第九話
「ち、窒息するかと思いました」
「すまん、止めるのが遅かった」
崩れ落ちたままのポートを見下ろしながらドルスが謝る。
「で、この子、だれ?」
「そういえば聞いてなかった!」
「そういえば名乗ってませんでした。私は魔石使いのポートと申します」
「これはご丁寧に。あたしは火魔法使いのミーシャ。それでこの大きいのがドルス。冒険者よ」
ミーシャと名乗った魔法使いがドルスを指しながら答えた。
「それにしても魔石使い、しかも若いのに凄い腕だな」
「魔石を積み木代わりにして育ちましたから」
「なんだそりゃ、どんな生活だよ。仙人かよ」
魔石。
それが本質的になんであるかについては、ある者は魔素という物質が凝固したものだと述べ、ある者は魔力の歪みが生み出すものだと述べ、魔石がどうやって誕生するのかも含め定まってはいない。
ただわかっていることは、魔物は魔石を保有するという現実と、魔石は魔物の成長と共に成長するという事実だけである。
魔物から回収された魔石に”タブル”と呼ばれるものが含まれていることがわかったのはほんの数百年ほど前であった。
この”タブル”に対して特定の交信を行うことで、魔石は性質を変容させる。
ただし、魔石を使用するためには”タブル”の持つ”コルム”――――構造――――を正確に把握し、またそれに対して正確に交信して修飾することが要求される。
魔石にどのような”タブル”やそれに付随する”コルム”が含まれているかは魔石を核としていた魔物によっておおよそ決まっていた。
たとえばポートが使用した火の第四級魔石はジェネラルファイヤースリッジという魔物の核が使われており、こちらにはSTONEという”タブル”とTYPEという”コルム”が存在している、ということを知らなければ、その魔石を有効に使うことはできない。
そのため、優秀な魔石使いには魔石に交信できる能力はもちろん、どれだけの種類の魔石を見分け、かつその”タブル”と”コルム”を知っているかという構造知識が要求されるのだ。
もちろん、ドルスはそこまで魔石使いに詳しくはない。
第四級魔石を剣に変えられるだけの交信力を持っているということだけでその腕を判断していたのだが、実際何の道具もなく(とドルスは認識した)第四級魔石と交信できる魔石使いなど、イーゾン帝国五十万の民でも十人いるかという希少さであり、あながち的外れではなかった。
「ところで、なんでまたイスカーに」
「物心ついた頃にはバナグラの森でじっちゃんと二人っきりで暮らしてて、じっちゃんが亡くなったので…………」
「それは悪いこと聞いたな」
「いえいえ、いいんです。もう気持ちの整理はついていますので。ところでじっちゃん以外の人とあったのは実はドルスさんが初めてなんですよ」
照れたように言うポートに、ドルスとミーシャは互いを見合わせて頷いた。