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12話:束の間の休息

 ゴーン…… ゴーン……


 0時も回り、新しい年がやってきた。




 みなさん、こんにちは。または明けましておめでとうございます。


 無職になって一か月、新しい年が明けてしまいましたよ。マジか。


「大掃除第二弾までやっちゃったよ……」


 ちなみに第一弾は十二月頭です。

 無職になってから、わりとすぐですね。暇か!


 退職日の十日後に離職届が送られて、その次の日からハローワークに行って。

 一週間の待機日を過ぎたら、雇用保険の手続きも無事に終了です。


 え、今ですか?

 この通り、部屋でゴロゴロしておりますが、何か?


「んあー……。何しようかなあ」


 食料も買い込んである、ハローワークはお休み。

 友人は結婚した人ばかりで、お正月から遊べるわけがない。……お金もないし。


 普段からそれほど連絡は取り合ってないから、暇じゃない正月に声を掛けるのもアレだ。そもそも向こうは子供もいるから、自分の家族で精いっぱいだと思う。


「毎年、年賀状に何書こうか悩むんだよね」


 子供と一緒の年賀状なら、成長がわかって微笑ましくもなるけれど。

 ”無職になりました”なんて、新年早々に報告されても困るだろう。




 ゴロゴロと転がりながら、次の求職活動まで何をしようかと考える。


 結局、再就職支援セミナーは間に合わなくて次回になってしまった。

 次の実績に相当するものは、一月四日の職業訓練説明会。


「簿記会計についての講座も開いてくれるなら、参加してみたいな」


 お茶出しは接客に近いけど、どっちかというと事務に就きたいんだよね。

 でも資格はないし、パソコンの技術も微妙なものだ。


「『ジョブカード活用セミナー』っていうのも申し込めたけど、これは月末だし」


 その間は履歴書の書き方もわからないまま、求職をしないといけないってこと?


「履歴書の書き方講座みたいなのもあったけど、これは基本コースから受けたほうがいいみたいだし……」


 持ってきた色々な講座が書いてあるチラシを見ながら。何だかすでに、まったりモードな無職生活のわたしがいる。大丈夫、これ?




