第五話
前回の話
森の中に住むポートとマール老人。
だが、マールには寿命が残されていなかった。
マールはポートに手紙を託し、その生涯を閉じた。
ポートの黒い左目は充血していた。
あれから一晩泣き続けたのだ。
ポートにとって、マールは自分の世界の全てだった。
あらゆることはマールから習い、マールから得た。
マールの死はポートにとっては世界の死だった。
「あ、猪…………」
どれだけ悲しくても、どれだけ辛くても、腹は減る。
食わなければ死んでしまう。
ポートはそのまま死んでしまっても良かったのだが、それはマールの望むところではないだろう。
目の前には昨日仕留めた猪があった。
ポートが奪ったその命に対する淑罪は果たさなければならない。
だから、猪を食らう。
それを解体し、調理し、ひたすら食らう。
もはや物言わぬマールを見ては嘔吐し、そして猪を食らう。
今のポートの中にあるのは使命感。
だから、マールの最後の願いを叶えるため、ポートは家の片付けを始めた。
といっても、しょせんは二人暮らし、他に人と遭うこともない森の生活だ、それほど物があったわけではない。
特にポートの持ち物は極僅かだった。
それでも片付けに時間がかかったのは、たとえば下着一枚、本一冊にしても、そこに込められたマールとの思い出があったからだ。
片付けをして、猪を食らい、また片付けをし、寝る、それだけを繰り返していくうちに、ポートの心はマールの死を受け入れた。
数日後、ポートは旅支度を整えると左手を家の前にかざした。
家の中には彼の育ての親、マールの亡骸がベッドの上に置かれたままであったが、既に別れは済ませてあった。
今から行う術式は対象が大きすぎてポートにはまだ無詠唱どころか、触媒なしでは詠唱もできない。
だから、ポートはばっさりと切り落とした自らの髪を触媒にして唱えた。
「接続」
その一言を唱えたことで、ポートの頭の中に流れ込む、大量の情報。
ポートの魔眼はその全ての構成を見通していた。
マールとポートが住んでいた家は、家のようで家ではなかった。
それは根本。
それは多数の表――――魔石の集合体。
すなわち、魔導具。
そして。
「家よ全てを破棄し給え」
ポートが唱えると、家は一瞬にして崩れ、そこには瓦礫の山が、墓標のように残るのであった。
この物語は構造修飾言語、Structure Qualified Languageを駆使する魔石使いポートの物語である。
構造修飾言語とは何なのか、やっと出てきました。
これでプロローグは終わり。
なお、今回の小説は呪文がSQLになっているだけなので、SQLがまったくわからなくても問題ありません。