状のような受講申込書をもらえれば、ギリギリ間に合うと話してくれる。


「ただ、沢村さんは一度も受給をされていないのですよね?受講申込書をもらうのは少し難しいかもしれません」

「……そうですね」


 この職業訓練は、資格がないことで就職に不利だと感じた人が対象だ。

 確かにわたしは無職になって一か月経ったけど、面接もしていなければ履歴書も送っていない。


「ダメもとで窓口に訊いてみます。……あの、紹介状がもらえなくても来週の学校見学に参加しても良いでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。お待ちしております」

「ありがとうございました」


 ぺこりとお辞儀をしたら、窓口に行って訊いてみよう。




「うわっ」


 さっきの、閑散とした様子はどこへやら。

 総合受付がある部屋は、ものすごい人で溢れていた。


 どこに、こんなにいたんだろう?っていうか、わたしと同じ無職の人がこれほどいるってことだよね?


 驚きながらも番号札をもらって、ソファの端っこに座って待つ。何だか緊張してきたな。

 それでも何時間待つことになるんだろうと思っていたら、案外アッサリ呼ばれてしまった。


「ああ、はいはい。職業訓練の説明会に行ってきたのね?」

「そうです。それで、受講申込書はもらえるものかと思いまして……」


 受付のおじさんが眼鏡を少しずらしながら、わたしがもらってきた学校のチラシを見やった。


 無料で通える学校でも、誰でも入れるわけじゃない。こうして申込書という名の紹介状が必要だ。

 さらに通うには面接と筆記試験に受からなければいけない。


 面接はいかに資格が欲しいかということを伝えるくらいで、筆記試験は中学卒業程度ということだから安心だけれど。


 まだ一度も求職手当をもらっていないわたしが、紹介状をもらうことは難しいと言われた。だからか受付の人は難しい顔をしながらチラシを見ている。

 ……やっぱり、無理かな?


「まず、沢村さんが受けようと考えている職業訓練ですが。こちらは『求職者支援訓練』というものになります」

「……はい?」


 眼鏡を持ち上げながらチラシを見ていたおじさんが、後ろを振り返って別な用紙をわたしのほうへ差し出してくる。

 首を傾げつつ視線を向けたら、『職業訓練の受講を希望される皆様へ』と書いてあった。


「あのね、職業訓練には二種類ありましてな。『公共職業訓練』と、『求職者支援訓練』は色々と違うのです」

「はい」

「受講料が無料なところは一緒ですがね。沢村さんの受けるほうは雇用保険を受給できない人が対象なので、求職活動とは認められないんですよ」

「え!?」

「交通費も出ませんから、検定料と同じで完全な自己負担です。学校に通う時間と日にちは聞きましたか?」

「はい……」


 どのコースも月曜から金曜日、朝の九時半から四時までみっちり。


「ええ、ハローワークの開いている日と同じです。つまり他の求職活動をする暇もなく、認定日に来ることも難しいと思いますよ。もちろん、再就職のための面接を受けることも」

「……それは困りますね」


 この認定日は、日にちどころか時間まで指定されている厳格なものだ。その日にハローワークに来れないと一か月分もらえず、また次月、となる。


 わたしが理解したことを確認しながら、おじさんがさらに続けた。


「これが『公共職業訓練』なら、求職活動になりますから。認定日に来れなくてもハローワークが把握していますからね。欠席されたり途中でやめない限りは交通費などの手当ても出ます」


 ううむ、これは困ったぞ。


 受付のおじさんの雰囲気では、失業給付金を受け取らない覚悟があるか、学校を途中で抜け出して就職活動と両立するなら紹介状を渡してもいいみたい。


「どうします?」


 カリキュラムを見た限りでは、どの科目も重要で無駄がない時間割だった。

 短期集中型だからなんだろうけど、三か月から半年、わたしに通い続けることができるかどうか……。


「今回は……やめておきます」

「それが良さそうだね」


 『公共職業訓練』も定期的に募集しているから、そちらをどうぞということで、今日は帰ることになってしまった。


 細かく説明をしてくれた講師の人には悪いけど、通いたくなった時のために約束をした見学会は出席しよう。




「さて……」


 学校の雰囲気が悪くなかったところがまた、申し訳ない気分になってくる。

 トボトボと見学会からの帰り道を歩きながら、はあっと重たい溜息が口から出てきた。


 無料で学べて資格も取れるなんて、とてもありがたい。

 けれど学校優先で就職活動ができないままに半年が過ぎるということは、資格を取れても支給日が終わってしまうということだ。


「資格が取れても無職のままは、さすがに貯金ゼロにはキツイ」


 わたしが入学しなかったことで、本当に必要な人が受講できるといいな。


 ぐー……


「……お腹空いた」


 こういう時でも、お腹が鳴るとはどういうことだ。


「腹が減っては戦はできぬ」


 よしっと気合いを入れたら、あったかい夕飯の材料を買いに行くことにしよう。




「うーん……」


 やる気になっていた職業訓練がポシャったら、気合いが入らない。困った。


「うーん……」


 結局今日も、こうして部屋の中をひたすらゴロゴロして時間を潰すしかない。


「飽きた」


 学校に行かないって決めた日に、こういう時は何をしていればいいのか尋ねれば良かったなあ。


「みんな、何をしてるんだろう」


 履歴書や面接についての講座や、他にも色々と”求職活動実績”になるものはあるけれど。

 毎日、よりどりみどりってわけじゃないから、予定のない日がとても多い。


 ゴロゴロすることにも飽きて起き上がってもやる気が起きなくて、すぐに床に寝転がってしまう。


 今日は平日の真ん中、水曜日の午前十時。

 カチカチという時計の音と、ブゥンという冷蔵庫の音が鳴っているだけの静かな空間へや


 今まで、ずっと仕事をしていた時間だもんなあ……。


 暖房代がもったいないから、働いていた時間は外に出ようって思っていたけど。


「まず寒い。着替えることが面倒くさい。そして誘惑が多い」


 ぬくぬくと暖まった部屋から、真冬の寒空の下へ出掛けるなんて。

 パジャマの上に重ね着をするだけでいい、一人暮らし万歳!ってことに気付いてしまったら。


「用もないのに家から出る。……果てしなくメンドウ」


 それでもお腹は空くから、たまに食材を買いに外に出ないといけないんだけど。季節は冬。つまりマスクをして帽子を被ればスッピンでもなんでも関係ない。


「まずい……」


 もしかしなくとも、こうして孤独死していくんだろうか。


「だって今月の求職活動は終わっちゃったもんなあー」


 先月にあった『雇用保険説明会』と、先週の『職業訓練説明会』でもう二回だ。

 『失業認定申告書』にそれぞれ書いたら、「あ、これでもらえるんじゃん」ってことにも気付いたんだよね。


 さらに職業訓練をしようっていう意気込みが消え失せたこともあって、こうして見事にダラダラ生活に逆戻り。以上。


「はあ……」


 無職という現実に焦りはするけれど、通帳の残高を見ればまだ大丈夫と怠け癖が出てきてしまう。


「月末にある『ジョブカード活用セミナー』に『再就職支援セミナー』と、続けて受ければやる気も起きるかな?」


 その時の自分に期待をすることにして、お昼ご飯の支度をしようっと。


 ……もしかしなくても、わたしって仕事がないと怠け者気質なのかな。


「この先、これで大丈夫?」


 わたしの将来は大丈夫!?


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