たけし君
死んだ子どもの悪意は、町の記憶に棲みつく。
隣家のたけし君は、五歳の幼い顔立ちをしていた。
大きな瞳と、柔らかな頰。誰が見ても愛らしい、天使のような微笑みを持つ子だった。
しかし、私は知っていた。あの笑顔の裏に、底知れぬ闇が潜んでいることを――
たけし君は悪戯好きだった。いや、悪戯などという可愛らしい言葉では到底片付けられない。
彼は、生き物で「遊ぶ」のが好きだった。ある夏の午後、私はつぶした段ボールの箱を彼に渡した。
「これで何か作って遊べば?」と、ただの親切心から。
彼は目を輝かせ、すぐに箱の中へ潜り込んだ。そして四つん這いになり、地面を掻きながら箱を前へ押し進めた。
「戦車だ!」
無邪気な声が響いた。
その声は、まるで本物の戦車のように、道路へ、道路へ、と加速していった。私は止める間もなかった。
重いトラックのブレーキ音と、鈍い衝撃音が、午後の住宅街に響き渡った――たけし君は死んだ。
小さな体は、血だまりの中で、まるで潰れた段ボールのように折れ曲がっていた。
近所の人々は駆け寄り、泣き叫んだ。母親の嗚咽が、遠くまで聞こえた。
しかし、私はただ、静かに見つめていた。
――本当に、悲しみの涙を流している者は、どれほどいたのだろう。
たけし君が死んだその日まで、私は黙っていた。お向かいの武田さんの池にいた金魚たち。
一夜にしてすべてが道路に撒かれ、朝にはタイヤ痕の中で干からびていた。
武田さんは「猫の仕業だ」と呟いていたが、私は知っていた。
あの小さな手が、水面に映る金色の輝きを、ただ「つぶした」かっただけなのだと。
木嶋さんの家のインコは、腹に花火を詰め込まれ、庭の木の上で破裂した。
羽根が雪のように舞い落ちる光景を、たけし君は笑いながら見上げていた。
木嶋さんは白髪を増やし、以来、鳥籠をしまうことさえ怖がるようになった。
そして、我が家の猫――ミルク。
布のバッグに重しを入れられ、用水路の底に沈められた。
私が近所の人に教えられて駆けつけたとき、すでに息絶えていた。
濡れた毛並みは、まだ柔らかかった。
たけし君はその場にしゃがみ込み、じっと水面を見つめていた。
「沈むの、遅かったね」と、彼は呟いた。天使の笑顔で。
たけし君の葬儀の日、近所は黒い服に包まれ、誰もが涙を拭った。
しかし、その涙の多くは、安堵の色を帯びていた。
誰も口には出さない。
だが、誰もが心の底で思っていた。――やっと、終わった、と。
私は今も、あの段ボールの箱を思い出す。
私が渡した、あの箱が、たけし君を車道へ誘ったことを。
私はただ、静かに微笑む。
あの子の死は、純粋な事故などではない。
それは、遅すぎた審判だった。
夜になると、時折、用水路のそばで小さな笑い声が聞こえる気がする。
あるいは、庭の木の上で羽根が舞う音がする。
金魚の尾びれが、道路を滑る音がする。たけし君は、まだ遊んでいるのかもしれない。
五歳の、純粋で残酷な悪意は、死んだ後もこの町に染みついている。
私は窓を閉め、カーテンを引く。だが、耳を塞ぐことはできない。
どこか遠くで、小さな声が囁く。
「次は、何で遊ぼうかな…」
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