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戦いに二度目はない

●心が病むのは? 22話●


夏休み中も野球部の練習はイメージトレーニングを中心とした守備練習とフリーバッティング。


午前や昼はゲームソフトのアイデアを今は周も加わって麻王、駿、周の三人でしている。




放課後

白桜グラウンド


全員が帰宅した後、グラウンドで何時ものように麻王がフリーバッティングをしているとリサは、

「……この前はホントにありがとう、麻王君。」


黒のスーツパンツ姿のリサが麻王に近づいて来る。


スラックスにワイシャツ姿に着替えている麻王は、

「お礼は寝ている時のキスでもらったので。」


リサが顔を真っ赤にして、

「ほ、本当に?」


リサの反応に麻王はクスと笑うと、


リサは、

「大人をからかったでしょ!……三者面談の続きで聞くんだけど…あ、あの…麻王はどんな女性が好きなの…?」


麻王はボールを打ち続けながら、

「リサのような清潔感のある女性が二日もお風呂に入っていない時かな?」


顔を更に赤くするとリサは、

「もう!ホントに変なことしてないよね?後、答えになってないし、一応、私、先生だからね。」


「それで用件は?」


「もう、生意気なんだから!」


リサは理事長からの特例特待生の用紙を麻王に渡すと、

「これでもう授業料の心配はないね。……麻王の方がずっとしっかりしているし、私と麻王の二人だけの時に敬語は必要ないよ。……もうこの前みたいに苛立った空気はないね?」



麻王はピッチングマシンを止め、ポケットからコインを取り出すと、

「このコインをリサの手の後ろに回して裏か表か俺に5回試してくれる?」


受け取ったコインを手の後ろに回すとリサは、

「え、うん…………はい、この右手の中のコインは?」


リサは右手の掌をにぎったまま麻王に差し出す。


「裏だよ。」


右手の手のひらを開くとリサは、

「…え?…ホントだ…………何で?もう一回……ね?」


「裏。」


「ええぇぇ~私も分からないのに~何で~!もう一回ね!」


「裏。」


「何で~!」


ポケットからコインをもう一枚出すと麻王は、

「次は意図的に二枚のコイン表裏を操作してくれていいよ。」


後ろを向くとリサは、

「よ~し!……絶対にわからないようにしてやるんだから!」


「表、裏。」


麻王がドンピシャで正解を言うとリサは、

「何でなの~!?」


目を丸くしてリサは、

「…………何で?…………何で判るの?」


「心が読めるからだよ。」


と麻王は笑顔で答える。



リサは顔を赤くしながら黙って下を向くと、

「……わ、私の気持ちも?」


「それはどうかな?」


麻王はベンチに置いてあった自身のウインドブレーカーを優しくリサの肩にかける。


麻王は、

「……帰るよ。」


リサにとって麻王の意外な返事にリサは、

「えっ…うん…特待生、おめでとうね、麻王。……私、女子校、女子大だったから…私…」


「ありがとう。」


「うん……麻王はピッチングマシンを止めないとね!じゃあ、また明日ね!」


リサは走って行く。




15分後

自転車置き場に向かう麻王にハルトが額から血を流してヨロヨロと歩いて来ると、

「……麻王、駿や赤瀬、碧、優也が………駿の以前のグループの奴らに捕まって…俺をここまで連れて来たヤツらがリサ先生も連れて行って…”夏葉麻王を呼んで来い”って。”午後九時までに来なかったら駿から順に右腕を切り落としていくから”って………本当にすまねぇ、麻王。」


人一倍負けん気の強いハルトがボロボロと涙を流す。



倒れ掛けたハルトを抱きかかえると麻王は、

「場所はどこだ、ハルト?」


「……麻王、今回は数が多過ぎる。絶対無理だよ。警察を呼べば野球部も終わりだけど……何より行けばお前も殺される…ごめん、麻王…本当にごめん…」


プライドの高いハルトはその場で泣き崩れている。


麻王はハルトの額や右腕を確認すると、

「……右手は痛まないか?」


「………俺の右手はもう大丈夫だよ、麻王。あいつら…先生まで連れて行きやがって……クソッ!」


ハルトを背負うと麻王は、

「保健室に行くぞ。」


麻王の背でハルトは、

「……麻王、時間がねえよ…」


歩き始めると麻王は、

「誘拐までしたヤツらは本気だろ?焦る気持ちは理解するが、そんな人生を投げ捨てたヤツらの下に知恵なく飛び込めば全員を失う。だろ?ヤツは全てを失っても俺を殺したい。なら、最も重要な愛枝やリサには俺を殺すまで手は出さないよ。後、美緒や心海には連絡するなよ。」


