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光を求めて  作者: kotupon


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548/549

不安を取り除いてから?!

サウザンの街——高級宿「リッチ」の大広間。


即席の作戦室として使われているその部屋は長机の上にギザ自治区周辺の地図が広げられ、ルナイ川、ダット橋、ズライ自治区側の街道、アンヘル王国方面への交易路が赤墨で書き込まれている。


ベガは腕を組み、机に広げられた地図を睨みながら口を開いた。

「……まず、ズライ自治区の情報だ」

場の空気が静まる。


ベガは指で地図を叩く。

「ズライ自治区――タイズの街を巡る攻防が激化しているらしい」

空気がさらに張り詰めた。


タイズの街——交易都市であり、アンヘル王国カシウム領との国境線から極めて近い場所に存在する要衝。そこを落とされれば、カルバド帝国はそのままアンヘル王国へ圧力をかけられる。


「帝国軍対タイズの街守備隊、それと……カシウム領軍だ」


「当然出てくるか」

フレッドが鼻を鳴らした。


ベガは頷く。

「情報屋からの報告によれば、カシウム領軍を率いてるのは――」

一瞬、間を置く。

「イーサン・デル・ブランゲル侯爵様本人だ」


その名が出た瞬間、部屋の空気が僅かに変わった。


ブランゲル侯爵——アンヘル王国最強とまで言われる武人。

圧倒的武威、そして王国軍の象徴。


デルガーが腕を組む。

「カルバド帝国がズライ自治区を完全占領すりゃ、アンヘル王国と直接隣接する。カシウム領が最前線になるんだ」


「ブランゲル侯爵家からすれば、絶対に防がなきゃならねえ」

グーリスが低く唸る。


ニックも頷いた。

「交易面でも同じだ。タイズの街を抑えられれば、アンヘル王国との流通が激減する。エイト商会だけじゃない、ギザ自治区全体に影響が及ぶ…アンヘル王国も同じく…」


だからこそ、タイズの街では今、激戦が続いている。


ベガは続ける。

「次。これはニックからの情報だ」


ニックは机に手を置きながら口を開いた。

「アンヘル王国王都直轄領――旧スニアス領から、少数だが避難民が出始めてる」


「……リーガム領か?」

フレッドが聞く。


「ああ」

ニックは頷いた。

「デシャン・ド・ホルダー男爵家の領地だ。まだ数は少ねえが、確実に人が流れ始めてる」


「王都直轄領の状況が悪化してる証拠だな」

デリーが眉をひそめる。


「王都内でも暴動が起き、三領が離反したって話だったしな」

グーリスが吐き捨てるように言った。


「……王国も内側からガタついてるわけか」

ブラスが低く呟いた。


ミーナが静かに口を開く。

「……王都からの報告はありませんか?」


その問いに、ベガは首を横に振った。

「残念ながら、まだ何も来てない」


「カシウム領の国境線は封鎖されてるだろうしな」

デルガーが地図を指差す。

「王都直轄領を経由して来るしかないが……相当時間がかかる」


「しかも今の王都はまともな状況じゃねえ」

ニックが肩を竦めた。

「情報屋たちも動けねえんだろう。命あっての商売だからな」


「報酬が良くても死んだら終わりだしな」

デリーが苦笑混じりに言う。


その通りだった、情報屋は勇敢な兵士ではない。

生き残ることが最優先、危険すぎる場所には近づかないだからこそ長く使える。


ワーレンが静かに言った。

「……まずは自分の身を守る。それが情報屋の鉄則だからな」


フレッドが顔を上げる。

「ルーファスやモーガンからの報告は?」


ベガは少しだけ考え、答えた。

「…帝国軍侵攻直前までは定期的に来てた。内容も普通だった」


「急に途絶えたってことか」


「そういうことだ」

空気が重く沈む。


ジトーは黙ったまま地図を見つめる。

タイズの街で激戦が続いている――。

その報告は、この場にいる全員の胸を焦らせるには十分だった。


地図を見つめていたルーカスが、低く呟く。

「……急いだ方がいいな……!」

その声には焦燥が滲んでいた。


「そうだな」

フレッドが椅子にもたれながら口を開く。

「『飲み友』を失うわけにはいかねえ」


イーサン・デル・ブランゲル侯爵。

あの武人を、フレッドたちは気に入っていた何より――戦場で背を預けられる男だ。


「ワハハハ! また強行軍だなぁッ!!」

トーマスが豪快に笑う。


エリカは小さく唇を噛み、視線を伏せる。

「……お父様たちをお願い……!」

その声には娘としての不安が滲んでいた。


ノエルがそんなエリカの肩にそっと手を置いた。

「任せて、エリカ」

優しく、それでいて力強い声。

「それにブランゲル様たち、カシウム領軍は強いわ」


その言葉に、ミーナも頷く。

「私たちなら数時間でタイズの街まで行けるしね」


