285 ルシオール
何も無い真っ暗な場所
だが夜だから暗い訳ではない
灯りが無いのに自分の体は鮮明に見ることができる
暗いから何も見えないのではない
俺以外何も無いから何も見えないのだ
この場所を俺は知っている
過去何度か訪れたことのあるこの場所を
初めて死んだときに訪れ、その後はContinueの度に訪れた場所を
ただ違うのは目の前に浮かぶ文字は「Continue?」ではなく「GameOver」の文字だということ
そしてもう一つ違うのは、見覚えのあるスーツ姿の男が立っているということ
「やあ久しぶり」
(・・・・・・)
「初めて会った時と状況が似てるけど、大丈夫かな?」
「・・・な・・・んで?」
「混乱してる?無理もないか」
「俺・・・死んだのか?それでContinueの回数制限に?」
「う~ん、ちょっと違うかな」
「・・・違う?」
「うん、なんていうか・・・いや~ごめんね?」
「いや、説明してくれないと分からないんだけど」
「Continueに回数制限を設けるっていうのは最初に説明したでしょ?」
「ああ」
「それとは別に君にはもう一つ制限を設けていたんだ」
「制限?」
「うん。君が今この場所にいるのはそのもう一つの制限が原因なんだ」
「・・・何だよそれ?」
「一つずつ説明していこう」
頭で考えるという行為を久しぶりに行うので自分では状況の整理ができないでいた
「まず、君に設けたContinueの回数制限について。これは回数制限というよりは一回Continueする毎にペナルティが発生すると考えてくれた方がしっくりくると思う」
「・・・・はあ」
「一回のContinueで君に課せられるペナルティは寿命10年分」
「・・・・10年?」
「うん。そして君に与えられた寿命、つまり時間は100年丁度」
「・・・・・」
「つまり実質Continueの回数制限は10回ってことになる」
「俺は今まで7回Continueしてきた。つまりその時点で70年寿命を削られているってことか」
「そういうこと」
「でも、だったら30歳までは生きられるんじゃないのか?」
「そう!問題はそこなんだ」
「つまり何なんだよ?」
「さっきも言ったけど、君に与えられたのは寿命じゃない、時間なんだ」
「・・・・・」
「だってそうだろう?そういう制限でも設けないと、君は何度もやり直して、実質永遠の時を生きることができてしまう」
「つまりどういうことだよ」
「君はLoadして時をやり直していたつもりでも、実際は君に与えられた時間をちゃんと消費していたという事だ。そして君は死んだわけでもないのに今ここに居る。つまり、君は君に与えられた100年という時間を使い切ったということだ」
「・・・・・それで俺が納得するとでも思ってんのか?」
「納得も何もそういう決まりにしちゃったからね~」
死神の軽い口調が俺の神経を逆撫でする
ずっと殺してきた感情が徐々に戻ってくるのが分かる
「・・・・だったら俺は何のために、こんなこと・・・」
「君の言いたいことは分かってるよ。でもやっぱり死神として、たかが人間一個人が神と同じ時を過ごすというのは見過ごせない」
「俺は永遠なんて興味ない!100年も生きられれば十分だ!むしろ100年も要らねえよ!」
「人の心は簡単な事で変わってしまう。君が不老不死に興味を持たないという保証はどこにもないんだよ」
「・・・・・・だからって、最初に説明位しといてくれよ・・・」
「うん、それは僕の判断ミスだ。それは謝るよ、ごめんね」
「・・・・・謝罪が欲しい訳じゃねえんだよ」
結局俺がしてきたことは
俺の苦労は全て、全くの無駄になってしまった
グラシエールから世界を守ることもできなかったし
大切な家族に別れの挨拶もできていない
俺が残せたのは
グラシエールに対する嫌がらせとして残していた最終手段
『自分の死』という結末だけだ
「僕はね、死神としてもう結構長い間世界を見てきた。君達人間からすれば途方もない時間を過ごしてきた。君が思うよりも遥かに多くの魂を導いてきた」
「・・・・だからなんだよ」
「だからこそやっぱり僕は思うんだ。命という物は儚いからこそ美しい、蛍の光のようにね。生きることを『当たり前』だと思ってはいけないんだ。生きることを当たり前だと、生きることに何も感じなくなった時、生物は簡単に自分の命を散らしてしまう」
「・・・・だから、それがなんなんだよ」
「だから君にタイムリミットを設けたんだ。君が人の理を外れないように」
「・・・・だから!なんでそれが“今”なんだよ!?結局俺は何も残せなかった!何も守れなかった!」
「そういった後悔も人の命を彩る材料になる」
「勝手な事言ってんじゃねえ!!!お前の命に対する美学かなんだか知らねえけど、最初に死んだ時も!今も!俺の命はお前に振り回されてるだけじゃないか!それで『人の命は儚い物だ』なんてよく言えるな!!」
「君が前世で過ごした30年と、君が今世で過ごした30年間。その時間は僕に振り回されたものだったかい?」
「終わり方のことを言ってんだ!!お前がしょうもないヘマをしなければ!お前がちゃんと説明していれば!こんなろくでもない終わり方にはならなかっただろうが!それを適当なこと言って誤魔化してんじゃねえよ!!!」
「ふむ・・・つまり君はまだ『死にたくない』と?」
「当たり前だろ!」
「初めて会った時とは随分変わったね君」
「あ?」
「いいよ?君にもう一度だけチャンスをあげよう」
「・・・・」
「もう一度だけ、最後に後一度だけ、人生やり直してみるかい?」
「・・・・それはルシオとしてか?それとももう一度壱から始めるってことか?」
「ルシオとして。一度だけ最後にSaveした所からやり直してみる?もちろん次からはオプションは使えない。もう二度とやり直すことはできないよ?」
答えは決まっている
だがやり直したとしてどうなる?