信じられないほど落ち着いている麻王にハルトは、

「……麻王…おまえ、一体…」


「それより、場所を教えてくれないか。」





21時前

以前、麻王が結衣を助けた新宿歌舞伎町裏の広い廃屋校舎の校庭に半グレグループが300人以上が集まっている。


その一番後方、廃校舎の前にそれぞれが椅子に縛られた駿、愛枝、碧、優也、リサの五人が捕まっている。


既にこれでもかというほど殴られている駿、碧、優也の三人と既に意識を失っている愛枝とリサ。その駿、愛枝、碧、優也、リサの五人の後方を20人の日本刀を持っている男たちがリサたちを囲ってニヤニヤと笑っている。


以前、ハルト、芯、碧が揉めた時の坊主頭の田中がそこに立っている。


歌舞伎町側から模造刀を持った麻王が一人歩いて来る。


田中は、

「バケモノ小僧、動いたら5人は即殺す!!!!刀を置け!!!!!」


田中の言葉に無言のまま麻王は模造刀を地面に置く。


スラックスにワイシャツ姿の麻王は立つと、

「前は情けを掛けてもらったとは考えないのか、スキンヘッド?」


麻王を指さすと田中は、

「うるせぇ!あの小僧だけは絶対に殺せ!!!!!!!!!!」


ドスを取り出し、愛枝、リサたちの下に行く田中は、

「バケモノ小僧は死に、駿も殺す…これでドラゴンヘッドは俺のモンだ…」


300人全員が麻王に襲い掛かっているハズの田中の前の廃校舎の暗闇で無数の悲鳴が聴こえる。


愛枝たちの周りにいた20人の日本刀を持った男たちが既に額から血を流して倒れている。


田中が振り返ると麻王は右手の消しゴムをポンポンと空中に飛ばしている。


「以前と同じようにマナでコーティングした消しゴムの断片を弾丸のように飛ばした事に気付かなかったのか?俺がいた世界の者ならクラスFでも避けるぞ?」


後ずさりをする田中は、

「……い、一体…な…な、何者だ、オマエ!?」


「スキンヘッドの……えっと…田中だっけ?人質の周りのヤツらはすぐには立ち上がらないぞ?どうする?」


「…う、うるせぇ!」


麻王は再び刀を拾うと、

「まあ、雑魚のセリフは何処の世界も変わらないな。もう情けはかけないぞ、スキンヘッド野郎。」


田中は脂汗を滴らせたまま、

「…………。」


麻王は模造刀を抜刀し、刃を返すと、

「仲間たちの手当を早くしたくてな。じゃあ残りの雑魚共の始末をするか。」



そう言った瞬間の麻王の音速の踏み込みの凄まじさに半グレグループたちの耳、手足、体幹の神経が痺れ、その超音速の刃の前に次々と倒れていく…。



麻王から人質までの直線上にいた60人ほどが血吹雪を流して倒れていく。誰一人ピクリとも動かない。


廃校舎前の校庭にある街路灯に照らされると倒された者からおびただしい血が流れている。


戦闘開始前に麻王から50M程先にいた筈の駿、愛枝、碧、優也、リサの五人の人質の下に麻王が素早く陣取り五人の縄を切る。



後方で取り囲んでいた二十人は眼球を白目にして倒れている。麻王は納刀し、その場に屈み、駿、愛枝、碧、優也、リサの五人を一ヶ所に集め全員の安否を確認している。



駿の顔はバスケットボールのように腫れ上がっている姿に麻王は、

「……顔という概念を失くす程に駿が一番酷く殴られているな。……碧もかなり酷い、優也はその10分の1ぐらいか。唯一の救いは愛枝とリサは駿、碧、優也の三人の殴られている姿を見て気を失っているだけということか…」



そう言う麻王はゆっくりと立ち上がると、

「そろそろこの半グレ20人にが目覚める頃か…」


そう言うと麻王は最初に意識を失った愛枝たちの周りの半グレグループ20人一人一人を足で仰向けに転がしていくと模造刀の先端で一人一人を無機質に刺していく。



その冷酷非情な姿に田中を含めた残りの凡そ200人は身動き1つできない。麻王に襲い掛かり流血を吹いて倒れたままピクリとも動かない83人の仲間のおびただしい流血が更に残った200人を凍り付かせる。