普通の軍なら丸一日かかる雪道。

だが、ジトーたち規格外の者たちなら話は別だ。

夜を徹して駆け抜けることも出来る。

実際、ダット橋までもそうやって辿り着いた。


ダルソンが腕を組みながら言う。

「俺たちも直ぐに追いかける」


一刻も早く動きたい、タイズの街へ向かいたい。

誰もが急ぎたいと思っていた。


そう思っているが――「……明朝に出る」

静かに言ったのはジトーだった。


部屋が僅かに静まる。


フレッドが眉を上げた。

「ん? 俺たちなら今からでも行けるだろ?」

それは事実だった。


フレッドもトーマスもジトー、ミーナ、ノエルは、まだ動ける。

無理をすれば走れる。

数時間仮眠を取れば、再び前線に出られる。

それだけの化け物じみた体力を彼等は持っている。


ジトーは首を横に振った。

「……かもしれねえ」

低い声、静かな口調。

「だが、考えてみろ」


皆の視線が集まる。


ジトーはゆっくりと言葉を続けた。

「深淵の森で暮らしてた頃でも、冬は家に籠りきりだったろう、昼に鍛錬はしてたが、それでも一、二時間だ…今の俺たちはどうだ?」


視線が家族たちを見渡す。


「夜通し雪道を駆ける、戦う、少し休む、また走る、また戦う」

一つ一つ確認するように言う。

「……そんな経験、したことねえ」


部屋が静まり返る。


彼等は規格外だ。常人離れした膂力、体力、戦闘能力。

だが――無敵ではない。

特に“寒さ”という自然そのものへの耐性は未知数だった。

身体は動いていても、内側から削られている可能性がある。


筋肉、関節、肺、血流、疲労は蓄積する。

凍傷や衰弱が起きても不思議ではない。


それを理解していたからこその、ジトーの言葉だった。

フレッドが口を閉ざす、トーマスも笑みを消していた。


ジトーは少しだけ視線を伏せ正直な気持ちを吐き出した。

「……正直に言う」

その声は、どこか苦しそうだった。

「俺はブランゲルよりも、お前たちの方が大事だ」


誰も動かなかった。


「失いたくねえ」


暖炉の火が揺れる。

外では風が唸っている。


ジトーはシャイン傭兵団副団長で、この一行の指揮官だ。

だからこそ、家族を仲間を死地へ追いやる判断をしなければならない時がある。


同時に――守る責任もある。


無理を押して動かせば、戦う前に身体を壊す可能性もある。

それは避けなければならなかった、苦渋の決断だった。

誰よりも早く助けに行きたいのは、ジトーも同じ思いなのだから。


暫し沈黙が流れる。


やがて――。


「……ハハッ」

フレッドが小さく笑った。

「そういうことなら仕方ねえな」

肩を竦める。

「俺も身体ぶっ壊して足手まといになるのは御免だ」


トーマスも豪快に笑う。

「ワハハ! 確かにな! 凍死なんざ笑えねえ!」


腕を組んだダルソンが低い声を落とす。

「……デシンス隊はどうするんだ? ダミアンたちエイト商会の警備にあたらせるのか?」


 視線がジトーへ集まる。


 ジトーは地図から目を離さず、短く答えた。

「……いや、この街に残って、指揮を執ってもらう」


 ノエルが椅子へ浅く腰掛けたまま口を開く。

「各傭兵団と私兵を纏めてもらうってことね」


 ジトーは無言で頷いた。


 ダット橋をサウザンの街を守る“軸”としてデシンス隊は、そのために残す。


 ミーナが、隣に座るエリカへ視線を向けた。

「エリカ、これで納得してくれる?」


 エリカは静かに息を吐く。

 彼女の青い瞳には不安が残っていたが感情だけで反論するほど、彼女も甘くはない。

「ええ……それが最も正しい判断だわ」


 グーリスが太い腕を組み、鼻を鳴らした。

「生きて次の戦場へ向かわなければ話にならないからな」

 低く重い声、歴戦の男だからこそ出る言葉だった。


 一度の勝利に酔い、次で潰れる軍勢、傭兵団を、彼は嫌というほど見てきたのだろう。


 その流れを断つように、ニックが口を開いた。

「砦の建設は任せろ。形だけでも早急に作らせる」

 机へ拳を軽く置きながら言う。

「防壁を全部完成させる時間はねぇ。だが土塁と柵、見張り台くらいなら何とかなる」


 誰もが、自分の役割を理解していた。

 戦う者、守る者、支える者、その全てが噛み合わなければ、この戦は乗り切れない。


 ジトーは静かに全員を見渡した。

「明朝出発だ。日が昇ると同時に動く、それまで全員、身体を休めろ」


「了解!」

 力強い返答が重なった。



  ズライ自治区――タイズの街。

 乾いた土煙が空を覆い、怒号と悲鳴、鉄のぶつかり合う音が絶え間なく響き渡っていた。


 街門前——帝国軍の巨大な破城鎚が、唸りを上げながら突き進む。


「矢を射てぇッ!!」

 守備隊長の怒声が城壁上に響いた。


 弓兵たちが一斉に弦を引き絞る。

 放たれた無数の矢が黒い雨となって降り注ぎ、破城鎚を護衛する帝国兵へ突き刺さるが――止まらない。


