267 ラストダンジョン
ラドハルバからひとっ飛び
タナトス北端にある不思議な塔へとやって来た
(さて・・・)
とりあえず未だ透明な結界は張られたままなのかを確認する為に『ストーンボール』を塔目掛けて放つ
すると「カンッ」と乾いた音を立て、塔の手前で『ストーンボール』は弾かれた
(結界は変わらずと・・・)
相変わらず透明な結界は健在なようだ
過去どれだけ思い切り魔法をぶつけてみても
結界に触れてレジストしようとしてみても
穴を掘って塔の下から近づこうとしても
それら全てを拒んで見せた超強力な結界
おまけに無色透明なので何処に張られているかがわかりにくく非常に鬱陶しい
(これもリアン達が作った物なのかね?・・・まぁ鏡海を創っちゃうくらいだからこのくらい簡単なんだろうけどさ)
目の前の結界が非常に強力だとは言っても、鏡海と比べると規模も性能も何もかもが劣るだろう
塔一つを丸々包む程度の結界なら簡単に実現できてしまうのかもしれない
(やっぱすげえな過去の偉人は)
リアンとイアンは『心透の神子』というもので、人の心を覗くことができたらしいが
本当に凄いのはそんな所ではない
俺のようにオプションの力があり、且つ前世の記憶から魔法を創造しやすいなんてこともなかっただろう
だというのに「鏡海」や、それを破壊するための大筒、そして状態異常無効且つ魔力自動回復の効果を持つ指輪なんかも作っている
現代にもそんな天才いないだろう
まさにロストテクノロジーだ
リアンとイアンが現代に居てくれれば、現代の文明にももっと便利な物が増えていたかもしれないので非常に勿体ない
とは言っても、便利な物が増えてしまうと人は堕落する
それに使い方によっては簡単に人を殺めることができてしまうような道具が蔓延するのもよくない
過ぎた技術は身を滅ぼす危険も付きまとうだろう
(さて、頼むぞリアン)
左手の小指に嵌めた指輪を見て、塔へと足を進めた
ある程度近づいたところから、手を前に突き出す
こうしないと、もしリアンの指輪を持っていても関係なかった場合、透明な結界にいきなりぶつかることになる
初めてこの塔を見つけた時、空から近づこうとしていきなり結界にぶつかり、危うく死にかけるという思いをした
ゆっくり歩いているとはいえあんな思いはもう二度と御免だ
「お?・・・おぉ!?」
歩みを進めても、突き出した手に結界が触れる感触が一向に訪れない
「おお!」
そしてあっさり塔の入り口へと到達することができた
(やっぱ凄え!リアン!)
過去の天才に感謝しながら塔の入り口の扉に手を掛ける
外側に閂がされている両開きの扉だ、木製なのでそこまで重くもないだろう
もし鍵が付いていたり反対側にも閂があったとしても壊すことができるはずだ
と思ったが、外側の閂を外すとあっさり扉は開いた
(さてさて、何があるかな?)
今までも何度か遺跡を探索したことはある
だが塔を探索し昇っていくのは初めてなのでワクワクしていた
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「いや、わかってた・・・わかってたんだよ」
塔の探索もかなり終盤に差し掛かり、そろそろ最上階に辿り着く頃だろう
だというのに何一つ得る物はなかった
「そりゃ遺跡を見つけて探索した時だってさ、別にゲームみたいに宝箱があちこちに置かれてる訳じゃないしさ、今までだって何にもなかったけどさ・・・」
塔にあるのは空き部屋ばかりだ
おまけに道具や荷物なんかも無く、建設直後のマンションのように閑散としていた
一応一階には食堂のような広い部屋や調理場なんかもあったので、管理する人の為に用意された部屋なのだと思うが
きれいさっぱり引き払ったのか、そもそも最初から人が住むことがなかったのか
「これじゃただの廃墟探検だよ・・・」
ウェルクシュタットの炭鉱に入った時も
フロール達と行った砂漠にある王家の墓も
アヴァングラース北部の雪原地帯にあったいくつかの遺跡も
ゲームでダンジョンに入った時のようなワクワクはことごとく裏切られてきた
得る物があったのは王家の墓くらいだろうか
だがそこで見つけた宝剣はフロールに渡したし、リアンの指輪はイベントクリア報酬のような物だ
もっともそのクリア報酬が非常に大きいのだが、ダンジョンで手に入れたお宝というのとはちょっと違う
「ダンジョンに入ったらいくつか宝箱があってもいいじゃん・・・」
無音が続き寂しくなったからか独り言が増えた
それなりに塔の探索に時間がかかっているのと、宝箱が一つも無い事に愚痴が止まらない
「やっぱゲームと現実は違うなぁ・・・」
一人ブツブツと小言を言いながら更に上を目指した
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「おっ!?」
塔の上層で一箇所だけ他とは明らかに違う豪華な扉を見つけた
「別に期待はしてねえけど・・・」
そう思いながらも心の何処かでは少しだけ期待する自分がいる
「ん?・・おお」
扉を開けるとそこには見覚えのある物があった
「ビルが言ってたやつか」
そこにあったのは鏡海を壊すために使った大筒
ビルが守っていた物とほぼ同じ物だった
「今触ったらどうなるんだろ?」
鏡海を壊した時のように大筒からレーザーが出るのだろうか?
