お金持ち見ぃつけた
百合愛は玉の輿に乗る為に、これまで勉学にスポーツに、自分磨きを怠らなかった。授業では常に活躍し続ける百合愛。部活動の勧誘に引っ張りだこで、しかし百合愛は部活動には興味がなかった。
「誰がこの学園で一番の金持ちなんだろう」
百合愛の興味はそれだけで、白金家の存続を懸け、例え女の子に好意がなくとも、金の為の努力を欠かさない。
「ねぇねぇ……百合愛ちゃん。お菓子作ってきたの。良かったら食べて欲しいな」
「ありがとね、桃姫。いま食べると授業で眠くなっちゃうから、家に持って帰ってもいいかな?」
「う、うん! ほんとは今ここで、感想を聞かせて欲しいけど……なんちて……」
心の中で舌打ちすると、呆れたように息衝く百合愛。桃姫の眉が不安げに垂れるが、百合愛はぐいと上体を乗り出した。
「しょうがないね、桃姫は。じゃあ一口食べさせて?」
「わ、私が!?」
「そうだよ。嫌?」
「ううん……! 嫌じゃない!」
手包みの袋からクッキーを一枚取り出すと、百合愛の口に近付ける。次第に高鳴る桃姫の鼓動は、百合愛がぱくと一口、摘まむお菓子ごと指を咥えるものだから、二つ飛びにギアチェンジした。
桃姫の体はエンストして、指を舌で這うようになめられると、びくんと跳ねてこの日も床に卒倒する。
そうして最後には、無邪気にけらけらと笑う百合愛。そうすることでクラスの皆は、百合愛のいじらしい行為は冗談であり悪戯で、恋を知らぬ無垢な少年少女の心のようだと誤解する。
百合愛は誰しもにチャンスを与え、けれど誰にも属さない。そんな百合愛は空に輝く星のようで、届かぬと知りつつも皆がこぞって手を伸ばした。
百合愛が嗅ぎ分けるのは金の匂い。お嬢様たちは無下に金の話を語らない。研ぎ澄まして探る百合愛に、ある日に転機が訪れた。
「あなたが白金百合愛ですわね?」
帰りがけの昇降口で待ち構える、ドリルのように巻いた金髪の美少女。背後には幾人かの女生徒を従える。
「そうだけど、君は誰かな?」
「誰かとは失礼な。わたくし最上級生の天上院 蘭香ですわ」
朗らかな笑みを浮かべる百合愛だが、耳だけはめざとくぴくりと動いた。
「悪いね、知らなかったよ」
「タメ口を止めてくださる? そしてチョーシに乗り過ぎですわ! わたくしがこの学園の輝ける太陽ですの」
「それはすみませんでした。で、何をどうすれば良いでしょう」
蘭香はすっと右足を前に出し、足の甲に向けて指を差す。
「無駄に高い頭を下げて、ここにキスをなさい」
百合愛は一歩踏み出すと腰を折り、得意げにほくそ笑む蘭香だが、息衝く間もなく顔を寄せると、頭一つ下にある蘭香の唇に口づけを交わした。
「ん~~!?」
蘭香の巻き髪はぶわっと逆立つが、キスが続く内に萎れていって、最後にはとろんと力が抜けた。
ゆっくりと顔を離すと、膝から崩れ落ちる蘭香を見下ろし、百合愛は無邪気な微笑みで、あざとく首を傾げてみせた。
「これでいいですかね?」
「は、はひ……」
満足したように頷くと、百合愛はひらひらと手を振って昇降口を後にする。
「天上院か……超有名な財閥じゃんかよ」