表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/119

第十一話 経緯と解明

◇◇◇◇


 それから一月後。

 外界の平原に、三人は出かけていた。

 周囲も落ち着いて、ようやく日常が戻った頃である。

 ちなみに、今回追い求める獲物は、火蜥蜴サラマンダーであった。


「ほら! 腰が引けていますよ!」

「はい!」

「相手から目を離さない!」

「はい!」


 サラの声援を受け、ナオミが戦っていた。

 相手は全長四メートルほどの、亜成体の火蜥蜴サラマンダーである。


「さあ、来い!」 


 牛頭人ミノタウロスの甲冑を付けて、ナオミが火蜥蜴サラマンダーに向かった。

 元々の体格が近いせいで、ほとんど牛頭人ミノタウロスを着ている状態である。

 もちろん、皮は硬化処理をしているし、所々に金属の補強が入っている。

 ただ、角をあしらったヘルムを付けているせいで、ちょっと見ただけでは牛頭人ミノタウロスその物であった。


『フシューッ!』


 火蜥蜴サラマンダーが歯を剥いた。


「むっ!」


 ナオミが身構える。


「大丈夫です!」


 サラの叱咤である。


火蜥蜴サラマンダー吐息ブレスを吐きません! 直接噛まれるか、首元の毒腺に気を付ければよろしい!」

「分かりました!」

「そいつらは大きいだけで、所詮トカゲなのです! 要するに持久力スタミナが無い。持久戦に持ち込めば、必ず勝機があります!」

「はいっ!」


 ナオミが答えた直後、火蜥蜴サラマンダーが後ろを向いた。

 鞭のような尻尾が、ナオミを襲う。


「危ないっ!」

「……いや、大丈夫だろ」


 サラが言って、ジーンが否定した。


 果たして、ジーンの指摘通りである。 

 火蜥蜴サラマンダーが背中を見せた時、ナオミは逆に距離を取っていた。

 そのおかげで、尻尾は空を切るに終わった。


『シャーッ!』


 当てが外れて、火蜥蜴サラマンダーがナオミに向き直った時――。


「えいっ!」


 ナオミの薙刀グレイブが、火蜥蜴サラマンダーを捉えた。


『ガアッ……!』


 首を両断されて、火蜥蜴サラマンダーが動かなくなる。


「お見事です」

「あ、ありがとうございます」


 サラの拍手に、ナオミが頭を下げた。


「上手い具合に、毒腺を斬り飛ばしている。せっかくですから、このまま解体してしまいましょう。ジーン!」

「へいへい」


 サラに促され、ジーンが剣を抜いた。


「はい、そこ。ちゃんと皮を剥いで」

「はいよ」

「ああ、もう! 腹膜を傷つけない! 内蔵に当たるでしょうが!」

「分かった分かった」


 サラの指示に辟易しながら、ジーンが火蜥蜴サラマンダーをバラしていく――。



◇◇◇◇

 

 バラバラの火蜥蜴サラマンダーを背負って、三人が帰路に着いた。

 その途中である。


「あっ!」


 ナオミが足を止めた。


「どうしました?」


 サラが聞く。


「この辺りなんです」


 言って、ナオミが森向こうを指さした。


「私が捕まった場所が、ちょうどこの辺りなんです。ここを奥へ行くと、ちょっとした広場があるんですけど、そこでトラバサミに挟まれちゃって――」

「ああっ!」


 ナオミの途中で、ジーンが遮った。

 ジーンの横にいるサラにしても、何やら思惑ありげである。


「ジーンさん? サラさん?」


 ナオミが首を傾げる。


「悪ぃな。先に行っててくれないか? ちょっと、こいつと野暮用思い出したんだわ」

「……? 分かりました」


 ジーンの言葉を受けて、ナオミが先に町へと向かった。



「……なあ。思い出したんだけど――」


 ナオミが去ったのを見届けて、ジーンが続けた。


「俺たちが豚巨人オークを仕留めたのって、確かこの辺りだよな?」


 ジーンが言うのは、魔物恐怖症を克服した時の、最初の猟である。

 確かにその場所は、ここから目と鼻の先であった。


「ええ」


 サラが頷いた。


「あの時に使ったトラバサミ、全部回収しきれたっけ?」

「……」


 ジーンの追及に、押し黙るサラ。


「ついでに、もう一つ」


 サラを置いて、ジーンが続ける。


「俺が殺したあの商人、どうも北からやって来たらしいんだ。それでな、俺がぶっ殺した時、確かあいつ牛頭人ミノタウロスは連れて来たけど、途中で逃がしたって言ったんだよ」

「……」


 サラは黙り込んだままである。


 風がビューッと吹いて、葉擦れの音が鳴った。

 二人とも何も言わないまま、時間だけが過ぎていく。


 そして、五分ほど経った時である。


「……ジーン」


 サラが沈黙を破った。


「このことはナオミには」

「ああ、分かってる」


 サラとジーンが合意した。


 ナオミが捕まった原因は、サラの回収し損ねたトラバサミにあった。

 牛頭人ミノタウロスが突然現れたのも、そしておそらく、それに追われて人狼ウェアウルフがやって来たのも、元を正せばサラの責任である。

 もっとも、サラもジーンも、ナオミに打ち明ける勇気はない。


「さ、とっとと帰ろうぜ。今日のお祈りが残ってる」


 ジーンが言って、歩き始めた。


「ちょっと」


 サラが呼び止める。


「貴方、受傷して何日経ちました?」

「え? えーっと、四十日くらいだな。それがどうした?」


 サラの質問に、ジーンが聞き返した。


「でしたら、もう大丈夫ですよ」

「え?」

「潜伏期間は過ぎてます。貴方は病気ではない」

「マジか?」

「マジです」

「やったー!」


 サラの言葉に、ジーンが笑みを浮かべた。


「そもそも――」

「お祈りが通じたんだな!」


 言いかけたサラを、ジーンが遮った。


「ハァ……」

「どうした?」


 呆れるサラに、ジーンが首を傾げた。


「いいえ、何でもありません」

「そっか。だったら早く行こうぜ。ナオミ一人だと、あのトカゲ買い叩かれるかもしれねーぞ」 


 二人が揃って、ナオミを追いかけた。



 新しい仲間を加えて、サラたちの冒険は、まだまだ始まったばかりである。



                                         了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=21128584&si script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