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15話

 一方的にそう告げると輝一は2人から離れて帰路についた。


「何なのよ、あの言い方は……華怜?」


 失礼な輝一の言葉に巴は憤慨し華怜に同意を求めたが華怜はそれどころではなかった。


 輝一の去り際の言葉は華怜が文章にして巴にサイトに上げてもらっていないモモが華怜に告げた別れの言葉とほぼ一致していた。


 それをただの偶然と考えるのは簡単だが、わざわざ悪印象を持たれかねない言葉で去る必要性は輝一には無いだろう。


 そこまで考えた華怜は突拍子の無い仮説が頭をよぎった。


 あの忠告は自分を魔法少女と知ってのものだったのでは、という内容である。


 日常を外れた事に関わったなら、ではなく関わるならと輝一は口にした。


 そして一般的に考えれば夜遊びは程々になどお嬢様学校の2人に注意が必要な内容とは思えない――にも関わらず、輝一はそれを口にした。


 そこまで考えると目の前にいた先ほどの少年は本当に最上輝一だったのだろうかという疑問にたどり着く。


 華怜も巴も最上輝一の事は一方的に知っていたが、直接の面識は先ほど出来たばかりである。多少姿を似せただけでも知り合いではないのだから騙すことは難しくはないだろう。


 そして華怜が魔法少女だと知られているならば既に罰則が与えられていても不思議では無い。


 それが無いなら輝一は魔法少女の事を知らない一般人でただ思わせぶりな内容の忠告をしただけか――輝一が魔法少女という事以外に考えられない。


 そして輝一本人が魔法少女である事は流石にあり得ないと思った華怜は誰かが魔法で姿を変えて自分に忠告に来たと考えた。


 そこまでして新人の華怜に忠告をくれそうな魔法少女など1人しか思いつかなかった。だから、華怜は輝一の事を呼び止めようとしたが隣には巴という一般人がいる。


 その状態で魔法少女の話をすることは出来ないし、勘違いであれば華怜は魔法少女の資格を失う――その為、もしかしてと思いつつも華怜は呼び止める事が出来ず輝一の姿が見えなくなるまで見送る事しか出来なかった。


 モヤモヤする気持ちを押し殺して巴と別れ、いつの間に華怜は寮の自室に辿りついていた――道中の記憶があまりないのはずっとモモの事が頭から離れなかったからだった。


 魔法少女には正体がばれてはならないというルールがある以上、モモにそっくりという少女、百瀬由梨が魔法少女モモである可能性は無い。


 最上輝一という少年は名前のルール上魔法少女モモを名乗る事は可能だが、何年も性別を偽り続けて今まで一度も疑われないという事が可能とは華怜には思えなかった。


 やはり彼の姿を借りてモモが自分に忠告してくれたと考えるのが妥当なのだろう――その結論へは部屋につくまでに何度もたどり着き、その都度反証を思いつく限り探すがもう出尽くしたのか思いつくものは無く華怜は少しへこんだ。


 例えモモに名乗り出るつもりが無かったのだとしても別人の姿を借りて現れる必要は無かった筈だった。


 そうしなかったという事はモモには例え魔法少女が相手でも正体を明かすリスクを冒すつもりはなかった――日常側で顔見知りになる必要性を感じていないという事だろう。


 それが互いの秘密を守る最善な方法である事は疑いようが無いのだが、モモの役に立ちたいと願う華怜としてはいきなり高い壁で阻まれた気分となってしまった。


『どうしたレン、少し気が沈んでいるようだが?』


 天井に張り付いていた『降りたモノ』が華怜の様子がおかしい事に気づいたらしく声をかけてきた。


「何でもない、今日の夜から魔法少女として戦う事が今更少し不安なだけ」

『ふむ、初陣などどれくらい昔か思い出せないが――負ければ死ぬだけと思えば気が楽になるのではないか?』

「フフ、何それ」


 咄嗟に取り繕った嘘をついた華怜だったが『降りたモノ』はそれを真に受けて戦士の心構えを華怜に説き、気遣いから出た言葉だとしても随分突飛に聞こえる内容に思わず笑ってしまった。


 そして、華怜は右手を握りしめてもう一度開くとそこには魔法少女の証でもある宝石が現れた。


「モモさんは何年も前に済ませているのだもの、こんなところで足踏みしている場合じゃないわ」


 そして華怜は夕食の後に部屋を抜け出した。


 魔法少女レンとして初陣に挑むために。


 時刻は6時半を過ぎてまだ空には赤い色が少し滲んでいる頃、既に魔法少女の服に着替えて道を無視して屋根伝いに移動していた。


 彼女の服装は端的に言ってしまえば紺色の燕尾服である――男装を身に纏わなければならない事に少し思う所はあったが、これなら万が一にも服装から正体を探られる事は無いと自分に言い聞かせてそこは諦めたレンである。


 だが、翼を広げた蝙蝠のような意匠のマスクをつけなければならない事には難色を示した――可愛くな……似合わない、と抗弁し視界が狭まるのは危険とも主張した。


 しかし『降りたモノ』は自分の能力を最大限生かせる装備をするべきだと主張し――視界が狭まらなければ良いのだな? とレンから言質を取り視界は仮面越しでもレンの側からは何も遮らない様に調整し暗視能力も与えられて渋々付けることにした。


 そうして準備を終えて移動を開始したレンは普段通りに過ごした昼間では気づかなかった魔法少女に変身したことで得た身体能力を実感する事になった。


 住宅街の屋根から屋根へ、例え道路を挟んだとしても助走をつければ全く問題なく届いてしまうのだ――向上した力は常時の数倍で済むのだろうかと疑問に思い少し怖く思いながら屋根を踏み抜いて壊してしまわない様、確実に梁のある屋根の最も高い場所を狙って走りながら確認していた。


