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68話 魔王は異世界から来た嫁を愛してやまない

 

 バルドさんのエスコートで城内の一角に設けられた王室行事にのみ使われる礼拝堂前へたどり着いた。

 重厚な扉の内側には沢山のゲストが待っている…と考えただけで私の緊張はピークに達していた。


「コトネちゃん、人がいっぱいで緊張しちゃうと思うけど、まわりを見るのではなくてじっとイザークの瞳を見つめていればきっと平気よ?さぁ、イザークが待っているわよ!」


 ベールダウンをしてもらっている間にエーリアルさんは私を落ち着かせるよう柔らかなトーンでこう声をかけてくれた。


 静かに頷き扉に向き直るとゆっくりと扉が開く。

 柔らかなキャンドルの灯が溢れる室内はベール越しに見るとまるで白く霧がかかったように見え、この美しい景色は夢の中にいるような錯覚を思わせた。


 大理石でできた床の先には正装に身を包んだイザークが愛おしそうな瞳で私を見つめている。

 エーリアルさんに言われたとおりイザークの瞳を見つめ返した。

 あまりの愛おしさに、きっとバルドさんの腕に捕まっていなかったら私は一目散にその胸へ飛び込んでしまっていただろう。


 両サイドには数千人の招待客が私達を見守っているが恥ずかしがらずに顔をあげてまっすぐバルドさんのエスコートで一歩ずつ、ゆっくりとイザークの元へ歩んで行く。


 距離にして約50メートル、そんなに長い距離ではないのに果てしなく長い道程に感じた。

 ようやくイザークの前にたどり着くと私の手がバルドさんからイザークへと渡された。

 緊張から少し震えた私の手を掴むと、イザークはぎゅっと握り小さな声で「一段と美しいね」と言って私を落ち着かせてくれた。私も手を握り返すと二人で祭壇に立ち賢者からの言葉を待つ。


 イザークと両手を握り互いに見つめ合いながら賢者の有難いお言葉をいただいた。

 キリスト教の結婚式のような誓いの言葉はなく、ベールがイザークの手によって上げられると私達は種族が異なるの為、イザークの血液を受け入れる儀式が行われる。


 イザークが賢者からフルートグラスと細く長い剣先をもつ短剣を受けとると、右の手でぐっと短剣を握りグラスの中には血液が滴り落ちる。イザークが短剣とグラスを賢者へ渡すと私は急いで癒しの魔法を使い、イザークの手の傷を治す。


 グラスの中には聖水が入れられ、賢者がそのグラスに手をかざすと血液と混じった聖水の底からはシャンパンのような細かい泡が吹き出した。

 グラスを受けとると一度息を整え、ゆっくりとグラスに口をつけてそのまま喉に流し込んだ。

 舌先に弾ける気泡を感じただけでイザークの血液と共に聖水はじんわりと温かみを帯びながら私の体内に染み渡る。


 グラスを返却すると今度は賢者が私の額に手をかざし呪文を唱えると、かざされた手からは白い光が発生したちまち私の体を包み込むと光は私の胸元へあつまり吸収されるように消えていった。

 本当にこれで私の寿命はイザークと同じになったのだろうか?私の見た目に変化はないけれど、ほんのりと心臓が暖かい不思議な感じがする。



「ここに、晴れてお二人が夫婦となられたことを証明いたします!」



 高らかに宣言が行われると、わっと大きな拍手が起こった!

 拍手は礼拝堂の壁に、天井にはね返りこだまして長く響いた。


 そして、どこからともなくバラの花びらが降り注ぎ礼拝堂の中には美しい光景が広がる。

 ふと、目が合ったエーリアルさんがてへっ☆とした表情をこちらに見せたのできっとエーリアルさんと聖霊の仕業なのだろう。


 両手を繋いだままイザークの顔が近づき、幸せの絶頂の中で私達は誓いのキスを行った。



 私は緊張からなのか幸せすぎてなのか頭がクラクラしてしまってイザークの腕に手を回し礼拝堂を退場し外に出たとたん、ぷつんと緊張の糸が切れ感極まって大粒の涙を流しアンナを驚かせてしまった。

