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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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気功術の使い手にて①

「それでは次の試合に移りたいと思います。マグノリア支部の選手は入場してください!」


 放心するクリスを医療班が回収した後、審判がマイクで呼びかける。すると、控え室からすぐに男性が飛び出して来た。

 その者は上も下もジャージで身を包み、髪は短くスポーツ刈りである。

 セレンの前まで走ってくると、律儀に頭を下げて挨拶を始めた。


「よろしくお願いしあす!」

「あ、うん。よろしく……」


 相手の声の大きさに気圧されて、一歩後ずさる……


「それと、まずは謝らせてほしいッス!! ウチのソルティさんが迷惑をかけて、本当に申し訳ないッス!!」


 再度、深々と頭を下げるジャージ男にさすがのセレンも戸惑いを隠せない。


「えっと、あなたは合併の話に反対なの……?」

「もちろんッスよ!! スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と戦うべきッス!! ……けど、ソルティさんって自分の欲しいものは手に入れないと絶対に気が済まない性格ッスから、こんな強引な方法を取ったんス。自分も始めは反対したんスけど、全く聞き入れてくれなかったんス」

「そうなんだ。あなたの言い分はわかったわ」


 けどね、とセレンは続ける。


「どんな理由があろうと、一緒に戦っている以上は共犯だわ。私から言わせれば同罪よ」


 そう容赦なく言い捨てた。


「確かにそうかもしれないッスけど、自分もクリスさんもこの計画にはホント反対だったんスよぉ。けど立場上逆らえないしどうしようも無かったんス……」

「ふ、ふん! 私はマグノリアを絶対に許さないんだから!」


 困り果てるジャージ男に、セレンは段々と罪悪感が募っていった。


「とにかく、今はしがらみなんて忘れてお互いに全力を出し切るッスよ!!」


 そう言ってニカッと爽やかに笑うジャージ男に、調子を狂わされるセレンであった。


「それではそろそろ第五回戦を始めたいと思います! 次鋒セレン選手対、副将ジャック選手。試合ぃぃぃ、始めぇぇぇ!!」


 審判の合図と共に、二人は同時に文字を刻み出す。


(今回もレリースセイバーを作る事を優先しよう。一度は手の内を見せてるけど、相手が魔法使いである以上完成すれば勝利は揺るがないもの!)


 そう考え、セレンはダブルマジックでレリースとマジックセイバーを刻んだ。


「うっし完成ッスよ! 『オーラエンハンス!』」


 一早く完成したジャンクの魔法が解き放たれると、彼の体から風が巻き起こる。さらには淡い金色の光を纏い、スッと構えを取った。


(オーラ!? それにあの構え、まさか!?)


「マジックセイバー!」


 魔法の名称と今にも飛びかかって来そうな格闘術の構えを見た瞬間に、セレンは近距離を挑まれると直感で悟った。だから時間のかかる融合魔法を止めて、単発でマジックセイバーを発現させたのだ。

 そして案の定、ジャックは手に持つ杖を投げ捨て、一気に飛びかかって来る!


「せいっ! はっ!」


 チカほど速くはないが、一瞬で距離を詰め、光を纏った拳を振るってきた。

 セレンは距離を空けようとバックステップを踏みながらジャックの拳を回避する。セイバーを使っている分、リーチはセレンの方が長いのだ。

 しかし、どんなに離れようとしてもジャックは距離を詰めてくる。絶対に離れないという強い意思が感じられるほどであった。


「ちょ……鬱陶しい!」


 ガンガン前に出ようとするジャックに焦燥感を感じながら、セレンも負けじとセイバーを振るう。しかし、オーラを纏ったその腕はセイバーを受け止めてしまうほど頑丈になっていた。

 いや、正確に言えば、セイバーの威力を殺して受け止めるという卓越した技術を用いて防御しているのだが、今のセレンにはそんな事はどうでもよかった。

 体が密着するのではないかと思えるほどに接近してくる相手に圧迫感を感じて、いつものような動きが出来ないでいた。


「こっち来ないでよ!」


 チカとはまた違った意味での近距離戦に、力任せにセイバーを振るう。するとジャックは、セレンの振るったセイバーを白刃取りして抑え込んでしまった。


「捕まえたッスよ!」


 グイッと杖を引っ張ると、セレンは簡単にバランスを崩す。

 その瞬間にジャックはセレンの背後に回り、後ろからがっちりとセレンを抑え込んだ。


「ひにゃ~~!? 何してんの触らないでよ~!! 私に抱き付いていいのはガルだけなんだから~!!」


 ジタバタと暴れるが、ジャックは微動だにしない。


「やっぱり思った通りッス。キミは魔法を使わせたらかなり厄介な相手ッスけど、こうやって力勝負になったらタダの非力な子供ッスね。格闘術習っててよかった~。さ、降参するッスよ」

「なっ!? 私は絶対に降参なんてしないから! は~な~し~て~!!」


 かなり強引に暴れるセレンだが、ジャックは子供と遊ぶお兄さんと言わんばかりの笑顔であった。


「無駄ッスよ。自分の使った『オーラエンハンス』は、人間の体内に眠る『気』の力を増幅する魔法ッス。人間の生命力の源、それを増幅させて身体能力を向上させるのがこの魔法ッス。どんなにもがいても絶対に振りほどけないッスからね。痛い目を見ないうちに降参した方がいいッスよ~」


 そう言って抑え込む力を強めると、ギリギリとセレンの体は締め上げられていく。


「ちょ……苦しい! っていうか痛い痛い痛い!! ふえ~ん、私ってこの大会に出てから拘束ばっか……」


 降参はしたくないが、どうしてった解けない拘束に涙目になっていた。


「はぁ……自分だってこんな幼い子を羽交い絞めしたくないッスよ。観客のみんなだって見てるんスから……それじゃ仕方ないッスね!」


 ジャックはセレンを拘束したままゴロリと仰向けに転がった。そしてそのままセレンの背中に両足を付け、思い切り空中に押し出した!


「いや~~~!? 落ちるぅ~~~!!」


 放物線を描いて落下を始めるセレンが飛翔の魔法を刻む時だった。セレンの背後に飛び上がってきたジャックが並ぶと、その首元に鋭い手刀をヒットさせる。


「ぴゃ!?」


 そしてセレンを抱えたまま着地をしたジャックが、地面にゆっくりとセレンを転がす。

 セレンは意識こそあったが、ガクガクと震えてうまく立てないでいた。


「な、何これ……頭がぐわんぐわんする……気持ち悪い……」

「あっはは。あまり無理しない方がいいッスよ。しばらくは立てないッスから。審判のお姉さん、判定してほしいッス」


 そう言われてから女性審判はセレンに近付いていく。


「セレン選手、戦えますか?」

「ちょ、ちょっと待って。今立つから……ふわぁ~世界が回るぅ~……」


 まともに体も起こせないセレンを見て、審判は決断したように立ち上がった。


「セレン選手、戦闘不能。よってこの勝負、ジャック選手のぉ~勝ぉぉ利ぃぃ!!」


 ジャックが歓声に応えようと手を振る中、セレンはブツブツと文句を垂れ流す。


「ま、魔法使いなら魔法で戦いなさいよぉ……この卑怯者ぉ~……」


 そんな事を、目を回しながらも訴えかけるのであった。

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