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光を求めて  作者: kotupon


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542/549

ハドラマウト防衛戦2

モンローの街は、戦場と避難の境界が曖昧に溶け合った異様な光景を呈していた。


焼け焦げた家屋、崩れ落ちた壁、血に濡れた石畳。

その中を、私兵や傭兵たちが住民を誘導しながら必死に走り回っている。

幼子を抱える者、肩を貸して負傷者を支える者、泣き叫ぶ声を押し殺して進む者――混乱は極まっていた。その混乱の只中で、誰もが一瞬、目を奪われてしまう。


視線の先にあるのは――シャイン傭兵団の戦い。


「……なんだ、あれ……」

誰かが呟く。

それは恐怖でもあり、畏怖でもあった。


巨人兵を相手に、まるで日常の作業のように戦う者たち。

巨大な肉体を軽々といなし、斬り伏せ、打ち倒していく。


ザックの槍が振るわれるたびに、巨体が裂ける。

ユキヒョウの剣が閃くたびに、敵が崩れ落ちる。


そして――「……あの弓……」

誰かの声が震える。


ケイトとリズ。

二人が放つ矢は、もはや“射撃”ではなかった。


ドンッ!ドヒュンッ!


空気を裂く音と同時に、遠くの巨人兵の頭部が弾け飛ぶ。

防ぐ術などない、距離も、障害物も意味を成さない。


「……あれに狙われたら……」

言葉を失う。

抗う手段が、思い浮かばない。


「……シャイン傭兵団が敵じゃなくてよかった……!」

それは、この場にいる全員の本音だった。


畏怖と安堵が入り混じる中――「おい!そこォ!!」鋭い怒号が飛ぶ。

「手が止まってるぞ!動け!!」

デチモだった。


避難誘導の指揮を執る彼は、戦場に背を向けることなく、しかし決して見入ることもなく、淡々と役割をこなしている。


「そっちは負傷者だ!止血を急げ!そこの二人、担架を持ってこい!」

的確な指示、混乱しかけた流れを、無理やり引き戻す。


「……ッ、は、はい!」

私兵たちが慌てて動き出す。


「デチモ!!」

駆け寄ってくる影。

未知傭兵団の団長、ミロシュだ。


「帝国軍が……!」

息を切らしながら叫ぶ。

「次々とルナイ川を渡ってきてるぞ!」


その言葉に、周囲の空気が凍りつく。


「……数は?」


「増えてる……!このままだと、すぐにこっちに集中する!」


デチモは一瞬、目を閉じる。

(……まずいな)

戦力が分散している今なら、まだ可能性はある。


(…今は無理だ)

ここには、守るべき者がいる。

避難が終わっていない、負傷者も多い。

この場を離れれば、確実に被害が拡大する。


「……くそ」

小さく吐き捨てる。

「今はこっちを優先だ!」

ミロシュに向き直る。

「お前たちは引き続き誘導を続けろ!戦闘は禁止だ、わかってるな!」


「……ああ!」

ミロシュも悔しさを押し殺して頷く。

「任せろ!」


デチモは再び戦場の奥を見る。

(ロイド……早く戻って来てくれ)

願う。



その頃――小さな広場。


戦いは、なおも続いていた、金属音が絶え間なく響く。

ディヤウ・フォン・ゼーレンは、微動だにせずその全てを見ていた。


(……なるほど)

内心で呟く。

(速さと重さ……か)


クリフの剣は異常な速度。

ロイドの一撃は破壊的な質量。


互いに補い合う連携、単純だが、極めて洗練されている。


目が細められる。

(——まだ“底”ではない)と感じ取っていた。



同時に――ロイドもまた考えていた。


(……強い)

ディヤウを見据える。

ただの指揮官ではない、間違いなく、前線で戦える“将”。

(兵も……思った以上だ)

盾の強度、膂力、反応どれも想定以上。


クリフもまた同じ結論に至っていた。

「……面倒くせえな」

小さく呟く。


ロイドとクリフの視線が交わる。

言葉はいらない、意図は共有される。


(……まだだ)


(……今じゃねえ)


力を出し切るには早い、ここで消耗するべきではない。

目的は一つ。


(時間を稼ぐ)


(……ザックたちを待つ)


それが来るまで、持たせる。


「――ッ!」

クリフが再び踏み込む。


ロイドがそれに合わせる。


攻撃は続くが、わずかに変化していた。

無理に崩さない、無駄に力を使わない、確実に削る。

一人、また一人と帝国兵が倒れていく。


ディヤウは静かに観察を続けていた。


(……なるほど)

