第一話 サラとアカデミー
◇◇◇◇
婚約者を選抜する大会が終わって、一週間が過ぎたある日のこと。
サラとジーン、そしてナオミの3人は、未だファルコナー邸に滞在していた。
そんな3人は現在、王都の郊外へ出かけていた。
時刻は昼過ぎで、太陽が燦々と輝いている。
「うーん、やっぱりこの空気は懐かしいですね!」
眼前の建物を見上げて、サラが笑みを浮かべた。
筋肉痛もすっかり癒えて、溌剌としたサラである。
「なんちゅーデカい建物だ……」
サラに続けてジーンが零した。
「まるでお城です……」
消え入りそうな声で、ナオミが続けた。
3人の前にそびえ立つのは、石造りの建造物である。
草原の中にある建物は5階建てで、中心を通行できるように、内部がくり抜かれている。
そんな建物から左右に伸びるように、高い塀がどこまでも続いていた。
「こんな物で驚いてはいけません」
ジーンとナオミに向き直り、サラが言った。
「この建物は、いわば門のような物です。もちろん、研究室の一部も入っていますが」
「一部ってことは、これ以外にもあるのか?」
サラの言葉にジーンが聞く。
「もちろん!」
サラが答える。
「塀の向こうにある建物は合計で10棟。ほとんどがこれと同じか、それ以上の大きさですよ」
「……いや、もうこれほとんど城塞だろ」
「町がもう一つあるみたいです」
サラの解説に、ジーンとナオミが続く。
「ふふん」
感心するジーンとナオミに、鼻高々のサラであった。
「おっといけない」
我に返って、サラが居住まいを正した。
「ようこそ、我がアカデミーへ! お2人とも歓迎します!」
「お、おう」
「よろしくお願いします……」
サラに招かれて、ジーンとナオミが歩みを進めた。
ここは王立アカデミー。
かつてサラが学んだ学舎である。
事の発端は、2日前のファルコナー邸に遡る。
その日の晩のこと。
ようやく動けるようになったサラが、ゴソゴソと荷造りを始めていた。
「おーいサラ、飯だぞ……って、何やってるんだ?」
ジーンがやって来て、首を傾げた。
「『何』って、荷造りですが?」
聞き返すサラ。
「え? もう外界に帰るのか?」
要領を得ないジーンである。
「違います」
「じゃあ、何してるんだよ?」
「アカデミーに行くのですよ」
「……ああ、何かそんなこと言ってたな」
サラの返答に、ジーンが数日前を思い出す。
筋肉痛に悶えながら、サラは「アカデミーに顔を出さねば」と言っていた。
「でもよー、一体何の用事なんだ?」
重ねて聞くジーン。
「論文発表会があるのですよ」
鞄を閉めて、サラが答えた。
「論文? 前にお前が書いてたやつ?」
「ええ。これが終わって、やっと博士になれます」
「うん? でも、提出したとか言ってたじゃん?」
「審査を兼ねた発表会があって、それを通過して初めて認められるのです」
ジーンの疑問に、答えていくサラである。
「ふーん、大変だな。それはそうと、飯が覚めちまうぞ」
ジーンが言って、サラに背中を向けた。
「何を他人事のように言っているのです?」
「え?」
サラの問いかけに、ジーンが足を止めた。
「貴方も行くのですよ」
「何で?」
「貴方だけではなく、ナオミも同行させましょう」
「だから何でだよ?」
サラの主張に、食い下がるジーン。
「一言で言うと、ボディガードですね」
「いやいや。もう必要ねーだろ」
サラの言い分に、ジーンが首を横に振る。
「……」
「な、何だよ……」
ジト目で睨むサラに、タジタジになるジーンである。
「先日の件、もうお忘れですか?」
「あ、あれは、そのだな……」
サラの追及に、ジーンが口ごもる。
サラがロードナイト家の刺客に狙われた際である。
ジーンは「大丈夫」と太鼓判を押した。
結果として、その判断は誤りであったが、一件は長い尾を引いていた。
「そういう訳で、私は貴方の腕は別として、楽観的な態度は信用しないと決めたのです」
「えーっと、なんでナオミまで――」
「1人にさせるのが不安だからです。何か異論は?」
「……ありません」
サラの押しに、ジーンが負けた。
こうして、3人のアカデミー行きが決まったのである。