 慌ててアンナが白いハンカチで私の目元を拭い励ましてくれる。


「コトネ様、最高でしたわ!でもまだパレードもありますから感動の涙はもう少し我慢してください」


「アンナ、ありがとう。まってね…もう少しで止まるからっ」


 ぐっと目をつぶって上を向き、ふうっと息を吐き気持ちを落ち着かせなんとか涙は止まりそうになった…。


「コトネ・クラストフ」


「はっ…はいっ!」


「俺のところに嫁に来てくれて、ありがとうな」


「イザーク…っ」


 せっかく止めようと努力した涙がまた溢れてくる!そんな私の頭をなでながら「俺の嫁は泣き虫だな」とイザークが笑ったので「今日は特別よ!」と目元を拭いて笑って見せた。


「さぁ、お二人とも感動のところ申し訳ございませんがスケジュールは分刻みです。パレードの馬車へどうぞ」


 私達を待っていたケヴィンが申し訳なさそうに、しかし急ぎながら迎えに来てくれた。アンナに手伝ってもらいドレスを汚さないように移動すると天井のないパレード用の馬車に乗り込んだ。


 私達の後ろには、首にリボンを巻きおめかししたアマロとアサヒも一緒にパレードルートを歩くのだ。

 二匹とも誇らしげな顔をして興奮した様子だ。

 無理もない、城門の外にはこのパレードを見るために何万という国民が待っているというのだから。

 ケヴィンが教えてくれたのだけれど、あまりにも人が集まりすぎて急遽パレードルートを延長したらしい。


「パレードは式とは違った意味で緊張するわね」


「皆コトネを楽しみにしてるんだ。笑顔で手を振ってやれよ。そういえば、魔界で今一番流行りの子供の名前が何だか知ってるか?」


「え?何かしら…?分からないわ」


「女児の名前で一番人気は"コトネ"だそうだ」


「ええっ!?本当に!?…それじゃあよりしっかりしないと!!」


「いつものままのコトネで大丈夫だよ」


 ゆっくりと馬車が出発し城門を抜けると今まで見たことのない景色に私は驚き息を飲んだ!


 沿道には視界に収まりきらないほどの人が押し寄せ、人々は手にバラを持ちそれが私からはまるで一面色とりどりのバラの花畑のように見えた。

 イザークが耳元でこっそりと「コトネがバラの花が好きだって聞いた国民が自主的に行ったらしいぞ」こう教えてくれた。


 子供からご老人まで沢山の人々がバラを私に向け手を振ってくれ、あちこちから「おめでとうございます!」と祝福の声があがっている。

 私がぎこちなく手を振り返すと喜んでくれ、より笑顔が溢れる。


 私は以前、イザークに言われた言葉を思い出していた。本当に異世界から来た私が妃になることを国民が望んでいるのかと不安を口にした時に"俺とコトネとの結婚はいずれ皆に理解してもらえると思ってる"と言ってくれた。

 今、この沿道の人だかりを見てイザークの言っていた"いずれ"がすでに来ていて、国民が私を歓迎してくれている!そう身体中で感じた。


 嬉しくて懸命に国民に手を振り返した!何度も手を振るうちにぎこちなさも消えていった。


「イザーク、私幸せよ。これ以上にないほどに!」


「ああ、俺もだ。まぁコトネが国民に受け入れられるのは予想していたけどな。何て言っても俺が見初めた女性なんだからな」


 自信ありげな表情でイザークは笑う。最近は慣れなのか以前のように照れる事は少なくなってきたけれど、こうもストレートに言われるとやっぱり照れて顔が熱くなる。




 私達にはこれから何百年という長い時間が待っている。


 国民の前で未来永劫に誓おう。喜びも苦しみもどんな困難も全て分かち合うことを。

 この手を絶対に離さないことを。


 そして、永遠に───愛することを。



「イザーク、愛してるわ」


「俺もコトネを愛してやまないよ」



 喜びに唇を合わせると沿道からはより大きな祝福の声があがった。




ここまで読んでいただきありがとうございました。ブックマーク、評価、感想等のおかげで勇気づけられここまで書けました。


この小説は私がはじめて投稿した小説なので思い入れがとっても強いです。この小説は完全な自己満足です!が、ここまで書けて本当に嬉しいです!

これからもこのキャラクター達の事を可愛がりたいのですが、ひとまずコトネが嫁になったので完結とさせていただきます。

ありがとうございました。

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