第19話 パンの聖地、最終オーブンへ
カカオ・ノワールを退けた勇者は、魔王領の最深部へ足を踏み入れた。
そこにそびえ立つのは、黒鉄の塔――通称「魔王城」。
だがその中心部には、勇者が息をのむ光景が広がっていた。
「……これは……オーブンか?」
それは巨大すぎる炉だった。
高さは城の天井まで届き、内部で渦巻く炎は黒く、そしてどこか甘い香りを漂わせている。
勇者:「……これなら、千人分のバゲットが一度に焼ける」
村人(護衛):「何を真顔で言ってるんですか!? あれ魔王の兵器ですよ!?」
このオーブンは、魔王軍が世界中の小麦を奪い、命を燃料にして稼働させている禁断の兵器。
吐き出されるのは――焼きたてのような香りを纏った兵士たち。
「……パンの形をした魔物……だと……!」
「よく見ればクロワッサン型の角生えてる!怖っ!!」
押し寄せるクロワッサン兵、ドーナツ兵、ベーグル兵!
勇者はリュックから取り出す。
「今日の仕込みは――メロンパン・スマッシュ!」
表面カリカリ、中ふわふわのメロンパンを両手に装備し、打撃と防御を兼ねたスタイル。
一撃でベーグル兵の輪を粉砕し、ドーナツ兵を砂糖粉ごと吹き飛ばす。
村人:「お前、そのパン絶対食べられないよな……」
戦いの最中、巨大オーブンの奥から、低く響く声が聞こえた。
「……来たか、勇者」
勇者:「……魔王か」
魔王:「この聖なる炉は、我が生まれた場所でもある」
勇者:「……つまり、君はパン……?」
魔王:「違うわ!!!!」
魔王:「次に開くこの炉の扉――それがお前の墓場だ」
勇者:「ならば、その前に生地を仕込んでおこう」
村人(心の声):「やっぱりこの人、話がかみ合わない……」
オーブンの炎が唸りを上げる。
魔王がその奥で待つ。
そして、勇者の腰には――まだ使っていない、あの巨大な剛焼バターロールが光を放っていた。