 自分の向上した身体能力と修めた武術を合わせればそうたやすく後れを取る事は無いのではないか、と少し自信をつけた頃にようやくデモニアの存在を感知した。


 場所は何の因果かレンがデモニアに襲われたアーケード街である。


 リベンジといきますか、とレンは付近にあったコンビニの屋根に飛び移ると手を前に出して目を閉じ――微かな光と共に一振りのサーベルが抜き身で現れた。


 刃渡りは80センチメートル程で刀身は日本刀に酷似しており、旧日本軍が採用していた日本刀仕込みのサーベルを思わせる。


 柄の部分には護拳と呼ばれる枠状の鍔がある以外装飾らしいものはなく非常にシンプルな得物であった。


 レンは現れたサーベルを手に一度深呼吸をしてから『降りたモノ』から教わった戦場への入り方をもう一度思い返す。


 ――戦う事を決意し世界が重なり合った境界線を越えればあとは勝手に入れる。


 随分とざっくりした説明だとレンは思ったが『魔法少女になったならばそれは本能レベルの行動として獲得する能力でこれ以上説明のしようが無い』と言われれば本能レベルで刷り込まれた事が恐ろしいが納得するしかなかった。


 覚悟を決めてアーケード街に向けてレンは駆け出し、弾性のある何かに触れたような感触と共に辺りが暗くなり音が途絶えた事を認識し、レンは足を止めた。


 急に街中が暗くなったように感じたのは街灯や窓から明かりが消え、静寂に包まれたのは帰宅の時間帯にも関わらず車が全く走っていないからである。


 この世界の事を鏡界と教わった際にモモが何と称していたかをレンは思い出し、巻き込まれて守ってもらっただけの時とは違い実感からか無意識に唾を飲みこんでいた。


 安全な場所からわざわざ命の危険な場所に自ら足を踏み入れてしまった――守られる者から守る者へと変わる、ここはまさしく境界である。


 踏み越えてしまった以上、後戻りはもう出来ない――自分の決断とその責任に今更震えそうになる足をレンは一度叩き気合を入れ直し一歩を踏み出した。


 周囲を警戒し少しずつ音を立てないように移動する自分の足音のみが響く世界でレンは『降りたモノ』に感謝していた。


 もしも助言を聞かず仮面をする事をしなかった場合は今レンの見ている雨が降る直前の曇り空程度という視界も確保出来なかった筈であり、そうなれば手も足も出ずに一度撤退するしか方法が無かった。


 後は根気と度胸でデモニアを探して討つだけなのだが肝心のデモニアが見つからない。


 視界に特に何かがあるわけでもなければ音だって自分の足音位しか聞こえてこない――探索開始早々に戦闘があると思っていただけにレンは少し焦れてきた。


『微かな力はあるが、特に動きが見られんな』


 仮面と一体化して同行する『降りたモノ』がその焦りを察しデモニアにばれない様、テレパシーで自分の得た情報を伝えてくる。


『気づいていない、という可能性もあるが罠という場合もある』


 その様に前置きして注意を促してから『降りたモノ』は感知した気配のもとにレンを誘導したが、そこはただの調剤薬局で入り口はガラス張りで外から中が良く見えていた。


 しかし、特に変わった様子は見られない――レンは意を決して中に入ってみたが特に品物が散乱している様子もなくカウンターの裏側やお手洗いの個室も調べてみたがやはり何も見当たらない。


『間違いなく反応はある、だが変化がない』


 何もない事を確認し少し緊張がゆるんだレンは息をつき、『降りたモノ』は一層不審そうである。


 一度外に出たレンは薬局の隣にある全国展開しているコーヒーショップにも反応があるとの事で踏み込むがまたしても姿が見当たらない。


 道路を挟んだ向かい側のラーメン店も調べてみるがそこでも結局発見は出来なかった。


「罠ってことはないの?」

『解らないな、私も魔法少女と共に戦うのはこれが初めてだからな』


 鏡界に突入してから場所を探られる事を警戒して口を開かなかったレンはここで初めて口を開き『降りたモノ』もその意図を尊重して声を出す。


 わざと声を出して自分の位置を知らせようとしたのだ。


 しかし、警戒しながらレン達は少しの間店内で待つが何も起こらない。


「……本当にデモニアは居るの?」

『この防衛機能が働いているという事は居るのは間違いない』


 そもそもいないという可能性をレンは疑い始めたがその点に関しては『降りたモノ』がきっぱりと否定してレン達は店の外に出て次の反応を調べに向かった。


 パチンコ店の扉は自動ドアが閉まっていたので人力で開けて調べようとしたのだが、レンの人生で初めて中を覗いた店は予想以上に広く、死角も多い店内で襲撃される危険性から探索を避けた。


 コンビニにも反応があったが店内の陳列棚の配置が狭く、満足に武器を振るえない可能性からここも探索を避け、同様の理由で書店も探索しなかった。


 それでも両手の指以上の数の店を調べたレンはいい加減緊張し続けるのも限界に達しつつあった。


『レン! 来るぞ!』

「――! 何処から!」


 何か重大な見落としがあるのではないか、と互いに頭を悩ませながらまた1つ居酒屋を探索し終えた時にそれは起こった。


 微かな力がうっすらと漂っていた状況から急に力が活性化した事に『降りたモノ』は即座に警告をしてレンは右手でサーベルを構えた。


『お手洗いからだ!』

「そこは調べたでしょう!」

『そんな事より現実を優先しろ!』

次回、レンの初戦闘です。

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