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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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本気になるための理由にて②

「はっ! 少しばかり近接戦闘が得意だからって調子に乗んなよ? この大将戦が最後なんだ。もう出し惜しみする必要はねぇし、決めさせてもらうぜぇ!」


 そう言ってソルティが文字を刻む。その様子を見てからガルもまた文字を刻んだ。

 少しの間、二人が魔法を完成させるのに時間を使い、最初に発現させたのはソルティだった。


「ほい完成っと。『ディトール!!』」


 ダブルマジックで刻んだ一つ目の魔法。それに警戒するガルだが、特に何かが起こる訳ではなかった。


(なんだ? 何を使った……? 少なくとも攻撃魔法ではないな。『ディストール』という単語もこれまで聞いたことが無い。だが間違いなく奴の切り札だろう)


 ニヤニヤと不気味に笑っているだけのソルティに、どうしたものかとガルは考える。だがあえて、こちらから仕掛ける事にした。

 ガルは一気に上空へと舞い上がり、杖をソルティに向けて固定する。この攻撃でその魔法の特性を見て、いち早く対処法を見つけ出すつもりだった。


「こちらから行くぞ! 『インフィニティブレイク!!』」


 杖に収束した魔力が一気に放射される。それは正に波動砲のようで、青白い光が真っすぐにソルティへと進んでいった。

 『インフィニティブレイク』。それはガルの攻撃魔法の中で最も威力のある魔法である。威力はS+を記録しており、並みの防御魔法では守り切る事は不可能だ。

 そんな攻撃を向けられてなお、ソルティは微塵も動かない。それが逆に不気味であり、警戒するガルの目に映ったのは不思議な光景だった。

 なんと攻撃魔法がソルティに届かない。目の前で止まり、それ以上進まないように見えたのだ。

 いや違う。と、ガルの頭が急速に状況を理解するために回転する。

 魔力を塞き止められるような感覚はない。今もなお魔力を放射し続けて進行している。にも拘らずソルティの目の前で魔力の波動は止まってしまっていた。

 次にガルが感じたのは、背後から鳴る轟音とその危機感であった。背筋が凍るような脅威を感じて、目で確認するより早く、ダブルマジックの二つ目を解き放っていた。


「『インビシビリティ!!』」


 『インビシビリティ』。それは物理法則をなくし、自身の体を絶対無敵にするガルの奥の手。

 重さや衝撃の概念が消え、どんな攻撃であろうとも感覚が無くなるために、背中から感じた脅威も分からなくなる。

 そんなガルが振り返ると、そこには自分が解き放った青白い波動が背中に直撃している状態であった。

 ガルが攻撃魔法を解除すると、背中に降り注ぐエネルギーもまた消える。信じられない事に、上空からソルティへと放った攻撃が、ガルのさらに上空から出現して自分の背中へと降り注いだのだ。

 だが、そんな現状を見ればガルの導き出す答えもシンプルであった。


「……そうか。『ディストール』という魔法は空間を歪める魔法だな」

「そういう事♪ 自分の周囲の空間を歪めれば、俺に攻撃は絶対に届かない。そんな事よりも、アンタのその無敵になる魔法、解除しなくていいの? 知ってるんだぜ。それ、めっちゃ魔力を消費するんだろ?」


 ガルが無敵魔法を解除する。効果が知られているのであれば、長く使い続けるメリットは何もない。


「解除したか。なら次はこっちの番だぜぇ! 『ファイナルゥゥゥクラーーッシュ!!』」


 ソルティが杖を掲げる。それを振りぬくと、紅色の閃光がガルに向かって走り出した。

 スッと、ガルは無駄のない動きでその閃光を回避する。しかし、後方に進んだ紅の閃光は途中でその進行が止まる。否、空間が捻じ曲げられて、その座標から別の座標へと強引に歪められているのだ。

 それに気づいたガルは咄嗟に動き出す。すると、その紅の閃光が地面から突き上げるように伸びでガルの腕を掠めていった。

 止まっていてはどこから狙われるか分からないと、ガルは乱雑に飛び回る。そんなガルを追い回すようにソルティの閃光は上下左右関係なく飛来してきた。

 その場は客席から見れば異様な光景だろう。魔力の波動はどこかにぶつかる事はなく、消えては別の場所から出現する。そうしていくつもの閃光が不規則にフィールドを染めていくのだ。

 それは例えるなら、乱雑に張り巡らされたワイヤートラップのようである。数多のエネルギーがガルを追いかけ、次々と張り巡らされていく。そしてガルはそんな増え続ける閃光の隙間を縫うようにして逃げ続けていた。

 どれだけ逃げてもソルティの攻撃は追いかけてくる。どこかにぶつかって消えたりはしない。そんな空間がぐちゃぐちゃに捻じ曲げられたフィールドでもガルは必死に逃げ回っていた。

 不意に、紅の閃光がガルの目の前に出現する。ガルの正面に空間を歪めたのだろう。突然の事であり、またガルもそのエネルギーに向かって突っ込んでいく形になるため、もはや回避は難しい状況だった。


 ――バオンッ!!


 それでもガルは強引に軌道を変えて回避する。ブーストを使い、瞬発的に目前に迫ったエネルギーを紙一重で回避した!

 そのままのスピードでガルはソルティに突っ込んでいく。手に持つセイバーを構え、ソルティに向かって振り下ろした!

 ……しかし、それでもダメだった。ソルティの周囲は空間が捻じれていて、突っ込んでいったガルは別の空間へと移動していたのだ。

 一瞬どこに出現したのか分からなくなり、位置の把握ができなくなる。上下も高さも不明になり、ガルの動きが直線的になった。その時……

 ズドン! と、ソルティの放ったエネルギーがガルに直撃する。どうやら高い位置に出現していたようで、ガルは紅の閃光を受け吹き飛ばされていく。

 杖を盾のように使いエネルギーを食い止めようとするガルだが、その勢いに押され続けて逃げようがない。上空から地面へと一直線に落ちていく、そのままフィールドの中央に叩きつけられた!

 行き場を失ったソルティのエネルギーは爆発を起こし、その場には爆炎と砂埃が巻き上がる。

 次第に煙が晴れるが、大きなクレーターを作った爆発跡の中心で、ガルはうつ伏せで倒れていた。

 観客は静まり返り、審判もすぐには反応できないでいる。しかし、当のソルティだけは勝ちを確信したかのようにほくそ笑んでいるのであった。

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