わずかに口元が緩む。

(時間稼ぎか…それもまた一興)

見抜いていたが――彼もまた、焦ってはいない。


この戦場は、まだ序章に過ぎない。

広場に、再び金属音が響き渡る。



広場に張り詰めていた空気が、次の瞬間――一変した。


「ワハハハハッ!!」

轟くような笑い声。


低く、太く、そして圧倒的な存在感を伴ったその声は、戦場の喧騒すら一瞬押しのけた。


「待たせたなぁッ!!」

ザックだった。


巨躯を揺らし、皆朱の槍を担ぎながら、まるで戦場そのものを踏み砕くかのように踏み込んでくる。


ほんの一瞬——刹那にも満たない、わずかな時間。

その“音”は、確かに意識を奪った。


帝国兵たちの視線が、わずかに揺れる。

ディヤウ・フォン・ゼーレンですら、その存在を無視することはできなかった。


(来たか――ッ!)

ロイドとクリフ、二人の腕が同時にしなる。


握られていたのは、剣ではない。

隠し持っていた鉄釘。


それを――至近距離から、叩きつける。


ビシュッ!!


空気を裂く鋭い音、避ける間もない。


反応する前に――「ガッ……!」

帝国兵の顔面に突き刺さる。

目に、頬に、喉元に、完全な不意打ち。


一瞬の“崩れ”。


その隙間を――ロイドとクリフは、駆け抜ける。

一直線…狙いはただ一人、ディヤウ・フォン・ゼーレン。


二人の“制御”が外れる。


(ここだ――!)


(行くぜ……!)


溜めていた力、抑え込んでいた全てを――解放する。

骨が軋む、筋肉が悲鳴を上げる。

限界の、その先へ地面が砕ける、空気が爆ぜる。

速度が――跳ね上がる。


「――ッ!」

ディヤウの瞳が、初めて大きく開かれる。

(速いッ……!)


先ほどまでとは、別次元。

見えていたはずの動きが、もはや追えない。


その瞬間――ロイドとクリフの背後から、ドンッ!ドヒュンッ!!。

重く、鋭い破裂音、ケイトとリズの矢。

放たれたそれは、一直線にディヤウを射抜く軌道。


(――見えたッ?!)

ディヤウは、それを捉えた。

矢の軌道、速度、到達点すべてを。


(避けるしかないッ!)

身体を無理やり捻る、常識を無視した体勢、それでも、躱す。

矢が、頬を掠める、鎧を削る、直撃は免れる。


——その代償は、あまりにも大きかった。

体勢が崩れる、重心が流れる、反撃不能、防御不能。


完全な“隙”。


(しまっ――)

思考がそこまで到達した瞬間には、もう遅い。


ロイドが踏み込む、一瞬の遅れもなく狙いは――腕。

「はああああッ!!」

振り抜かれる一撃、剣が閃く。


ズバァッ!!


肉と骨を断ち切る感触。

ディヤウの右腕が、宙を舞った。

「グゥッ……!!」


それでも、ディヤウは動く。

残った腕で剣を抜こうとする。


「遅えよ――終わりだ」

クリフが、そこにいた。


ヒュン――一閃。


音すら遅れてやってくる、斬撃は、あまりにも正確だった。

首筋を、寸分違わず捉える。


ディヤウ・フォン・ゼーレンの首が、宙を舞った。


一瞬——時間が止まったかのような錯覚。


ディヤウの表情には――驚愕があった。

それとも、わずかな納得か。


(……なぜだ?)

その問いに、答えはない。


己の方が強い、負けるはずがない、選ばれた存在、そう信じていた。

見誤ったか?

