第3章 その16 策謀・4
鍛冶場から響いてくる槌音のなか、レオンはエルフの里に滞在している冒険者パーティーを訪ねに向かった。
「久しぶり、と言う程でもないか」
『獅子の心臓』のリーダーであるボッシュが気安く声を掛けてきた。
「ところでこの槌音は何の騒ぎだ?」
「うちのドワーフは遍歴鍛冶師だ。エルフの鍛冶場を借りて剣鉈を打っているところだ」
ボッシュは『へぇー』とばかりに音の響いてくる方向に頭を向けた。
「四日後の朝には出来上がる。仕事の邪魔にならない限り見学してくれていい」
「いいのかい?」
「剣鉈を打ち終わったら、今度は冒険者の得物の手入れを請け負う予定だ。その前に、武器を預ける相手の腕前ぐらい知っておきたいだろう」
然もありなんとばかりにレオンは頷いてみせた。
「エルフの長老達は、当面のゴブリン討伐は休止させて冒険者達の休息期間に充てる腹づもりらしい。武器の手入れも、休息後の攻勢に向けて必要な準備だ」
「手間賃はどうなる」
「無償というわけにはいかないが、相場より相当安く済ませる。足りない分は、冒険者ギルドとエルフ側からふんだくるつもりだから気にすることはないさ」
なんでも無いと手を広げつつ、レオンは損はしないと強かさをのぞかせた。
「これは確認だが『魔法の飲み薬』の在庫はどうなっている」
「かなり厳しいなぁ」
厳しい顔が微かに歪む。
「エルフ達から傷薬なんかは回してもらっているが、即効性のある薬じゃない。こんな辺鄙な場所じゃ入手もままならん。いっその事契約を切って撤退する事も考えないといけないかもしれない」
冒険者として、請け負った仕事を投げ出すのは矜持が許さないが、所詮は命あっての物種である。命と報酬や信用を天秤に掛ければ、最終的には命を取るのが賢い選択と言えるだろう。
「うちの武装僧侶は、薬にも知識がある。中級とはいかないが初級より少しはマシな魔法薬なら作れるらしい」
「そいつは本当かい」
「今、『魔法の飲み薬』用の薬草をエルフ達に採取してもらう様に手配している。だが、薬を入れる瓶が足りそうにないから、空き瓶が有ればいったん買い取りたいと思っているのだが」
『魔法の飲み薬』を入れる瓶は少し特殊で、品質劣化や瓶の破損を防ぐ付与魔法が施されている。薬の販売価格には瓶代が上乗せされていて、空き瓶を魔法薬の販売店に持ち込めばその代金が返却される仕組みが確立されている。
「そいつは願ってもない話だが、冒険者連中からかき集めても総数はたかが知れていると思うが」
「薬をどう配分するかについても腹案があるから大丈夫だ。薬の原材料もエルフ側に提供させるから価格も低く設定する」
「商人みたいに頭がまわるなぁ」
ボッシュは呆れるやら感心するやらでマジマジとレオンの顔を見つめた。
「そういうことなら、他の冒険者連中に話を通しておく必要がある。今から俺がついて行ってやろう」
任せておけとばかりにレオンの肩を叩くと、ボッシュは案内のために歩き始めた。




