マジックバトルトーナメントの閉会にて
「それではこれより、表彰式を始めたいと思います! 皆様、少しの間お待ちください」
女性審判がマイクで声を張り上げるも、それでもかき消されそうなほど場内は沸いていた。
あちこちから名前を呼ぶ声も聞こえてくる。見渡すと、見知った人たちが目に入った。
「あ、師匠。シルベーヌのみんなが手を振っています。その隣にはビリジアンのメンバーもいますよ!」
「あっちにはブッドレアのメンツもいるわね……。嬉しいような、おぞましいような……」
チカが大きく手を振るのに対して、アイリスは苦笑いで小さく手を振っていた。
これまで戦ってきた相手も、ノードの街の住人も、各々の家族も祝ってくれている。そんな歓声に一同は必死に答えようと手を振るのだった。
そんな中で――
「さぁ、勝負はうちの勝ちだ。約束は守ってもらうよ」
大将であるソルティを介抱しようと集まっていたマグノリアのメンバーに、アレフは厳しい顔つきで掛け合っていた。
「この戦いで勝った方のいう事をなんでも聞く、という約束だったからね。うちにはもうちょっかいを出さないと誓ってもらう」
「ぐ、ぐぬぬ……」
マグノリアの面々は返す言葉もない様子で、俯いたまますごすごと退散していく。そうしてフィールドには勝者だけが残り、正に歓声を自分たちだけのものとしていた。
「アイリス、腕は大丈夫なのか?」
「ま~なんとかね。今日からは安静にするから心配しないで。……それよりも、ちゃんと約束通りアイツをぶっ飛ばしてくれてありがとねガル。めっちゃスッキリしたわ」
ニッと笑うアイリスに、ガルはビシッと親指を立てる。そこへセレンも寄ってきた。
「ガルこそダメージは大丈夫……? 辛いなら私が支えるわよ?」
そうしてピッタリと寄り添ってくる。するとチカも慌てて逆から寄り添ってくるものだから、ガルは挟まれながらギュウギュウと押しつぶされそうになっていた。
「皆様、大変お待たせ致しました。これより優勝をしたワイルドファングの表彰式を行いたいと思います!!」
多くのスタッフが登場をして、アレフは表彰状を受け取った。
大将戦を飾ったガルは、優勝旗を手渡され、大きく派手に振りかざした。
今は戦いに勝利したという最高のテンションで、みんながはしゃぎ、声を上げる。そうやって勝利を噛みしめ、人生で忘れられない思い出として刻み込んでいた。
……しかし彼らは知らない。どんなに楽しい時を過ごそうとも、この世界は刻一刻と危険が迫っているという事を……
* * *
「今回の優勝はワイルドファング……ノードっていう街の魔法使いか……」
一人、フードで顔を隠した男性がそう呟く。
フィールドからは一番遠く、出入り口のそばで椅子に座る事もなく、壁に寄り掛かった状態で見下ろしていた。
「世界最強の魔法使いを決める戦いだって言うから一応見に来たが、案外大したことなかったな……」
鼻で笑うその男は、バカにしたようにそう言い放ち会場を立ち去ろうと歩き出す。
「この程度なら問題はない。俺たちの計画は間違いなく成功する……」
その不吉なセリフは、周りの大きな歓声で簡単に消えてしまう。
「もう少しだ……。あと少しでこの世界をぶっ潰せる!」
フードから見えたその瞳は鋭くて、狂気という色に染まっていた。
「待ってろよ。こんなクソみたいな世界、滅茶苦茶に破壊してやるからな!!」
そう、ガルたちは知らない。この世界に危機が迫っているという事を。
誰にも悟られないよう、何者かが暗躍しているという事を……
今はまだ、ワイルドファングのメンバーも、歓声を上げる観客も、ただただ宴に酔いしれて浮かれるばかりであった……
世界崩壊まで、あと一年と二か月!!