グラシエールを倒すことは俺には無理だ
グラシエールが世界を壊さないようにこれから先の人生全て、寝る暇も無く戦いながら過ごすのか?
そんな人生に何の意味がある?
ならば崩壊していく世界をグラシエールから逃げ回りながら生きていくのか?
それにも結局終わりは来る
ならば肩代わりしていた寿命を
グラシエール自身の寿命を少しでも削れるように
このまま死んだ方が世界の為になるんじゃないのか?
「・・・・」
「そうだ。最後のチャンスを与える代わりといっちゃあなんだけど、君に頼みがあるんだよ」
「・・・・」
「そんな怖い目をしないで聞いてくれないかな?」
「・・・・なんだよ」
「もう彼女を終わりにしてあげてほしいんだ」
「・・・・・彼女?」
「君がずっと考えている人のことだよ」
「は?」
「今はグラシエールって言うんだっけ?」
「っ!?そうだ!グラシエールも転生者だって・・・あいつもお前が転生させたのか!?」
「うん。彼女の魂を回収するときにね、僕の初めての失敗だった」
「いや、彼女ってどういうことだよ!?あいつ爺だったぞ?」
「前世では女性だったからね。君と同じように人生やり直す際にオプションを与えてあげようと思ったら要求は、『男になりたい』の一つだけだったんだよ?おかしいでしょ?」
「・・・・オプションはその一つだけ?」
ならあの無尽蔵の魔力は?
人の心を読むことのできる力は?
「いやいや君と同じで三つだよ?でも彼女欲が無かったからね、君と同じようにお勧めをいくつか紹介したのさ」
「あと二つは何だよ!?」
「魔法が使える世界だから魔力に困らないように限りなく無限に近い魔力を・・・」
「やっぱり原因はお前か!!!そのせいで俺がどれだけ苦労したと思ってんだ!?」
「おう・・・なんかゴメンね。んで色々悩んだ末に、『人の考えている事が分かるようになりたい』って言うから人の心が読めるオプションをあげたんだよ」
俺の予想は大体当たっていた
だがまさかずっと謎だった最後のオプションが『性転換してやり直したい』だったとは
「わかんねえよそんなの・・・」
「『魔女狩り』って知ってるでしょ?彼女、その被害者だったんだ。正確にはそれで命を落とした訳ではないんだけど・・・」
ごにょごにょ言葉を濁すあたりグラシエールの前世も死神のミスが原因であっさり終わってしまったのだろう
でなければ転生なんてしないだろうし
「酷い男尊女卑の時代だったみたいでね。『男に生まれるなら後はどうでもいい』なんて言ってたな~」
死神は懐かしそうに当時を思い出しているみたいだ
前世でも、グラシエールとして転生してからも
グラシエールには辛い過去があったのかもしれない
でもだからといってそれが世界を壊していい理由にはならない
「でも彼女は人としての理を外れてしまった。それは僕たち神を冒涜する行為だ」
「なら自分で始末を付けろよ・・・なんで俺が・・・」
「じゃあ君はここでおしまいだね。ご苦労様でした。もうじき魂も・・」
「うそうそ!手伝うって!・・・・でも、俺にはグラシエールを殺す事なんてできないんだぞ?」
「大丈夫。今度はきっと大丈夫だから」
「何を根拠にそんな事・・・」
「それじゃ僕も忙しいからさ、頼んだよ!」
「おい!」
俺の問いかけもそっちのけで
死神はさっさと消えてしまった
そして宙に浮かぶ「GameOver」の文字が変形していき
見覚えのある「Continue?」という文字が浮かび上がる
「・・・・・このままここに居たってしょうがないか」
_____
Continue?
►Yes/No
_____
Yesを選択すると真っ暗だった世界が真っ白な光に包まれた




