第七話
ドルスは後ろに跳んだ。
このままでは返り討ちに遭う、とっさの判断で接近をやめて、バックステップでゴブリンキングの大剣をかわしたのは、さすが中堅冒険者と言えよう。
「ミーシャ、レビテート!」
背後でミーシャが浮遊の魔道具を用いたのを気配だけで確認する。
今のドルスの脳裏にあるのは、ミーシャをいかにして逃がすかだった。
自分はいい。
死ぬだけで済む。
だが、ミーシャは女だった。
ゴブリンに捕まれば、死ぬよりも辛い目に遭うだろう。
幸い、ゴブリンアーチャーもゴブリンメイジも見かけず、宙に浮いているミーシャを攻撃できる手段はなさそうだった。
レビテートの効果は約十分。
たとえ相打ちになったとしても、それまでにケリをつけなければならない。
「ミーシャ、俺が「すみませーん」」
状況にそぐわない、間延びした声がドルスの声に被さった。
ゴブリンキングと対峙していることも忘れ、ドルスが驚愕して振り返れば、そこには年端もいかぬ子供の姿があった。
もちろんポートである。
ゴブリンがポートに切りかかるが、それを器用に避けながら言った言葉は
「お取込み中すみませんが、イスカ―はどちらでしょう」
「おま、いま」
「戦ってる最中ですよね。すみません、こんなときに」
ポートが頭を下げると、その上をゴブリンの横薙ぎの剣が通り過ぎる。
「いいから逃げろ!」
ゴブリンキングの打ち降ろしを大剣で防ぎ、飛び散る火花を浴びながらドルスがやっとのことで絞り出した言葉。
だが、ポートは動かない。
「まだ道を教えて頂いてないのですが」
「命とどっちが大事なんだ!」
「もちろん命ですが」
「だったら逃げろ、俺が時間を稼ぐから!あの浮いている女を連れて逃げろ!」
「え、なんでですか?」
「馬鹿かお前はっ!!」
きょとんしているポートに、一匹のゴブリンが同時に切りかかった。
「おっと!」
だが、切りかかったゴブリンはポートの手が触れた瞬間に爆散する。
驚愕するドルスに対して、ポートは頭を下げた。
「ごめんなさい、横殴りはルール違反ですよね!」
「――――は?」
ドルスはポートの言葉を理解すると思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
たしかに、戦闘中のパーティに別のパーティが攻撃を加えることは横殴りとしてマナー違反である。
だが、今のこの絶体絶命の状況で、まさか横殴りを気にして攻撃していなかったとは思わなかったのだ。
ドルスはゴブリンキングの横殴りをバックステップでかわしながら叫んだ。
「どあほー!いいから、攻撃できるなら攻撃しろ!」
「え、いいんですか」
器用にゴブリンの攻撃を避けながらポートが驚いた顔をした。
「そんなこと気にしてられる状況じゃないだろうがっ!」