呆然自失している一人の男が、

「…………し、真剣ってこんなにも数多く斬れるのか?……脂で斬れないってウソか、ハァ…?」



麻王は刺す手を止めると、

「模造刀だが?刃がない模造刀の刃で鋭く斬ると肋骨は折れ、燃え千切れるような痛みを感じるんだよ。ま、俺しか不可能な芸当だがな。」



凍り付いた200人の半グレグループは男女関係なく糞尿をその場に垂れ流し始めると、

「……ヒィィィィィィィ…こ、こ、殺される…か、確実に殺される……」


二十人を刺し終えると麻王は血振りをする。何万、何十万、何百万の敵をその手で(ほふ)って来た者冷酷非情な目がそこにある。



麻王が再び話し始める、

「オマエたち全員の顔は把握した。今、仮にここから奇跡的に逃げ切ったとしても数時間以内に必ずオマエたちは死を迎える。」



麻王の言葉に直感的に逃げ切れないと知った残りの者たちが麻王に襲いかかる。ほぼ残りの200人は次々と血を吹きながら倒れていく。


「ヒィィィィ、こんなバケモノ~!何百でも無理に決まっている~!」


「ひ、一人でやれよ~田中~!に、逃げるぞ?」


麻王のバケモノさを再認識した残り7人が四方に散り散りに逃げ始める。


麻王は小石を七個だけ拾うと逃げ出した7人に投げる。7人の足に凄まじい激痛と神経に衝撃が走る。



這いずって逃げようとする七人一人一人に麻王は歩いて来ると、

「怠惰で群れることしか能のないオマエたちに奇跡は起こると思ったのか?」


倒れた一人の太ももを刺し貫き、刀身を回すと男は、

「ギャッアアアアアアアアアー!!!!!」


麻王は一切の躊躇いもなく次から次へと倒れた残り6人を刺していく。



田中は、本来、誰より麻王の強さを知っていた筈だった。だが、今はただその戦慄する惨たらしい光景を眺めているしかなかった。


全員を刺し終えると麻王は、

「逃がして欲しいのか、スキンヘッド?」


血振りをすると淡々と麻王は話す。


残り一人になった田中がドスで斬りかかると麻王はサラリと避け、田中の背中を蹴り飛ばす。



小雨が降り始めた地面の泥濘(ぬかるみ)に田中は転げる。倒れた田中の右手に切っ先が刺され、土まで刀身がめり込んでいくと凄まじいぐちゃぐちゃに歪んだ顔の田中にさらに激痛が走る。声にならない田中の悲鳴が以前の廃校舎のグラウンドに響き渡る。



激しく息を切らし泥まみれの田中は麻王をジッと見ると心の中で、

『……オレは死ぬことが怖いんじゃあなかった……ただただこの男に殺されることが怖いんだ…』


田中は恐怖と痛みのあまり排尿排便をすべて漏らす。



麻王は立ち止まると見慣れた光景だという無機質で冷めた目で仰向けになった田中の様子を見ている。田中は更なる恐怖を超えた闇を深く感じる。



雨で麻王の髪が濡れ表情は見えない。


麻王は話し出す、

「この世界に来て信頼できる人に真っ先に出逢った。そしてその人と約束した。二度と…元の世界に帰る日が来ても、命に手は掛けないと…」



深く絶対に自身のような矮小な存在には這いあがれない世界があると悟った田中は、

「ヒィィィィィィィ!!!!!!!!!!」


「……畜生のオマエたちは助けてもまた来るんだろ?戦いに二度目はない……胸に刻み永劫回帰しない地獄へ行け、終わりだ。」



田中の手から抜いた刃を再び麻王が振り下ろした瞬間、その手を青空が止める。田中はその場で失神する。



「……麻王、インターハイでバスケ部は負けたよ……僕も野球部に戻っていいかな?」


同じく雨に濡れた青空がニコリと笑顔で尋ねる。


「ここにいる者は全員死んでいるのか。」


青空の続けざまの問いに、


麻王は、

「臓器と主要な神経、動静脈は外してある。ま、それでも後30分後には確実に出血多量で死ぬけどな。」



青空は、

「貧困や稚拙な教育が人の心を蝕み病まして行く…人の心はそれほど強くないよ、麻王?この300人の命は神薙家が預かるよ。表には中々出ないがこの世界にはこういう事は日常的に存在する…」


青空は話した後に携帯で治療の手配をしている。



青空が携帯を切ると麻王は、

「……負ける相手だったか?」


青空が悔しそうにでも笑顔で話す、

「……決勝リーグでスクリーンに入っていた山本が相手の肘打ちをされて退場してね。試合続行不能でそのまま棄権。麻王にはすぐに言うべきだったけど、……麻王なら5人しかいないチームへのスクリーンの肘打ちを考え、自身が切り込む…僕もそうすべきだったが、万が一を考え、…石橋を叩き過ぎて自身で崩した…勇気がなかった…それがあまりにもショックでね…」


ヘリの音が聞こえ始めると、


麻王は、

「5人チームの弱点か…」


「だね。優也も会場に来ないと思ったらこの有り様………流石に悔しいね…」


「ウィンターカップでの優勝が楽しみだな、青空?」


「だね?…で、麻王は行くのかい?」


歌舞伎町に向かって歩いて行く麻王は、

「よく俺に気付かれずに間合いに入って来れたな。」


「そうは見えなかったけど?」


「後は頼むよ。」


「……………………。」


……そして翌日、麻王はいなくなった。


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