ロイドとクリフの“全力”それは、想定を超えていた。

あるいは、ほんの僅かな油断、そのどちらか。


——もう、確かめる術はない。

ディヤウ・フォン・ゼーレンは、そのまま地に伏した。


「ワハハハハッ!!」

再び響く豪快な笑い声。


ザックが突入してきた。

「いいとこ持っていきやがったなァ!」


皆朱の槍が唸る。

一薙ぎ。帝国兵がまとめて吹き飛ぶ。


続いて――ユキヒョウ、ギャラガ。

さらに各隊が雪崩れ込む。


「遅えぞテメェら!」


「お前が早すぎんだよ!」


軽口を叩きながらも、動きに無駄はない。


一気に戦況が傾く指揮官を失った帝国兵たち。

連携は崩れないが、“目的”が消えている、ただの兵へと成り下がる。


「蹴散らせッ!!」

ザックの一声。

怒涛の攻撃。



やがて――広場に残るのは、静寂と無数の屍。


ロイドはゆっくりと息を吐いた。

クリフが肩をすくめる。


二人の視線が、ディヤウの亡骸に向けられる。

強敵だった間違いなく、その事実だけが、そこにあった。



広場に残ったのは、鉄と血の匂い、そして戦いの余韻だった。

ディヤウ・フォン・ゼーレンが地に伏し、帝国軍の兵士たちもほぼ壊滅。

張り詰めていた緊張が、ようやく僅かに緩む。


その中で、最初に駆け寄ってきたのはリズだった。

「ロイド!怪我はない?!」

息を弾ませ、心配そうに顔を覗き込む。


ロイドは軽く肩を回し、腕を握って確かめる。

「大丈夫だよ」

少しだけ息を吐き、笑みを浮かべる。

「だけど――久々に“本気”を出したよ」


その言葉に、周囲の空気がわずかに変わる。

「本気」——それは彼らにとって、そう簡単に口にするものではない。


「はっ」

クリフが鼻で笑う。

「ありゃあ中々の“もん”だったぜ」

剣を肩に担ぎながら、ディヤウの亡骸をちらりと見る。

「正直、面倒くせえ相手だった」


その言葉に、ユキヒョウが静かに頷く。

「君たちが本気を出す相手か……」

淡々とした口調だが、その目は鋭い。

「僕たちより強いと認識した方がよさそうだね」

決して軽くはない評価。

それだけの存在だったということだ。


「そう思って臨んだ方がいい」

クリフも同意する。

「ケイトとリズの矢を躱したのは、さすがに驚いた」


その言葉に、ケイトがわずかに眉を上げる。

リズも小さく息を呑む。

自分たちの矢を“見て躱した”存在。

それがどれほど異常か、本人たちが一番よく分かっていた。


「……まさか、そんな奴がうじゃうじゃいるとか言わねえだろうな?」

オズワルドが半ば冗談めかして言うが、その声にはわずかな警戒が混じっている。


ロイドは首を横に振った。

「彼は特別だと思うよ」

視線をディヤウへ向ける。

「第三軍副将軍だと言っていたしね」


その一言に、ザックが大きく口を開けて笑った。

「ヒュ~!大物じゃねえか!」

槍を肩に担ぎ、豪快に言い放つ。

「んじゃ次は将軍だな?」

まるで獲物を見つけた猛獣のような目。


「次の戦いはルナイ川流域だな」

ダグが現実的に口を開く。

「帝国軍を追い返さねえと話にならねえ」


これまでの戦いはあくまで前哨戦、本番はこれからだ。


「休む暇もねえな!」

ギャラガが笑いながら槍を振る。


「それも覚悟の上でしょう?」

マリアが肩をすくめる。

その表情に疲労はない。

むしろ、これからを見据えた静かな闘志。


「違いない!」

ロッベンが力強く頷く。


その一言に、一同の空気が軽くなる。

誰かが小さく笑い、それが広がる。

戦場に似つかわしくない、短い笑い声。


ロイドは一歩前に出る。

既に表情は切り替わっていた。

「ラモンさん」

呼びかける。


「おう」

即座に応じるラモン。


「私兵、傭兵たちの中から“盾持ち”と“弓兵”を集めてください」

的確な指示。

この場で必要な戦力を瞬時に見極めている。


「了解!」

ラモンは迷いなく動き出す。


その背を見送りながら、ケイトが口を開いた。

「相手の戦力が集まる前に叩きましょう」

冷静な判断。

「それと――」

一瞬だけ間を置く。

「見極めたうえで、撤退も視野に入れた方がいいわ」


その言葉に、誰も異を唱えない。

無理はしない、勝てる戦いだけをする、それがシャイン傭兵団の在り方。


「うん、その通りだ」

ロイドも頷く。


そしてリズが周囲を見渡しながら言う。

「幸い、今のところ私たちに負傷者はいないわ」

その報告に、わずかな安堵が広がる。


同時に――(それがいつまで続くかは分からない)

誰もが理解している。

戦いはまだ終わっていない、むしろ、ここからが本番。


「行こうか」

ロイドが静かに言う、その声に、全員が頷く。

武器を握り直す音、装備を確かめる仕草、再び、空気が引き締まる。


シャイン傭兵団は、再び動き出す。

戦場は、まだ終わらない。

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