「やめとこう」
今はもう鏡海が無いので壊すものもないし、危険なだけなので試す必要はないだろう
「ん?」
とりあえず大筒は後回しにして部屋から出ようとした時
部屋全体に少しだけ違和感を感じた
「床の色か?」
今まで散々見てきた部屋とは違い、この部屋の床は少し黒くくすんでいる
熱で焦げた跡のようにも見えるが、大筒の周辺だけは黒くなっておらず綺麗なままだ
それに木製の扉は残っているのでこの部屋だけ火事になったとは違う気もする
「そういえばこの部屋だけ床に塵が溜まって無いな・・・」
他の部屋はずっと使われていないせいか足跡が残るくらい床に塵が積もっていた
それなのにこの大筒のある部屋だけは床に塵がほとんど積もって無く、綺麗な状態だ
「誰かが出入りしてる?いや、まさかな・・・それだけ特別な部屋ってことか?」
ここもおそらくリアン達の残した物だ
部屋を綺麗に保つ何かがあっても不思議じゃない
「大筒以外は何も無いみたいだし、とっとと探索を終わらすか」
この部屋が気にはなるが、おそらく後一階か二階で塔の最上階だ
まずは一通り全て見終わってから考えよう
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「ここで最後かな?」
上へと続く階段も終わり、最後に一つ大きな扉が現れた
ここがきっと最上階だろう
「さてさて、最上階にはダンジョンのボスがいるのかな~・・っと!」
扉を勢いよく開ける
扉の向こうには広い大きな部屋があり、奥には玉座のように豪華な椅子があった
そしてそこには何かが座っている
「っ!?」
塔の最上階にボスが居るなんて期待もほんの小さなものだった
なので塔の探索で初めて人型の物を目撃したことで心臓が飛び出そうなくらい驚いた
(び、びっくりした・・・ミイラか?)
頬杖をついて椅子に座っている者のその腕は、骨と皮だけのようで、まるでミイラのように細い
(・・・・・じゃない!)
だが目を凝らしよく見てみると、ミイラではなく生きている人間で
その者もちゃんとこちらを見ていた
ミイラに見える程痩せこけた老人だ
(あいつが北の大賢者?・・・まさか、実在したのか?)
俺は驚きと警戒心から一歩も動くことができず
扉に手を掛けた状態のまま数秒間固まっていた
相手も頬杖をつき、椅子に座ったまま動かない
死んでいるのかとも思ったが、その目は完全に俺を見ている
(あれ?・・・あいつ何処かで・・・)
椅子に座る者の顔に既視感があった
(あ!・・・あいつ、確か・・・)
『随分早かったじゃないか。いや、君の場合遅すぎるくらいなのかな?』
「っ!?」
一瞬ミイラだと思った者が喋りだしまた驚いてしまう
だが俺はこいつの事を知っていた
『あんた・・・クレアの村の村長じゃないか?』
初めてクレア達と出会い、ウヴァリを倒して村の娘達を救った日
お礼にと村長の家で一晩泊めてもらったことがある
その時に会った名も無き村の村長、ヨボヨボの爺さんが目の前に座っていた
『あんたが・・・北の大賢者?』
『北の大賢者か・・・そう呼ぶ者も確かにいるようだが』
『あんた何者だ?』
『その答えを既に君は知っているよ』
老人の言葉に一つの名前が頭に浮かぶ
『・・・正解だ』
老人は不気味な笑みを浮かべた