「突っ込ませるなッ!!」

 熱湯が撒かれ、投石、槍が投げられる、それでも破城鎚は止まらない。


 守備隊長の顔色が変わった。

「……駄目だ、間に合わん!! 衝撃に備えろォッ!!」


 次の瞬間——轟音。

 街門が内側へ弾け飛んだ。

 巨大な木片が宙を舞い、兵士たちが吹き飛ばされる。


 土煙の中から、低い唸り声と共に帝国軍が雪崩れ込んできた。

 その先頭に立つのは、“出来損ない”の化け物。


 異様に肥大化した腕を持つ者。

 血走った目で笑いながら斧を振るう者。

 全身を裂かれてなお前進する者。


「街中へ入れるなァッ!!」

 守備兵たちが必死に槍、盾を構える。



その頃、街の外縁部では、さらに凄絶な戦いが繰り広げられていた。


 その中心にいるのは、帝国軍第二軍将軍――ティケーヤ・フォン・ローヴェレ。

 そして副将軍、イドラ・フォン・トルロニア。

 両名とも、“完全適合者”。

 帝国の技術によって極限まで身体能力を引き上げられた者たち。


 さらに第二軍参謀長ヴァースキ・フォン・ゴンザ―ガが、戦場全体を冷徹に統率している。

 突出も乱戦もない全てが計算されていた。


 ティケーヤと対峙するのは、イーサン・デル・ブランゲル侯爵。

 その傍らには筆頭側近ネリ・シュミッツ、次席執事長ルーファス。

 三人がかりで、なお押されていた。


 ティケーヤの大剣が振るわれる——空気が裂けた。

 ブランゲル侯爵が槍で受け止めるが、衝撃だけで地面が陥没する。


「ぐッ……!!」

 侯爵の腕が軋む。


 そこへネリが滑り込む。

 寸分違わぬ剣筋——首筋、脇腹、膝裏、急所だけを狙った連撃。


 だがティケーヤは、まるで未来でも見えているかのように最小限の動きで回避する。


 次の瞬間、ルーファスが背後から現れた。

 音も気配もない、暗殺術、短剣がティケーヤの首筋へ伸びる


 ギィンッ!!


 ティケーヤは振り向きもせず、大剣の柄で弾いた。


 ルーファスが距離を取る。

 冷や汗が頬を伝っていた。

「……化け物め」


 ブランゲル侯爵の武力、ネリの精密無比な剣技、ルーファスの暗殺術。

 その全てをもってしても、ティケーヤを崩せない…圧力が違いすぎる。



 一方――イドラ・フォン・トルロニアと戦うアデルハイトたちも、苦境に立たされていた。


 イドラの姿が消える。


「右だッ!!」

 コールセンが叫ぶ。

 直後、遊撃部隊の兵士が斬り裂かれた。


 アデルハイトが槍を突き出す。

 エリクソン・ブランゲルも同時に踏み込む。

 二本の槍が交差し、完璧な挟撃となる――はずだった。


 しかし、空を切る。

 イドラは既にその場にいない。


「速すぎる……!」

 エリクソンが歯噛みする。


 イドラは討ち取ることを優先していなかった。

 狙いは足止め。

 ブランゲル侯爵さえ討たれれば、カシウム領軍の士気は崩壊する。

 それを理解しているからこそ、彼は時間を稼いでいるのだ。


 遊撃部隊長コールセンは必死にイドラの動きを読み罠を仕掛ける。

 地面に仕掛けられたロープ、落とし穴、狭路への誘導。


 イドラは、それすら読んでいた。

 まるで風だった。


 遊撃部隊副隊長ハラワパ・スメントが飛び出す。

 イドラの動きを封じようとするが——斬ッ!次の瞬間、刃はハラワパの目前へ迫っていた。


「ッ!!」

 辛うじて回避、頬が浅く裂ける。

 ほんの一瞬でも油断すれば終わる。

 速度の次元が違った。


 そして戦場全体でも、帝国軍が押していた。

 兵数差は大きくないが質が違う。


 出来損ないや精鋭たちは恐怖を知らない。

 槍に貫かれても前進し、腕を失っても噛み付き、倒れるまで戦い続ける。

 普通の兵なら怯む場面で、一切止まらない。


 その圧力が、徐々にカシウム領軍を押し潰していく。


 それでも——完全には崩れない。

「前列下がれ! 第二列、盾を立てろ!」


 現在、カシウム領軍全体を統率している男――スフォルツが指揮を飛ばしていた。

 小柄な体格、くすんだブラウンの髪、平民出身ではあるが、その指揮能力は本物だった。


「左翼、半歩引け! 街道へ誘導しろ!」

 地形を使い、包囲を防ぐ。

 足場の悪い地帯へ敵を踏み込ませ、突撃速度を殺す。

 高低差を利用し、弓兵、槍兵を効率的に配置する。


 押されながらも、決定的崩壊だけは防いでいた。

 帝国軍の猛攻に耐え続けている。

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― 新着の感想 ―
戦場のシーンは本当に読んでいてドキドキハラハラと心が大忙しです。 この緊迫感はたまりませんね。 ブランゲル達の危機に間に合え!!シャイン傭兵団!!
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