 そんな新年、一応これでも予定はある。


「服はこっちが良いかな。ええと、鞄と靴……」


 久しぶりのお出掛けだ。ダラダラモードから切り替えて、風邪を引かないようにしっかり着込んで……じゃなくて。


「だらけてたら、絶対にツッコまれるもんね」


 メイクもちょっとは考えようか。それでも元の顔が地味だから、あんまり変わらないんだけど。……なぜ。


「コートは会社時代にも散々着ていたものだなあ」


 っていうか、服を何年も買ってないぞ。

 三十代も後半に差し掛かっているというのに、二十代の時に買った服を着ているのはヤバいよね。


「色とか型とか、定番過ぎるから忘れてたけど。このシャツって十代の時に買ったやつじゃなかったっけ?」


 初めてのバイトのお給料で、八千円のシャツを買ったんだよね。

 結構高い買い物だから、そんなに着ていないっていうこともあるけれど。お値段以上で、とっても丈夫。


「それにしても十代って、何年前だよ」


 今日は服も買おうかな。




「それよりパンツは何年物なんですか、先輩?」

「ええと……」


 会社を辞めても、わたしを先輩と呼ぶ後輩ちゃん。わたしもか。


 今日もパッチリ目元に、くるんと睫毛まつげのカーブがとても見事。

 ふんわりと長い髪もカールして、三百六十度、つやっつや。さすがだ。


 さすがに年末で忙しいから、十二月はお互いに遠慮をすることになった。

 わたしも手続きでバタバタしてたから、ちょうど良かったけれど。


 わたしは帰省しないことにしたし、後輩ちゃんは実家暮らし。それなら食事でもしようと、お正月の三日目にこうして出掛けることになった。


「……って。こんな公共の場所で、下着が何年物かなんて言わないよ」

「ちぇ……」


 つまらなさそうに唇を尖らせる姿も可愛らしい後輩ちゃんだ。見せている相手はわたしなんだけど、いいのかな。


「パンツもですけれど、服も何十年着てるんですか。チョコ費とか訳のわからないことにお金を使ってないで、身なりを整えてください」

「そう思ったから、ちょっと多めのお金を持ってきたんだよ」


 実家暮らしということもあるけど、かなりの衣装持ちの後輩ちゃんに、流行りというものを意識した服を見繕ってもらおうと話した。


 パンツ?パンツはいいや。見せる相手もいないし。

 これからもいないであろう、そんな相手のために高いパンツを買うなんて……。馬鹿らしい。


 鼻で笑いながら手を振るわたしに、後輩ちゃんが整った爪を向けてくる。


「何を言っているんですか、先輩?素敵パンツは金額もわからない男に見せるために買うんじゃありません。自分の気持ちを上げるために買うものです!」


 人を指差さないように注意しようとしたら、それよりも先に力強く言い切られてしまった。


「いや、でもね」

「でもじゃありません。先に下着屋に行きますよ!」


 気分を上げるためだと大声で行った時、賛同するように頷いていた女の人がいたけれど。

 三十五年も女をやってきたって、履き心地以外で下着を選んだことなどないぞ。




「……先輩、マジですか?」

「うん、マジ」


 下着売り場に向かったのは良いけれど、後輩ちゃんの勧めるものも見たけれど。


 確かに。レースにフリル、ちょっと濃い目の色合いも、下着なら良いかと思えるから不思議だ。


「気分が上がるって言った意味もわかったよ。でもね、根本的な問題があってね」

「……単純に着やせしやすいタイプなだけかと思ってました」

「そんなわけないじゃん」


 むしろ、これでも着太りしているほうなんだよ。

 厚手のセーターを着ているわけじゃないんだけどね……。


 おかっぱ時代は『座敷童』って言われていたほどの外見だ。

 今は一つに縛っているけど、それでも微妙に低い身長と小柄すぎる薄い身体で、三十代に見られたことがない。


 顔はそれなりに、年齢を重ねていることがわかるんだけどね。

 なんともチグハグすぎる自分の外見。


 勧められた下着を試着しようとサイズを見たら、見事に入らなくて後輩ちゃんが頭を抱えてしまった。

 すまんね。寄せてあげるとかはそもそも、それなりにお肉がある人しか使えない技なんだよ。


「今時、A65って」

「サイズを言うな!!」

「高校、いえ。中学生でもBかCの時代ですよ?」

「昭和の女ですから」


 わたしの全身をじとっと睨みながら、どこから寄せる肉を調達しようかと考えているみたいだ。


 余分な肉はないと言ったら各方面から怒られそうだけど、かき集めるほどの肉がないことは事実なんだから仕方がない。


「あー……じゃあ、ここはやめましょう。もっとサイズが揃っているところでなんとか」

「いいよ、ありがとう。それよりお腹すいたでしょ?ご飯にしようよ」


 そんなに真剣に、パンツを選ぶために出掛けているわけじゃない。美味しいご飯を食べようと提案したら、一息吐いて頷いてくれた。


「はー……。半袖の季節は、一反木綿みたいにひょろひょろな先輩ですもんね」

「いったんもめん……」


 あれは布一枚の妖怪じゃないか。


 わたし、そんなに薄いのか。……そうか。




 ご飯を食べたら、気を取り直して服や小物を見て回ることにした。


「食べる量は多めなのに……」

「燃費が悪いことは自覚しているよ」


 今の無職生活で、三食おやつ付きが定番になりつつある。それでも動くからか、今のところ体型は変わっていないけど。


 このままダラダラしてしまったら、確実に太るだろうなあ……。

 ヨガ以外の運動もしないと、いざという時に動けなさそうだ。


 何だかすでに働き盛りではない、老後の心配みたいなことを考えているわたし。……コレ、大丈夫かな?


 とりあえず運動をしようと決めたわたしに、後輩ちゃんが顔を上げた。


「先輩って、髪型は変わりませんよね。そこはこだわりなんですか?」


 ふわふわカールの茶色寄りの髪を、優雅になびかせた後輩ちゃんが振り返る。

 黒髪ひっつめ眼鏡という、変わらなさすぎるわたしの数少ないこだわりなのかと訊いてくる。


「ううん。楽だから」

それ・・が楽なんですか?」

「結べる長さって大事なんだよ」


 肩より少し長いくらいだけど、この長さはちょうど良いのだ。

 寝相が悪いこともあって、微妙な長さにすると朝から大変なんだから。寝癖で。


 そういうことなら朝の支度時間を短くするための髪型だけど、こだわりといえばこだわりか。


「ふぅん?」


 髪型もつま先までいつも完璧な後輩ちゃんには、便利な髪型の意味がわからないらしい。小首を傾げながら、微妙な顔でわたしを見つめている。あ、呆れが入っているね。


「休日まで、同じっていうのはどうかと思いますけどね」

「一応、考えたんだけどね」


 突っ込まれると思って、『三十代 ヘアスタイル』とか検索もしてみたんだよ。その結果、似合わないということでドシンプルな一つ縛りになったわけで……。


「まあ、先輩らしいですけど」


 変わっていないと言われて、喜ぶところか謎な言葉だなあ。




 そんな感じで一日過ごして、ちょっとだけ自分では選ばない服も買ってみた。

 今日のシャツが十代の頃のものだと聞いた後輩ちゃんに、「化石シャツ!」って言われたからなんだけど。……化石シャツ。


 黒と紺色の落ち着いたグレンチェック柄は、どの年代でも合っていたんだよ。

 でもそうか、化石か。それでも丈夫だから、まだまだ着るけれど。


 下着では派手なものでも選びやすくても、表に出る服は派手だと困る。そもそも似合わないし。


「黒地にしてくれたけど……。花柄も持ったことないよ」


 花の模様が入っている物なんて、せいぜいハンカチくらいだ。

 濃い目の紫の花に深緑の葉の柄で、そこまで派手ではないけど自分的にはかなり冒険の服。


「うーん……。でも、せっかく選んでくれたんだし」


 この服に似合うような明るめのメイクにして、髪も下ろしてみようかなって気分になるから不思議だ。

 例え出掛ける先が、ハローワークとかスーパーでも。


「良い就職先が見つかるかもしれないしね」


 うん、そういうことにしておこう。




「はー……」


 何だか今日は会社のこととか就職のこととかすっかり忘れて、ちょっとした普通のお休みみたいだったな。

 いや、もうこの一か月は完全に休みだったんだけどさ。


「明日の説明会で、何かわかるといいな」


 お風呂からあがったら字の練習をして、ヨガもしようっと。


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